第20話 雨垂れ鉄を穿つ
「それでは稽古場があるのでそこまで案内しますね」
受付の案内のもと俺達は移動を開始する。するとあの二人の二等魔法師以外にもう一人、白髪で目元にほくろのある若い男がついてきた。腰には剣を下げている。様子からしてあいつらのツレのようだ。
「お前は戦わないのか? どうせなら剣士とやってみたかったんだが」
「僕はいいよ。負けが見えている勝負はしたくない」
「へえ。あの二人より強いのにか」
「あれ? もしかしてこれ見えてた?」
白髪の男は手を前に出し指輪を見せる。その指輪の宝石は窓から差し込む光を反射して白く美しい輝きを放つ。
「見なくてもわかるさ」
「おっかない。おっかない」
こつこつと足音を鳴らし俺たちは前へ進んだ。
◇ ◇ ◇ ◇
そんなこんなで稽古場に到着。全面石で造られているこのエリアだが天井は吹き抜けとなっており開放的だ。そして石と言ったが歩いてみたこの感じ、ただの石でもなさそうだ。明らかに普通の石より硬い。恐らく魔力で補強でもしているのだろう。
「わかってますかガデロンさんリサさん。ちゃんと手加減してあげるんですよ?」
受付が二等魔法師のガデロンとリサに向けてこそこそと話す。
「もちろん」
「わかってるわよ。少しだけ痛い目を見させて追っ払おうってことでしょ?」
その優しさはわかるがこっちに聴こえないように話してほしかったな。俺はともかくホロスの機嫌が悪くなる。
「痛い目に合うのはこっちかもしれないよ。まあ悪意は感じないからそこまで酷いことはされないと思うけど」
少し笑い、一等魔法師の男がそう告げた。
「どういうことだフェルド?」
名はフェルドというらしい。
「戦えばわかるよガデロン」
◇ ◇ ◇ ◇
「──で、武器は使わなくていいのか?」
俺はガデロンという男と戦うこととなった。そしてこの戦いの次にホロスがリサという女と戦うことになっている。
現在ホロスたちは少し離れた場所にある観覧席のようなところにいる。どうやらそこから俺達の戦いを見届けるらしい。
「俺は肉体そのものが武器だ」
ガデロンは両の拳をガチンと合わせた。
「そうか。じゃあ俺も遠慮せず刀を使っていいな?」
「当然だ」
俺もこいつもやる気は上々。
だが……ところでこれはいつ戦いを始めればいいんだ?
ガデロンも同じことを思ったのか俺達は二人合わせて受付嬢を見た。
「え? あ、私ですか!?」
自身の顔に指を差し、目を丸くする受付嬢。
発起人だろ。他に誰がいるんだ。
「じゃ、じゃあ試合開始~!」
なんかぬるっと始まったな。まあいいか。ガデロンがどんな魔法を使うか気にはなるがここは──
「先手必勝」
俺はガデロンとの距離を一気に詰め刀を振るい、首に当たる直前で寸止めした。
「俺の勝ちでいいか?」
「驚いた。随分と速い。だが──」
ガデロンが素手で「千偽理」を掴むと自身の首に押し付けた。するとガキンと金属と金属が衝突したような音が鳴り響く。
「勝ちを宣言するのも早いんじゃないか?」
これは──
「これがお前の使う魔法か」
「そうだ。俺は全身を鋼鉄の如く硬質化させる魔法を使って戦う」
なるほど。確かにこれは全身が武器。
「刀じゃ俺には勝てねえぞ」
──さて、この勝負。どう戦うのが正解か。
「次の手がないなら今度は俺からいくぞ」
ガデロンは「千偽理」を離し拳による攻撃を仕掛ける。一見ただのパンチであるがその拳は鋼鉄そのもの。さらに魔力で身体強化をすることでそこにスピードも乗っかってきている。
「攻守のバランスに優れた良い魔法を使う」
その拳はエインの顔に当たるすんでのところで止まった。
「……お前、今のは避けられなかったのか? それとも避けるつもりがなかったのか?」
「後者だ。これでおあいこだろう」
「おもしろい。ただの強がりでもなさそうだ」
ガデロンは拳をエインの顔から離し、にやりと笑った。
「次からはちゃんと当てにきていいぞ。俺もそうする」
「いいのか? だったら──」
ガデロンは腕に魔力を集め──
「遠慮なくッ!!」
両腕でラッシュを開始した。
「“迎梔子”」
エインは先の魔鳥ガルグとの戦いでも見せた“迎梔子”にて迎え撃つ。この技は自身に向かれた攻撃を正確無比に叩き落とす守りの剣技。
鉄と鉄の邂逅。稽古場に甲高い音が何度も何度も響き渡る。
「ハァ…ハァ… お前本当に魔力ないのか…!?」
ガデロンのラッシュはまだ続いている。
「見ればわかるだろ」
「わかるからこそ困惑している…!」
──俺の渾身のラッシュを身体強化もなしに息一つ切らさず捌くとは…!
「フェルドの言っていた意味がわかったよ!」
ラッシュが止まり拳と刀が交わる。次の瞬間ガデロンの拳に魔力が集まる──
「…!」
エインはこれを察知。
ガデロンの拳を中心に大気が揺らぐ。
「“鋼鉄砲”!!」
鋼鉄の拳から強力な魔力の衝撃波が放たれた。しかし──
「“流水仙”」
流水の如く刀が揺らめく。衝撃波が自身に届くその前にエインはガデロンの腕ごと受け流していた。
ガデロンの拳が受け流された先にある石作りの床に当たると、雷鳴にも似た音を出し衝撃波が炸裂する。そこには大きなひびが入っていた。
「ちょっとガデロン! 流石にそれはやりすぎよ!」
外野にいるもう一人の二等魔法師、リサがその光景を見て焦ったように声をあげる。
「やりすぎ? そんなことはない。現に今のも捌かれた。リサももうわかっているだろう? こいつは庇護すべき弱者ではない──」
ガデロンはリサに向けていた目を再びエインへ向ける。
「──本物の強者だ」
その眼差しは例え言葉にしなくとも、エインを認めたと伝えるに充分すぎるほど熱いものだった。
「お褒め頂き光栄だ。それで、まだやるか?」
「当然! 勝負はこれから!」
ガデロンは再び両の拳をガチンと合わせてからラッシュを開始する。エインもそれに合わせ迎撃を再開。そして斬撃は加速する──
「…ッ!」
こいつ…! 俺の拳をはじくどころか俺の動きそのものを……!
加速を続けるエインの斬撃はガデロンの攻撃を防ぐだけに留まらず動きそのものを封じ込めるまでに至っていた。ガデロンが右腕を動かそうとすればその前に右腕を、左腕なら左腕を、同じように右足、左足も動きだす前に刀で叩き全ての動きを封じ込める。
──もがけばもがくほど…! もはや身動き一つとれねェ…! まるで激流の中に飲み込まれたみたいだ…!
次の瞬間、稽古場に今日一番の金属音が鳴り響いた──
「俺の勝ちでいいか?」
「千偽理」はガデロンの首元に。刃は外側、首には峰が向いている。
「……ああ── 俺の負けだ」
負けを認めたのにもかかわらずその顔は驚くほどに晴々していた。
第20話 雨垂れ鉄を穿つ




