第二話:残された者の帰還
※読者の皆様へ
本作には一部、戦場における暴力描写・残酷な表現(流血や部位の損壊など)が含まれます。苦手な方はご注意のうえお読みください。
「う、うわああぁぁっ!!」
「桃太郎様が……死んだ……っ!」
耳を刺すような悲鳴と絶叫が、雨の戦場に乱反射する。
人類の希望であり、絶対的な象徴であった九代目桃太郎の頭部が、黒鬼の金棒によって砕かれた。 その瞬間、人間側の陣形は崩壊どころか、一瞬で跡形もなく消し散った。
「あ……」
俺——凛の足も、地面に張り付いたように動かなかった。
二度の戦場を潜り抜け、それなりの武功と身軽さで生き残ってきた。20代前半という若さではあるが、人より少しだけ剣が立ち、一瞬の危険を察知する勘には自負があった。同じ部隊の同期たちからも「凛の近くにいれば死なない」と頼りにされていた。
だが、今目の前で起きた凄惨な現実に対して、俺の思考は完全に停止していた。 何をするべきか、どう動けばいいのか。指揮官でもない俺に、混乱を収める術など何ひとつ浮かんでこない。
「ひぃっ、助け……凛! 助けてくれ!!」
泥に足を取られた若手兵の悲鳴で、俺の意識は強烈に引き戻された。
見れば、桃太郎を討ち取った黒鬼、赤鬼、青鬼の三体は、勝ち鬨をあげて勝利の余韻に浸っている。手下の雑兵鬼どもも、歓喜の声をあげて乱舞していた。 追撃の足が緩んでいる
——今だけだ。
「——走れ! 後方の砦まで撤退する!!」
俺は破れかぶれの声を張り上げた。 難しい戦術なんて分からない。今この場で俺ができるのは、目の前で生きている仲間を促し、一緒に逃げることだけだ。
「凛、でも桃太郎様が……!」
「振り返るな!! 生きて帰るぞ!!」
転んだ兵の腕を強引に掴み上げ、背中を叩いて走らせる。
襲いかかってくる雑兵鬼の振り下ろしを、俺は持ち前の鋭い運動神経で紙一重でかわした。泥を蹴って跳躍し、すれ違いざまに鬼の膝裏へ刀を突き立てる。 倒れ込む鬼を踏み台にして、遅れている味方の背中を押し込む。
「凛、後ろから!」
「分かってる!」
背後からの気配を察し、体を低くひねりながら刃を受け流す。 個人の身のこなしと剣技だけなら、俺は誰よりも動ける。だが、心の中は「逃げ切れるか」という恐怖で押し潰されそうだった。
上位三体の鬼たちが追ってこなかったのは、ただの幸運に過ぎない。 俺たちはただ、踏み潰された虫のように、必死で泥の中を這いずり回って逃げ延びただけだった。
◇
命からがら辿り着いたのは、最前線の防衛拠点である「第三砦」だった。
重い鉄の門が開いて、中に滑り込んだ俺たちは、そのまま泥の上に崩れ落ちた。
出撃した数百の隊員のうち、砦に辿り着けたのはわずか二十人足らず。俺が所属していた本陣の先鋒部隊はもういない。負傷した兵たちの苦悶の呻き声と、荒い呼吸音だけが暗い空間に響く。
「何事じゃ!!!!!!」
奥から駆け寄ってきたのは、この砦を任されている老将・陣だった。 陣は俺の肩を強く掴み、血走った目で周囲を見回す。
「桃太郎様は今どこじゃ!!!今回はどんな鬼の将の首をもってくる?」
言葉が喉につかえた。 雨と血が混ざった冷たい雫が、俺の頬を伝って床に落ちる。
「……討たれました」
絞り出すような俺の声に、陣が目を見開く。
「なんだと……?」
「九代目桃太郎様は…バケモノの強襲で.......黒い鬼に……」
静寂が、砦全体を支配した。
息をのむ音。武器を落とす音。そして、絶望に満ちた啜り泣き。 人類の光が消えた。この戦争はもう終わりだ。誰もがそう確信し、膝から崩れ落ちようとしていた。
だが——陣だけは違っていた。
老将の顔から動揺が消え、冷酷で、恐ろしいほど無機質な表情へと変わっていく。
「……そうか。九代目も、ここまでだったか」
陣は深いため息をひとつ吐くと、振り向きざまに伝令兵へ冷徹に命じた。
「直ちに総本山へ早馬を飛ばせ。『九代目・討死』。……至急、『十代目』の選定と儀式を執り行え、とな」
「……は?」
俺は思わず声を漏らした。
十代目? 選定? 桃太郎様は、たった今死んだばかりだぞ?
「陣様……すこしは九代目に弔いの言葉でもかけたらどうです!無礼者!」
周りの中堅兵が青ざめる中
詰め寄る俺の目を、陣は冷たく見つめ返した。
「お前は背を向けて逃げた臆病者だろう」
俺は何も言えなかった......
「『桃太郎』とは、一人の英雄の名ではない。鬼を殺すために、人類が作り出した『記号』であり『称号』だ。初代が死んでから五十年、我々はずっとそうして繋いできた」
陣は俺の肩を静かに叩いた。
「一人死ねば、次の素質ある若者を連れてきて『桃太郎』を襲名させる。……この戦争が終わらない限り、桃太郎は永遠に生まれ続けるのだよ」
頭を殴られたような衝撃が走ると同時に違和感を覚えた。
雨の音だけが響く砦の中で、俺は己の無力さと、この世界に、ただ震えることしかできなかった。
(第二話 完)
読んでいただき感謝感激です!!!!!!!!!!!!
AIをふんだんに使用していますが
これからも「桃太郎を継ぐ者たち」をよろしくお願いします!




