第18話 選択
「……もしかしてホロスさんって女神ですか…?」
俺とホロスは顔を見合わせた。
「は? え? なに? めがっ…女神? 私が? そっ…そんなわけないでしょ?」
狼狽えすぎだろホロス……。
「いやでも魔族がホロウノスって……。オレ、ホロウノスっていう名前の神がいると昔聞いたことが……」
「めっ…女神がこんなところにいるわけないでしょう。……それに女神がこんな…こんな子供の姿なわけ…ないじゃない……」
歯を食いしばりながらホロスはそう言う。
言い訳のために言った言葉で自分にダメージ与えてないか?
まあ前の姿気に入ってそうだったし思うところがあるのだろう。俺もまだその姿には慣れてないし。
「そ……それも気になってたんですよ! 子供がこんな魔法を上手く使えるなんて。ホロスさんは才能だって言ってましたけどそれだけじゃ片付けられないと思うんです! それこそ回復魔法なんて高等技術、才能のある大人でもなかなかできませんよ!」
「ぬぐぐ……」
ぬぐぐって言ったぞコイツ。仕方ない、助け舟を出してやるか。
「作戦タイム入ります」
俺はホロスを連れてリヒトのもとを離れた。
──いやこれ余計怪しいかもな。
◇ ◇ ◇ ◇
「やばっ…やばいわよエインっ! バレっ…バレそうだわ……っ!」
バレそうというかもうバレてるまであると思うが……。
「というかなんで女神だとバレちゃダメなんだっけ」
今更ながら素朴な疑問を投げかけた。
いやまぁ俺もダメなことくらい分かっているがホロスの見解も聞いておきたい。
「それは周りの人間が混乱するからでしょうよ! 往来を闊歩する女神なんて前代未聞よ!」
確かに。それにいるのか知らないがコイツを信奉する信者が今のホロスの姿を見たら幻滅するかもしれないしな。
「そうだな。それに今日ホロスを女神ホロウノスとして狙ってきた魔族も来たし目立つようなことはあまりよくないか」
「そうよ! 私たちを狙うだけならまだいいけど関係のない周りの人間まで巻き込む可能性だってあるし……」
「それで言うとリヒトは今回巻き込まれた側だな」
そう、既に巻き込んでしまってるんだよな。それにホロスの正体にも勘づいている。だったら……
「これもう話したほうがよくないか。だって──」
俺は何故そう思ったのか理由を話した。
「え~、いや、う~ん……。まぁ一理あるかしら。でも……」
「まあ最終的に決めるのはホロス自身だ。俺が勝手に話すのは違うしな」
ホロスはしばらく頭を抱えて悩んだ。そして──
◇ ◇ ◇ ◇
「──というわけで私が女神ホロス・ホロ・ホロウノスというわけよ! ちゃんと崇めるのよ!」
話した。それはもう軽快に。
「自分で聞いといてなんですけど本当なんですかエインさん」
「ああ、本当だ」
「ちょっとなんで私じゃなくてエインに確認取るのよ!!?」
話してる姿が女神っぽくなかったからじゃないですかね。
「え…? じゃあもしかしてオレ、女神様を一度魔族扱いしたことになります……?」
リヒトの顔は途端に青ざめた。そういえばそんなこともあったな。
「そういうことになるな。でも気にしなくていいぞ」
「それを決めるのは私なんですけど!?」
なんだよ。別に大して気にしてなかっただろ。
「……いやちょっと待ってください。……じゃあもしかしてエインさんも神様だったりします…?」
リヒトはそっと俺の顔を覗く。なんでそういう結論になったんだか。
「いや全然。俺は正真正銘ただの人間」
「それはそれでなんかおかしい気が……」
納得がいかないようでリヒトは訝しむ。
だがおかしいと言われても俺が人間なのは紛れもない事実だ。
と、改めてそう言おうとすると。
「あなたがただの人間なわけないでしょ! 千年間私が鍛えてあげたんだから!!」
ホロスが急に割り込んできた。どうやら俺の言葉に不服があったようだ。
「え? え? せんっ…えっ?」
随分と混乱しているな。まあホロスに話させて俺だけ話さないっていうのも違うか。
「──というわけで俺は確かに千年戦ったけど人間という部分には間違いはない」
話した。それはもう完璧に。
「……ど…どこがただの人間ですかっ!! 千年戦い続けられる人がただの人間なわけないでしょう!!」
「いやでも休み休みでだぞ」
「それでもですよ!! というか死にながらだったんでしょう!?」
なぜ今俺は責められるような言い方をされているのだろうか。
「いや……でもわかりました。というか腑に落ちました。そりゃあお二人とも強いわけですよ……」
「わかってくれたのならよかった。で、ここからが本題なんだが」
「え? 今のが本題じゃないことあります?」
悪いがあるんだ。
リヒトも言いたいことがいろいろとあるだろうがここは一方的に話させてもらう。
「俺とホロスは何故か魔族に狙われています」
「はい……」
「理由は不明だが少なくともホロスが女神だからということは関係してそうです」
「はい……」
「それであなたはホロスが女神だということに気が付いてしまいました」
「えっ?」
「女神の存在に気が付いたあなたはもしかしたら俺達に関する情報源としてこれから魔族に狙われるかもしれません」
「えっ…?」
「正直すまんかったと思ってる」
「ええ~~っ!!」
いや本当に。目的地一緒だから同行してただけなのにこんなことになるとは。迂闊だったな。
「しらを切るかどうか迷ったんだが勘づかれている以上既にリスクはあると思って話すことにしたんだ」
「な…なるほど……」
「だからこれからリヒトが取る選択は俺達の存在を誰にも話さない。可能ならここ数日の出来事を忘れてもらう。もしくは……」
俺が話している途中でホロスが身を乗り出し……
「いっそのこと私たちの旅についてくる! このどっちかね!」
元気よくそう言った。
「……ちなみにお二人の旅の目的ってたしか魔王討伐でしたよね」
「そうだ」
正直自分でも無茶は言ってると思っている。だがホロスの正体に勘づいた奴をほっとくのは俺達にとってもリスクが大きい。リヒトが言いふらしたりするタイプではないとはわかっているが可能な限りリスクは減らしておきたい。
しばしの沈黙。熟考しているのだろう。俺とホロスはそれを静かに見守った。
そして、リヒトの口が開く。
「──オレ、二人の旅についていきたいです」
「……いいのか?」
「オレはお二人のおかげで兄の仇をとることができました。本当に感謝しているんです。だからオレは少しでもお二人の役に立つほうを選びたい」
リヒトは俺達を真っ直ぐと見た。その言葉は気まぐれでもなんでもなく心からのものなのだろう。リヒトとはまだ数日の付き合いだがこれくらいはもうわかる。
しかし……俺のほうは気まぐれで稽古をつけてやっただけなんだがな。ただその才能をほったらかしにするのが少しもったいないと思っただけで。ホロスも多分似たようなものだろう。
ただ、こうなったからには……
「ふっ…そうか。じゃあ今から俺達は同じパーティーだ」
ちゃんと迎え入れなきゃな。
「はいっ!! よろしくお願いします!! エインさん! ホロスさん!」
第18話 選択
◇ ◇ ◇ ◇
「あのちなみにここ数日の出来事を忘れてもらうって何か具体的な方法があったんですか? あっ! ホロスさんがそういう魔法使えるとか!」
「そんなの使えないわよ」
「その場合俺がリヒトの頭を思いっきりぶん殴って記憶を失わせにいってたな」
「あ…あぶね~……」




