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第10話 矢が降っても地は固まる

「おい! 隠れてないで出てきたらどうだ」


 俺は感じ取った気配に向けて呼びかける。すると怯えた様子で弓を構える男が出てきた。年齢は見たとこ20前後といったところか。


「俺達に敵意はないからその弓を下げてくれないか」


「お…お前だって…その剣持ったまんまだろ……! こっちだけ下げられるか…!」


 しまった。納刀がまだだった。そのせいで無駄に怯えさせてしまったのか。


「悪かった。今しまう」


「う…動くなァ……ッ!!」


 どっちなんだよ。


「めんどくさいわね」


「言ってやるな」


 俺達は小声で話し合う。


「おっかないんだよお前たち!! ちっこいほうは物騒な魔法使うし、お前は魔力ないのにやたらと強いしよォ…!」


 やはりそこから見られていたか。厄介なことになったな。しかしやましいことをしていたわけではない。説明すればわかってもらえるだろう。だがホロスの正体とあの千年間のことは伏せておくか。余計話がこじれそうだ。


「オレは壊滅させられた村を見たんだ…! 痕跡から見て魔族の仕業だ…! お前らがそうなんじゃねぇのか…! 魔族には人間に化ける奴も魔力を隠すのも上手い奴もいると聞いたことがある…!!」


 本格的にめんどくさい勘違いをされてしまったな。しかし──


「魔族だと思われてますよ女神様」


「うるっさいわねー。あいつの見る目がないのよ」


 女神が魔族と間違われるのはなかなかに面白い状況だ。


「さっきっからお前らなにひそひそと話してンだよ!!」


「はぁ……。俺達は人間だ。信じてくれ」


「ほ…本当だろうな……?」


「ああ、本当だ」


 すまん。一人は女神だから半分嘘だ。


「だったらその剣地面に置けよ…! 危なっかしいンだよ!!」


 なるほどそうきたか。だがこればっかりは──


「無理だ。これは大事なものなんだ」


 俺は『千偽理(ちぎり)』と千年間戦い抜いた。だから簡単に手放すような真似はしたくない。……それにこれはホロスの“分け身”でもあるからな。

 俺はホロスをちらりと見る。


「なんだその顔」


「べつに~」


 ホロスは妙な表情で俺を見ていた。何を思っているんだか。


「やっぱりやましいことがあるんだろ!! もう撃つ! 撃つからな!!」


「あ~あ、どうするのよエイン」


「殺すわけにもいかないからな。ある意味魔族より厄介かもしれない」


 などと話してるあいだに男の持つ弓の弦が限界までしなる。そして──


「仕方ないわね。私が──」


「いや、俺がやる」


「わかってる?」


「ああ、穏便に、だろ」


 ──放たれる!!

 ゴブリンのより速いな。魔力を纏わせているからか。だが問題ない。


 俺は刀をそっと前に突き出す。

 そして刀の切先(きっさき)を放たれた矢の矢じりに沿うようにぶつけた。

 火花が飛び散る。

 その飛び散る火花に比例して威力が減衰。速度も落ちる。


 俺は矢が地面に落ちるのを待たずに左手で掴み取った。


「ほら落とし物だ。受け取れ」


 次いで弓を持った男の足元に掴み取った矢を放り投げる。

 しかしその男は矢を回収する様子もなく俺を見続けている。


「な…な…なんなんだよお前ッ!! おかしいだろ今のは!!」


 人の親切心をおかしい呼ばわりするとはな。まあいい。今のうちに納刀しといてやるか。


「こんなの人間にできるわけない…ッ! やっぱりお前魔族……だろッ!!」


 叫びと共に弓を持った男は3本同時に矢を放った。

 その3本の矢は全て俺目掛けて飛んできている。


 めんどくさいな本当に。ホロスも暇そうにしてるし少し、ほんの少しだけ手荒にやろう。


「あとで弁償しろとか言うなよ」


 居合(いあい)──


「“桐時雨(きりしぐれ)”」


 その光景を弓の男は見た。否、“見れなかった”と言ったほうが正しい。


 オレはちゃんと見ていた……! あいつから目を離さなかった……! 確実に剣は鞘に納まっていたはずなのに……! 何(・)故(・)矢(・)が(・)斬(・)ら(・)れ(・)て(・)い(・)る(・)ん(・)だ(・)……!!


 桐時雨(きりしぐれ)── エインが千年間の中で独自に編み出した抜刀術。音も立てず対象を切り伏せるまさに神速の居合。


「なあ、めんどくさいからもう全部いっぺんに撃ってこい。まとめて斬ってやるから」


 俺は再び刀を納めた。居合の準備をするためにだ。


「怖がらせちゃってるわよエイン」


「こんなに親切にしてやってるのにか?」


「あなた無愛想なのよ。いい顔してるんだからたまにはちゃんと笑いなさい」


「こうか?」


 ホロスのリクエストに応えて笑ってみた。

 が、それはホロスとっては不器用なものに見えていたようで……。


「違うわよ。ちょっとしゃがみなさい。こうよ!」


 ホロスは両の指を俺の頬に当てると口角を無理矢理あげた。


「ほうか」


 俺はその状態のまま全く同じことをホロスにし返してやった。

 やられっぱなしも癪だからな。



 そんな光景を見て弓の男は思う。


 あ…あいつら流石に緊張感なさすぎないか…? 魔族にしてはあまりにも敵意を感じないしまさか本当に……



「人間…なのか……?」


 何を見てどう判断したのかは知らないがやっと信じてくれたようだ。


「最初からそう言ってるだろう。俺と……」


 話している途中で気になったことがありホロスに小声で尋ねる。


「なあ、ホロスの名前って出していいのか? 女神だとバレたら流石にまずいだろ」


「大丈夫よ。誠に遺憾ながらホロスの名はあまり浸透してないの。でもホロウノスの方は知ってる人間もいるだろうから気を付けて。まあこの姿でホロウノスって言っても冗談だと思われるだろうけど一応ね」


 話し終えると再び弓の男に視線を向ける。


「俺とホロスは人間だ」


「そのオレに内緒でしゃべるやつなんか怖いからやめてほしいかも……」


「それはすまん」


 謝りながら弓の男に近づく。

 確かに仲間外れにしてるみたいで感じ悪かったかもしれないな。


「俺の名前はエイン。そしてこっちが……」


「ホロスよ」


 改めて俺達は挨拶をした。


「オ、オレはリヒトです。魔法師ギルドで四等魔法師やってます…」


 魔法師? 魔法使いとは違うのか?

 そんな疑問を口に出そうとした直後──


「すみませんでしたァ!! エインさん! ホロスさん! 魔族と間違えるはおろか攻撃までしてしまって!!」


 リヒトが勢いよく頭を下げてきた。


「いや、そんな謝るようなことじゃない。俺もホロスも怪我はなかったしな。それよりも俺は魔族と思ったにも関わらず逃げずに戦うことを選んだことが凄いと思うぞ」


 実際本当に凄いと思っている。あんなに怯えていたのに立ち向かってきたなんて昔の俺とは大違いだ。


「か…かっけぇ……!」


 リヒトが目を輝かせてこっちを見てきた。


「マジでかっけぇッス!! エインさん! 許すまでに収まらずオレを讃えてくれるなんて懐がデカすぎるッス!!」


 あれ? これなんか変な懐かれかたされてないか? 


「オレはこれからこの先にあるズウェルテって町に戻るんスけどお二方は…?」


「俺達もその町が目的地だ」


「……! だったら俺も同行していいッスか!? 傍で勉強させてもらいたいッス!」


 やっぱり変に懐かれてた。だがズウェルテまでの道のりは曖昧だったし好都合といえば好都合……。

 俺はホロスをちらりと見た。


「いいんじゃない別に」


「じゃあいいということで」


「……っ! ありがとうございますっ! よろしくお願いします!!」


 ……まあ、なんだかんだあったが和解できて良かったよ。



    第10話 矢が降っても地は固まる


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