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第2話 「千年だ」

 何時間経っただろうか。逃がされた俺はまだ森の中にいる。地面に転がる石や木の根につまずき何度も転んだ。痛みを感じるたびにみんなの顔を思い出したがそれでも引き返すことなく前に進んだ。


 しばらく進むとそこには崖があった。

 その崖に沿うように祠のようなものがあった。

 

 だからなんだ。そんなものにかまっている暇はない。そう思っていたが。


 無意識に、吸い寄せられるように、そこに近づいていた。

 祠の周囲はひらけており、木々の隙間から空が見れた。


 煙が上がっている。


 そこは村のある方向だった。


 ずっと堪えていたこの感情がついに溢れ出てしまう。

 

「クソォ…!! クソォ…っ!! 俺に……俺に魔力さえあれば……!」


 せめてみんなと戦えたのに、そう嘆き膝を立てて倒れこんだ。そして八つ当たりするように地面に手を叩きつける。


 しかし叩きつけたその手を見て思い出すは村長の言葉。


 ──震えたその手で何が握れる


 震えるその手を抑えるように再び地面を叩きつける。


「なにが魔力がないだ…っ!! なにが邪魔をするだ…っ!! そんなの全部、全部言い訳だ!!」


 魔力がないから戦えなかったのではない。勇気がないから戦えなかったのだ。そんなことに気付いても今更遅い。


 こんなことをしても意味がないのは分かっている。だけど身体に力が入らなくて、自分一人で生き残って意味があるのだろうか? そんなことさえ思ってしまった。


 気付けば雨が降っていた。沈む心に更に追い打ちをかけられた気分だ。俺は天すらも憎んだ。


 それでも託された命。意味があろうとなかろうと生き延びねば申し訳が立たない。俺はやっとの思いで立ち上がる。


 その瞬間。


『力が欲しいか』


 声が聴こえた。

 それは鈴の音のように美しい女性の声。と同時に氷のように冷たくも感じる不思議な声だった。しかしその声など些末なものだ。目の前には信じられない光景が広がっていたのだから。


 ──雨が止まっていた。止んでいたのではない。止まっていた。


 雨粒の一粒一粒が宙に浮き留まっている。


「だ、誰だ…っ! なんなんだこれはっ……!? 魔法なのか!?」


 俺は辺りを見渡し警戒する。


『そう怯える必要はない。敵ではないのだから』


 周囲には誰もいない。それにこの妙な感覚……


『気付いたようだな。私は君の脳内に直接呼びかけている』


「お前は一体誰なんだ! なぜ俺に話しかけた!」


 声を荒げた。怒りをぶつけるように。これも八つ当たりだ。わかっている。それでも声を荒げずにはいられなかった。


『“なぜ”か。答えは簡単、君が力を求めていたから。そして私は力を求めるモノを求めている』


「違う!! 俺が求めたのは力ではなく勇気だ!!」


『違わない。勇気とはすなわち力だ。力なき勇気は蛮勇となる』


 風が木々を揺らした。


『最初の問いに戻そう。力が欲しいか。いらないのであればここを立ち去りなさい。欲しいのなら祠に手をかざしなさい』


 「力」が欲しいか、か。魔力のない俺が欲してどうなる。だけど──!


 脳裏に浮かんだのは村民(みんな)の顔。


「欲しい! 魔族に立ち向かう “勇気”が! “力”が!!」


 俺は祠に手をかざした。次の瞬間祠を中心に辺り一帯が輝き出し俺はおもわず目を瞑る。


 目を開けるとここは森ではなくなっていた。白く、そして何もない空間がただ広がっている。


「ようこそ。力を求めしモノよ。ここは世界と世界の狭間。名前は特にない。好きに呼ぶといい」


 後ろから声が聴こえた。先ほど聴こえた声と同じだ。


 振り向くとひとりの女性が立っていた。透き通るような肌に眩しいくらいの金の髪。それが腰近くまで伸びていて、その眩しい髪を引き立たせるようにゆったりとした白いロングドレスを身にまとっている。

 そんな見惚れるほどに美しい女性がそこにはいた。


「どうしたんだい? 呆けたツラをして。ああ、そうだった。『なぜ?』という問いには答えたが『誰?』という問いにはまだ答えていなかった」


 俺はいまだこの状況を掴めてない。


「私の名はホロス・ホロ・ホロウノス。この世界の女神さ」


「め…女神……?」


「信じられないかい? まあ今はいい。いずれ信じることになる」


 女神だって? そんなもの本の中だけの存在だと思っていたがこの状況、そしてこの存在感。これは──


「いや、いま信じる」


 無力な俺が足踏みする時間はない。


「理解が早くて助かるよ。じゃあ早速本題だ。力を授けよう」


「俺は何を差し出せばいい」


 代価もなしに力を得られるわけがない。だがいい、どんなものだって差し出してやる。


「ふーむ。代価なんて特にないんだけどな。ああ、いや、これはある意味代価と言えるか」


 女神はひとりで結論付けると俺に指を差した。


「君はこれからここで千年戦うことになる」


「は!?」


 俺の驚く声にかまうことなく女神は言葉を続けた。


「だから君が力を得るための代価は──」



    第2話 「千年だ」



もとはこれが1話のラストでしたが長くなってしまったので分割して2話目にしました。

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