第六話:第三砦防衛戦 其の肆
※読者の皆様へ
本作には一部、戦場における暴力描写・残酷な表現(流血や部位の損壊など)が含まれます。苦手な方はご注意のうえお読みください。
ドガァァンッ!!
丸太のような木製こん棒が振り下ろされ、泥と肉片が豪快に跳ね上がった。
押し寄せた雑鬼の第一波が遊撃へと激突する。
悲鳴と骨折音が交錯する地獄絵図の中で、絶望の波を正面から受け止めたのは——前列に立つ部隊長と副部隊長、そして熟練兵たちだった。
「押されるな! 懐に入れッ!」
遊撃部隊長が咆哮する。
その手に握られているのは、長年の戦で黒ずんだ長槍だ。
振り下ろされる鬼のこん棒を、柄のしなりと極小の体さばきで弾き流す。間髪容れず、鋭い突きの連打が空を裂いた。
ドスッ、ドスッ!
「グガァッ!?」
鬼の眼球、そして咽喉。頑丈な皮膚を貫き、肉の薄い致命傷だけを寸分違わず穿ち抜く。余計な力など入っていない。その巨体からは考えられないほど繊細な動きだった。幾千の命を奪い抜いてきた者だけが知る、冷徹で無駄のない殺戮の技術だった。
その隣では、副部隊長が太刀を美しく閃かせていた。
「ハッ!」
一刀のもとに、襲いかかる雑鬼の胴体が切断される。
跳ね上がる血飛沫を顔面に浴びながらも、副部隊長は眉一つ動かさない。こん棒の軌道を見切り、肉薄して懐へ飛び込むと、すれ違いざまに腹へ刃を深く滑り込ませて臓物を撒き散らさせた。
革胴と鉄甲を濡らす熟練兵たちもまた、大斧や刀で互いの背中を庇い合いながら、阿吽の呼吸で鬼の波を削り押し返していく。彼らはただ生き残ったのではない。「殺し勝ってきた」からこそ、そこに立っていた。
「う、うあぁぁぁっ! 来るな、来るなあっ!」
一方、後列の甚平は半狂乱の体で槍を突き出していた。
六尺程(180cm程度)の巨体は恐怖で引きつり、喉から血の味がするほど叫びながら槍を突き刺す。
だが、鬼の振り下ろしたこん棒が、甚平の槍の柄を易々と叩き折った。
「ヒッ——!?」
尻餅をつき、泥に塗れる甚平。視界を覆うのは、口から濁った唾液を撒き散らし、丸太棒を振り上げた雑鬼の醜悪な顔だった。死を覚悟し、甚平が目を背けたその瞬間——。
旋風が舞った。
「甚平、伏せてろ!」
凛の低い声とともに、影がすべり込む。
目を見開いた甚平の眼に、黒い血にまみれた桃色の上衣が映っていた。
鬼が振り下ろす粗悪なこん棒。その破れかぶれの軌道を、凛はまるで「あらかじめ知っていた」かのように首を一筋傾けるだけでかわしたのだ。
凛の恐ろしさは、単なる素早さではない。
死線の中で研ぎ澄まされた動体視力。
鬼の攻撃の「隙」が遅っくりと止まって見えているかのように、正確に反撃を合わせていく。鬼の単調な攻撃もあるが到底まねできない。
直後、泥を蹴った凛の刀が、振り下ろされた鬼の肘の関節を小さい動作で深々と切り裂いた。
「ギァアアッ!?」
握力を失い、こん棒を落とす雑鬼。凛はその膝を踏み台にして跳ね上がると、無防備になった鬼の首筋へ、上から全体重を乗せた刃を垂直に突き立てた。
ズブスッ!
「ふぅ……っ」
首骨を叩き割り、倒れ込む鬼の巨体から滑らかに刀を抜く凛。その視線はすでに、次に迫る二頭の雑鬼へと向けられていた。
「立ち上がれ甚平! 立ち止まったら死ぬぞ!」
(こいつ……こんな地獄の中で、もう敵の動きが全部見えてやがる……!)
甚平は震える膝を泥に押しつけ、拾い上げた短刀を握り直した。
だが、門前の防波堤が熟練兵と部隊長らの異常な戦力で持ち堪えかけた、その時だった。
バキバキバキッ! と森の樹木がすり潰される不穏な音が狂乱の戦場を覆う。
暮れかけた闇の奥から這い出てきたのは——悪夢のような異形だった。
巨大な黒漆の胴体から生える、無数の関節を持った太い蜘蛛脚。そしてその蠢く多脚の頂点に鎮座するのは、角を生やしおぞましい笑顔を見せる「鬼の頭部」。
土蜘蛛の如き巨体を揺らし、頭部が放つ異様な不気味さが、門前で戦う百人の兵士たちを一瞬で呑み込んだ。
そして乱戦の最中、凛の研ぎ澄まされた視界の端に、この土蜘蛛の影と泥煙を切り裂いて現れる“異様な存在”が映り込むのだった。
(第六話 完)
読んでいただき感謝感激です!!!!!!!!!!!!
AIをふんだんに使用していますが
これからも「桃太郎を継ぐ者たち」をよろしくお願いします!




