第14話「天才だ」
──はっきり言ってエインさんは化け物だ。今だってそう。なんで目を瞑りこの一歩半にも満たない円の内側から出ないというハンデをもらって尚、一撃も入れられない…!?
エインはそこらへんで拾ったいい感じの木の棒を使いリヒトに稽古をつけている。
「遅い」
避ける。
「動きが直線的」
受け流す。
「相手の動きをよく見ろ」
「うぐっ……!!」
エインはリヒトの攻撃をひらりと躱し腹に一撃喰らわせた。リヒトはおもわず腹を抱えうずくまる。
「……一旦休憩にするか。ホロス、一応回復してやってくれ」
「はーい。全くリヒトも情けないわねえ。このくらいで根を上げるなんて」
「ね…根は上げてないッス……」
と言ってはみたもののやせ我慢にしか見えてないだろうな……。
「ああそうだホロス。悪いな毎度千偽理預かってもらって」
ホロスは手に持った「千偽理」をじっと見つめる。一体何を思っているのだろうか。
「…いいわよ、別にこのくらい」
エインは稽古中うっかりリヒトを斬ってしまわないようホロスに「千偽理」を預けていた。
「それにしても思ったより遠いな。もう歩いて3日目だぞ」
これはホロスに出会わなかったら結局ズウェルテに着く前に野垂れ死んでた可能性が高い。そう考えるとあれはやっぱり奇跡的な出会いだったんだな。
「そうッスね……。でももう半日も歩けば着きますよ……」
リヒトはホロスに回復してもらいながら言葉を返す。
「そうか」
そう一言返事をしてエインは思う。
──はっきり言ってリヒトは天才だ。この3日間でどれほど成長した? あの感覚。さっき腹に入れた一撃も咄嗟に腹に魔力を集中させてガードしてたな。自分の才能を自覚した途端これほど早く成長するとは。天才としか言いようがない。
◇ ◇ ◇ ◇
休憩も終わり──
「それじゃあそろそろ行くか。今日中にはズウェルテに着きたいしな」
「うっす!!」
「エイ~ン。肩車して~!」
「いいぞ……と言いたいところだが来客だ。また今度な」
エインは青く澄み渡った空を見上げる。そこには本来あるはずのない影がぽつり。
「なんだ? ガキしかいないではないか。本当にこの中にホロウノスはいるのか?」
大空を羽ばたく大型の鳥の魔物とそれに乗った白いひげを蓄え貴族のような仰々しい衣を身にまとった魔族がそこにはいた。その魔族は自身のひげを触りながらエインたちを見下ろしている。
そして魔族は降り立った。相当な高度から落ちたはずにも関わらず、不思議なことにまったく砂埃は立っていない。
「ふむ。なるほど」
その魔族の顔を見たリヒトの顔は歪む。
「わざわざ降りてくれるなんて随分と親切なんだな」
それよりもコイツ、ホロウノスと言ったか?
「ああ、確かめたいことがあったのでな」
「それは奇遇だな。確かめたいことなら俺にもある」
エインは魔族を静かに睨みつける。
「おい、魔王は今どこにいる」
「それはどっちのだ?」
「……どういう意味だ」
「本当になにも知らないのだな」
魔族はため息ののち呆れるようにそう言った。
「ではこちらも伺おう。ホロウノスはそこの金髪のガキだな。よく見たら魔力が異質だ」
「さあ~? 一体なんのことかしら」
「しらを切っても誤魔化せんぞ。情報通り魔力のないガキもいるしな」
俺のことも知っているのか。一体なんだ? この魔族は。
「残りの男は……。知らんな。ふむ、お前は殺してよかろう」
魔族は手に土でできた槍を出現させ──
「“土槍”」
リヒト目掛けて投擲。その槍は空気を切り裂きながら真っ直ぐと突き進む。
「──いいわけないだろ」
エインは魔法の射線に割り込み「千偽理」にて受け流す。土の槍はわきに逸れ、近くに生えていた木に突き刺さり止まった。
「下がっていろリヒト。ここは俺がやる」
エインはリヒトの様子は確認するため振り返った。きっと怯えているだろう、そう思っていたエインだったがリヒトの表情は予想外のもので……
「エインさん……。正直いまの状況、オレはよく理解できてないッス」
リヒトは弓を強く握りしめている。
「でもこれだけはわかります……ッ! あいつはオレの兄を殺した魔族だ……!!」
その表情は怒りに満ちていた。
「おい魔族!! この弓に見覚えはないか!! これは元々兄が使っていたモノだ!!」
リヒトは魔族に見せるように叫びながら弓を前にかざした。
「知らんな。そんなパッとしない弓。きっと持ち主もパッとしていなかったのだろう。覚えていられるはずもなし」
「………ッ! エインさん……。あの魔族オレにやらせてくれませんか」
「ああ、いいぞ」
「ちょっとエイン! あの子に魔族はまだ早いわよ!」
「──そうだぞ。女神の忠告は聞いとくものだ」
会話に割り込み魔族はリヒトとの距離を一気に詰めて殴り飛ばした。
速ぇ……。痛ぇ……。でも──
「“炎矢”ッ!!」
エインさんのほうがもっと圧があった……!!
「“土壁”」
魔族が地面に手を置き魔力を通すと地面は大きくせりあがりリヒトの放った炎の矢を止める。
「ふむ。殺すつもりで殴ったのだがな。まあいい、自己紹介の時間ができたと思えば」
白いひげを蓄えた魔族はまるで主に仕える執事のように深々と頭を下げる。
「我が名はハーベル。干害のハーベル。別に覚えなくてもよいぞ。すぐ死ぬのだから」
「オレの名はリヒト。覚えておけ。そして地獄で咀嚼しろ」
エインは空を飛ぶ魔物を見る。
「じゃあ俺らはあいつを相手するか」
「本当にいいのエイン!?」
「仇討ち。男の勝負。水を差すのは無粋だろう」
「でも……」
「それに俺はあいつが負けるとは微塵も思っていない。だってあいつは──」
第14話 「天才だ」




