第15話 足元にご注意ください
「とは言ったものの、俺飛行型の相手は苦手なんだがな」
「でしょうね?! 知ってるわよ!! 普通は弓を使うリヒトが鳥と戦うべきなんだって!!」
ホロスは上空に指を差し文句を言いながら髪を揺らす。
その言葉は正論だとエインは思っていた。
しかしエインの考えはこうだ。
何の因果か因縁の相手が突然現れた。ならば自分の手で戦わなければ死んでも生きても後悔する。だったら自身にできることは二人の勝負に横槍を入れさせないことだけだと。
自分の実体験と重ね合わせていたのだ。
「ガルグ、少しその二人の相手をしてやりなさい。だが殺すなよ」
「キィーッ!!」
ガルグと呼ばれる魔物はひげの魔族の言葉に返事をするように鳴いた。
そして風を纏わせた大量の羽根を放つ。空を切り裂き暴風雨のように降り注ぎ、可視化された風がエインたちに襲い掛かる。まるでそれは意思を持った災害。
「ちゃんと遠距離攻撃持ちか。厄介だな」
「だから言ったでしょう」
「まあなんとかなるだろ」
エインは刀を抜き、ホロスは手を前にかざす。
「“迎梔子”」
「“盾”」
多くの敵対者たちを屠ってきたこの攻撃。連携の取れた歴戦のパーティであってもこれを捌くのは至難の業。しかしエイン達はなんのその、易々とはじく。
「というかあの魔物初めて見たな」
「多分この千年間で変異した魔物ね。『狭間』では私が封印される前の魔物しか再現できなかったから」
「へえ、そんなのもいるのか」
二人は引き続き攻撃をさばきながら会話を続ける。
「しかしどうしたもんか。魔力切れまで粘ってもいいんだがあまり時間は掛けたくない。…ホロス、あの閉じ込めるやつ使えるか?」
「閉じ込めるやつ」とは随分と適当な呼び方をする。そうホロスは思ったが断わる理由もなし、素直に魔法を唱える。
「“密閉”」
しかし魔力の起こりを察知したガルグは急加速、空中にて回避した。
「ダメね。あいつもあなたと同じで勘がいいタイプみたい」
「そうか……」
「あっ! いま使えねーって思ったでしょ!!」
「思ってない。ただ当てられないのかと思っただけだ」
「一緒よ!! ちょっと『千偽理』貸しなさい! 私の本気見せてあげるから!!」
ホロスが「千偽理」に触れると「千偽理」は白く発光、ホロスと共に光に包まれ次の瞬間──
「……!? ホロス!? どこいったんだ!?」
ホロスはエインの目の前から消えていた──
『ここよ。ここ』
「いやどこだよ」
姿は見えないのに声は聴こえる。遠くにいるようにも感じるしものすごく近くにいるようにも感じる。摩訶不思議な感覚をエインは体験していた。
『千偽理の中よ。やっぱりできた。これは私の“分け身”だから一時的な同化ならできると思ったのよ』
千偽理との一時的な同化。そんなことができたのかとエインは驚く。と、同時にこんなことも思っていた。
凄いとは思う、思うがしかし、これで状況は好転してるのか?
と。
しかしそんな考えをホロスは見透かす。その疑問に対する答えをホロスは持ち合わせていた。
『私この状態でも魔法使えるわよ』
「……! なるほどな」
エインとホロスはガルグの存在なんて忘れているかのように言葉を交わす。
そんな様子に苛立ちながらもガルグはここぞとばかりに羽根を飛ばし攻撃をしかけた。先ほどまではエインとホロス両名に放っていた攻撃をエイン一人に向かって集中的に放つ。
捌ききれなどできやしない、そう自信を持って放ったそれがどれだけ甘いモノだったか次の瞬間思い知ることとなる。
エインの口が僅かに動いた。
「『“盾”』」
二人の声は重なり盾は展開された。そしてその盾がガルグの攻撃を防ぐ──
──のではなく
「空中散歩としゃれこみますか」
盾は空中にまばらに配置されそれを足場にエインは空を駆け上がった。
「魔法使いになった気分だ」
『魔法は私の意思でしか発動できないけどね』
依然としてエインの肉体に魔力は通っていない。しかし盾はエインの意思通りに発動する。それはホロスが寸分の狂いもなくエインの意思を汲み取った結果によるもの。
千年の積み重ね── それが二人の想いを一致させた──
「ははっ、空は広いなあ! ホロス!」
エインはガルグの攻撃を避けながら天を舞う──
『そうね! エイン!』
二人はガルグを見つめ
「独り占めは卑怯だな」
『独り占めは卑怯よね』
想いと共に声も重なる。
ガルグはその姿に気圧されるも必死に攻撃を続ける。
だがその全てをエインは叩き落とす。盾はあくまでも足場。エインはガルグとの距離を大きく詰める。
「見上げる経験は初めてか?」
エインは既にガルグの頭上にまで迫っていた。その距離はエインの攻撃圏内。千偽理の届く距離。高所というアドバンテージを取ったエインはそのまま盾を蹴飛ばし千偽理を振り下ろす。しかし──
「……!」
しかし天空の覇者ガルグ。それを紙一重で躱す。攻撃が空ぶったエインは地上への落下を始めた。その姿を見たガルグは笑みにも似た表情を浮かべる。
それが仮初の勝機だとも気が付かず。
『“盾”』
直後生成されるはガルグのすぐ下。
「顔を上げてくれて助かるよ」
“椿鬼”──
「おかげで首が斬りやすい」
落下を始めたエインであったがガルグのすぐ下に生成された盾を足場とし斬撃を放った。
首を斬り落とされたガルグは地上への落下を終える前に塵となり消える。空にきらきらと魔力の粒子が漂った。
「無事ノーダメ勝利と。さてリヒトの方は……」
エインは盾に乗ったままリヒトの様子を伺おうと下を覗く。
『…あの…エイン……。言いづらいんだけど私この状態そろそろ限界かも……』
「ちょっ…!? ちょっと待て! まだ盾は解くなよ! この高さは流石にまずい…!」
『ああ、やばい、限界』
「すぐ降りるからもう少しだけ我慢してくれ!!」
第15話 足元にご注意ください




