第七話:第三砦防衛戦 其の伍
※読者の皆様へ
本作には一部、戦場における暴力描写・残酷な表現(流血や部位の損壊など)が含まれます。苦手な方はご注意のうえお読みください。
「報告ッ! 正面森奥より大型の異形、急速に接近!!」
壁上の「武者走り」で監視を続けていた見張り兵の悲鳴のような絶叫が、第三砦中を切り裂いた。
砦内外の小さなたいまつ達がその異形を照らしていた。
老将・陣の眼が冷たく細められる。老練な指揮官は即座に右腕を突き上げた。
「弩砲隊、標的を変更! 正面の異形へ狙いを定めよ! 弓隊、牽制の矢を絶やすなッ!」
「標的、 射てぇぇええっ!!」
号令とともに、重厚な弩砲の軋み音が響き、大型弩砲から太く巨大な鉄矢が空を裂いた。続いて壁上の数百の弓隊が一斉に弦を離し、黒い矢の雨が土蜘蛛の頭上へと降り注ぐ。
誰もがその直撃を確信した、その瞬間だった。
ズサァァッ!
大木をなぎ倒しながら現れた土蜘蛛は、その巨大な黒漆の胴体からは考えられない凄まじい脚力と俊敏さで泥を蹴り、巨躯を滑らせて弩砲の太矢を寸前で回避してみせた。
「な……弾いたのではなく、避けた……だと!?」
驚愕する見張り兵たちへ、土蜘蛛の胴体に鎮座するおぞましい笑顔の「鬼の頭部」を大きく仰け反らせる。
「——ギシャアアアアアッ!!」
鼓膜を突き破るような甲高い叫喚とともに、土蜘蛛の口から噴出されたのは、白く濁った大量の糸だった。
粘液の塊は空中で網の目のように広がり、頭上から降り注ぐ矢の雨をそっくり丸ごと絡め取り、地面へと叩き落とした。砦からの遠距離支援が、たった一吐きの糸によって完全に封じられたのだ。
「ひいぃっ……なんだよあれ! 矢がッ!!」
前線で雑鬼と刃を交えていた甚平が、絶望に顔を歪ませる。
土蜘蛛はまだ門前の前線からは距離があり、森の開けた泥地を踏み荒らしている段階だ。にもかかわらず、その吐き出される糸と存在感だけで、第三砦の防衛網は一瞬で機能不全に陥りかけていた。
「甚平、余計なところを見るな! 目の前の雑鬼に集中しろッ!」
凛は叫びながら、襲いかかる雑鬼の振り下ろしたこん棒を首一筋でかわし、その喉元へ正確に刃を突き立てる。
研ぎ澄まされた動体視力で雑鬼の動きを見切りつつも、凛の皮膚は前方奥に鎮座する土蜘蛛の威圧感に粟立っていた。あの怪物がいずれ前線へと雪崩れ込んでくれば、百人の防波堤など一溜まりもなく押し潰される。
(どうする……あんなバケモノ、どうやって止めれば——)
その時だった。
土蜘蛛のすぐ傍ら、鬼たちの群れの中に、自然に混ざり合うように佇む一影が凛の視界に跳び込んできた。
身を覆っているのは、雑鬼のような醜悪な皮でもなければ、異形の肉体でもない。小柄で細身の人間。
だが——その額から、二本の小さな角が冷たく突き出ていた。
鬼側に立つ、人間の姿をした何者か。
その異様な存在は、粘液の煙越しに、冷徹な視線を一瞬だけ凛の方へと向けたように見えた。
(……な……んだ、あれ……?)
「凛ッ! 前だ、前からも来るぞッ!」
甚平の叫びでハッと我に返った凛は、必死に目をしばたたかせた。
(角生えの……人間……? いや、違う……)
首を激しく振り、心を整理する。
もう一度将鬼の足元へ目を凝らしたが、そこに広がっていたのは襲い来る醜悪な雑鬼どもと、血塗れの惨状だけだった。
(息が上がってやがる。この地獄の戦場で頭がどうかしたんだ……!)
極限状態が見せた見間違いだと己に言い聞かせ、凛は泥の中から立ち上がった。刀の柄を固く握り直すと、向かってくる雑鬼へ刃を向け直す。
胸の奥に残る、あのゾッとするような冷たい違和感だけを泥の中に押し殺して。
このとき、砦に鎮座する老将・陣と戦術家らはある作戦を練っていた..........
(第七話 完)
読んでいただき感謝感激です!!!!!!!!!!!!
AIをふんだんに使用していますが
これからも「桃太郎を継ぐ者たち」をよろしくお願いします!




