第八話:第三砦防衛戦 其の陸
※読者の皆様へ
本作には一部、戦場における暴力描写・残酷な表現(流血や部位の損壊など)が含まれます。苦手な方はご注意のうえお読みください。
渾身の弩砲や無数の矢が無傷で防がれた........
この無力感による絶望が壁上や前線の兵士を支配しようとしていた。
こういうバケモノがあの九代目桃太郎を殺したんだと
「補給隊、特製矢を急げ! 矢先に油袋を括り付けろッ!」
闇を断ち切るかのように壁上の「武者走り」で、戦術家たちの怒号が飛び交った。
老将・陣の鋭い眼光は、眼下で猛威を振るう土蜘蛛から片時も離れない。
「陣様、雑鬼どもの攻勢も止まりません! このままでは前線が持ちませんッ!」
焦る戦術家に、陣は冷酷なまでに落ち着いた声で返した。
「雑鬼など恐るるに足らん。見誤るな……前線で討ち取られた兵の多くは、雑鬼の手によるものではない。あのような鬼の将軍の絶大な力と、野生的な知恵によって破殺されているのだ。あれを攻略せずして、戦には勝てん。」
陣は冷徹に右腕を掲げた。
「糸で矢を封じられたなら、糸ごと燃やすまで。……火責めだ」
号令とともに補給隊が走り回る。弓隊が手にした矢の先端には、油の染み込んだ小さな布袋が括り付けられていた。
「全弓隊、狙いを土蜘蛛の胴体および口元へ集中! 放てぇッ!」
シュババババッ!
数百の矢が一斉に放たれた。土蜘蛛は再びおぞましい頭部を仰け反らせ、口から粘着糸を吐き出そうとする。
だが、飛来した矢先から叩きつけられた油袋が次々と弾け、粘液の糸と黒漆の胴体へ、ドロッとした菜種油が容赦なく浴びせかけられた。
「火矢、構え——射てッ!!」
直後、松明から火を移された火矢の雨が、暗闇を赤く染めて降り注ぐ。
バチバチバチッ……ドォッ!!
油を浴びた土蜘蛛の胴体と、空中に広がっていた粘着糸が一瞬にして猛烈な炎に包まれた。
黒煙と焦げ臭い肉の爛れる臭いが立ち込め、土蜘蛛の甲高い叫喚が戦場を揺らす。
「効いてるぞ! 陣様の作戦通りだッ!」
「押し込め! 雑鬼どもを散らせッ!」
壁上からの歓声に呼応し、前線に希望の兆しが走った。
部隊長の長槍と副部隊長の太刀が、動揺した雑鬼どもの隙を逃さず叩き斬っていく。凛もまた雑鬼の牽制をかわし、泥を蹴って手際よく息の根を止めていく。
「凛! やったんじゃねえか、あのバケモノ燃えてるぞ!」
甚平が声を弾ませた、その瞬間だった。
——ズズズズズズッ!!
巨体を覆う炎のなか、土蜘蛛の多脚が狂乱の動作を見せた。
苦悶の悲鳴を上げながらも、土蜘蛛はその巨体を大きく傾けると、雨で深い泥沼と化した地面へ容赦なく身を叩きつけたのだ。
「な……なにやってんだ、あいつ……!?」
甚平の顔から血の気が引く。
土蜘蛛は無数の脚を激しく蠢かせ、大量の重い泥を自らの胴体にこすりつけ始めた。
雨水を吸い込んだぬかるみが、ジュウジュウと不快な蒸気を上げながら炎を包み込んでいく。たった数秒の泥まみれの暴走によって、赤々と燃え盛っていた火の勢いは見る見るうちに鎮火されてしまった。
「嘘だろ……泥で……火を消しやがった……!?」
壁上の見張り兵が絶望の声を漏らす。
泥に塗れ、黒く焦げた外皮を剥き出しにした土蜘蛛が、ゆっくりと首をもたげた。
鎮座する鬼の頭部が、炎の痛みに歪んだ顔のまま、前線の人間たちを見下ろしてニィと醜悪なおぞましい笑顔を深める。
知恵がある。このバケモノは、ただの野獣ではない。兵たちの死因の多くを作り出している理由が、そこにあった。
「……慌てるな。想定の範囲内だ」
壁上で老将・陣が静かに呟いた。その瞳に焦りはない。
「第一段階が破られたならば、第二段階へ移行する。大鉄門の鎖を外せ」
「っ!? 陣様、門を開けるのですか!?」
「引きずり込むのだ。あの狂暴な巨体を、逃げ場のない我らの庭へな」
戦術家たちの息が止まる中、要塞の奥底で重厚な鉄鎖がジャラジャラと蠢き始めた。
そして老将・陣は静かに武器庫へ歩んでいくのであった。
(第八話 完)
読んでいただき感謝感激です!!!!!!!!!!!!
AIをふんだんに使用していますが
これからも「桃太郎を継ぐ者たち」をよろしくお願いします!




