第17話 考察
「ホロス回復」
「わかってるわよ」
エインとホロスはハーベルとリヒトの戦いの決着がつくその瞬間を見届けていた。
そして大量の血を流し気絶しているリヒトのもとへ駆けつける。
「全くひやひやしたわよ」
「でもちゃんと勝っただろ」
「本当にギリギリね」
ホロスはリヒトの腹に回復魔法を使用するとみるみるうちに出血が止まり、傷も塞がり始めた。
「よし。大丈夫そうだな。じゃあ俺は……」
それを確認したエインは立ち上がる。そしてホロスとリヒトから離れていき……
「魔族。ハーベルと言ったか? お前に聞きたいことがある」
エインはハーベルに刃を向けた。
「……この死にかけの老いぼれに何か用でも……?」
「死にかけの割には随分と話せるじゃないか」
「頑丈さが取り柄ゆえ…」
「そうか。まあ今は都合がいい。何故ホロスの正体に気付いた。何故俺のことを知っている」
「…………」
ハーベルの口は動かない。
「質問を変える。何故俺達を狙った。あの鳥に殺すなと命じていたな。どういうことだ?」
「それは…お前たちの力が必要だからだ」
「どういう意味だ」
エインは刀に力を込める。話さなければその首を斬り落とす、そういう意思表示だ。
「この世界は…っ、停滞している……!」
今まで平静を装っていたハーベルの口調が乱れる。それは恐怖からではなく怒りにも似た感情から出た言葉にも感じる。
「新たな力が必要なんだ! 女神であるホロウノス……ごフッ…! そして……」
ハーベルは吐血をしながらも言葉を続ける。
「魔力を保持していないお前の存在がっ!!」
ハーベルは言葉を強めた。
が、次の瞬間。
「お前が新たに…ぎッ…!」
「……!?」
ハーベルの体表にひびが走る。
「ホロス! “盾”だ!!」
「!? わかったわ!」
直後ハーベルを中心に爆発が起こった。
「……結局まともに話が聞けなかった」
どころか謎が増えたな。
まだ煙は完全に晴れてはいない。が、その中に佇みながらエインは考える。
──魔王の居場所…は結局聞きそびれた。そもそも最初に聞いた時の言葉はどういう意味だ? 「どっち」と言っていたな。魔王は一人じゃないのか? それに俺達を狙う意味……。ホロスを狙うのはまだわかる。女神の力になんらかの利用価値を見出すのは理解できる。だが俺を狙う意味は……
「ダメだ。わからん」
煙が晴れる──
「エイ~ン! 無事~?」
少し離れたところからホロスの呼びかける声が聞こえてきた。
「おかげさまで」
エインは納刀をし、再びホロスたちのもとへと戻る。その身体には傷ひとつ付いていなかった。
「あの魔族が話している途中、あの魔族とは違う魔力の干渉があったわ」
「……口封じか」
組織的な動きなのは間違いなさそうだな。
「そうだホロス。魔王って一人じゃないのか?」
「私の知ってる限り魔王と呼ばれる存在は異世界から呼んだ人間一人のはずよ。いや、一応先代の魔王もいたけどあれは現魔王が倒したから関係ないはず。……この千年間で一体何があったのかしら……」
ホロスも心当たりはない、か……
「じゃあもう考えても仕方ないな。リヒトの容態はどうだ?」
「完璧よ! あとは目覚めるのを待つだけだわ」
「流石女神様」
「もっと褒めてもいいのよ!」
◇ ◇ ◇ ◇
数時間後──
「──やっぱり私はワンピースは空島にあると思うのよね!」
「そうか? 俺は海底にある説を押すが」
「いや過去回想的には──」
俺達は暇だからもう読むことのできない異世界の物語の考察をしていた。ちなみに「狭間」は異世界とも時間の流れが違うようでその物語を最後まで読むことはできなかった。
「……うあ…、なんの話してるんスか……」
そんな話をしていた途中で先ほどまで寝ていたリヒトが目を擦りながら話しかけてきた。
「あ、起きた」
「寝すぎなのよ」
空はすっかり暗くなっている。今日中にズウェルテに着きたかったがそれは明日に持ち越しとなりそうだ。
「すみません……ってあれ!? 魔族は!? というか腹……あれ!?」
リヒトは混乱しているようで何度も自らの腹を確認している。まあ死にかけたんだ、それも仕方のないことだろう。
「……夢?」
おお、そういう結論に至ったか。
「大丈夫夢じゃないぞ。魔族はちゃんとお前が倒したし腹の傷はホロスが治した」
「えっ…あっ! ホロスさんありがとうございます!」
「ふふん。私にかかればあんな傷ちょいっとやってそいっよ!」
ホロスはリヒトからの礼を聞いて満足気にしている。
「それにエインさんもありがとうございます」
「俺か? 俺は何もやってないが」
「エインさんとホロスさんに戦い方を教わったことで勝てたんです。だからお二人ともありがとうございました」
リヒトは俺達に向けて深々と頭を下げた。
その姿を見た俺とホロスは顔を見合わせる。
「……ま、礼は素直に受け取っておくか。それにしても良かったな。仇だったんだろ?」
「はい……本当に良かったです……本当に……」
リヒトは噛み締めるように言葉を吐き出し、弓を握りしめていた。
俺達はただそれを眺めていた。
しばらくの間沈黙が続く。
が、しかし……
「それで……その……」
その沈黙を破ったのはリヒト自身であった。
「あの…気になったことがあって……。ちょっとホロスさんに尋ねたいことがあるんですけど…いいですか…?」
「急ね。まあいいわよ」
「…あの……もしかしてホロスさんって女神ですか…?」
俺達は顔を見合わせた──
第17話 考察




