第十七話 乱入の刃(交流戦 前編)
※読者の皆様へ
本作には一部、戦場における暴力描写・残酷な表現(流血や部位の損壊など)が含まれます。苦手な方はご注意のうえお読みください。
篠原善蔵に拾われてから二年。九歳となった凛の日常は、血の滲むような鍛錬と学びに満ちていた。
一馬と詩織は十四歳となり、来年には十五歳で初陣を迎える年頃となっていた。その剣術の精度も体格もすっかり大人びてきており、道場の下級弟子を引っ張る頼もしい存在だ。世間からどれほど「欠陥流派」「死にぞこない」と蔑まれようと、道場の中にはいつも温かくも真剣な熱気が満ちていた。
そんなある日の午後、正眼流の古びた道場に不穏な足音が響いた。
「——ここが、噂の死に損ない共の道場か!」
大きな音を立てて道場の扉が開かれ、ぞろぞろと足を踏み入れてきたのは華やかな桜の家紋が入る道着を纏った若者たちだった。
吉備国において「将狩り」と称され、一対一の決戦で絶大な人気を誇る『桜迅流』の門下生たちである。当主の許可など得ず、看板の倒れかけた正眼流を叩きのめすことで自分たちの力を誇示しようと、勝手に押しかけてきたのだ。
「四大流派の面汚しめ。剣士が次々と討ち死にしている欠陥流派が、いつまで看板を掲げているつもりだ?」
先頭の門下生が嘲笑を浮かべると、一馬と詩織は激しい悔しさに拳を握りしめた。
「……勝手に入り込み、言いたい放題言ってくれるな」
静かに座敷から立ち上がった善蔵だったが、押し入ってきた若者たちの無礼な申し出——「どちらの流派が上か立ち合いで決めよう」という言葉に対し、弟子たちの経験のためにと静かにその勝負を受け入れた。
最初の立ち合いに挑んだのは、十四歳の詩織だった。
「ふん、女相手か。桜迅流の抜刀術の速さに慄け!」
桜迅流の門下生がニヤリと笑い、腰の柄に手をかける。
だが、善蔵の合図とともに躍り出た相手の鋭い踏み込みに対し、詩織の表情は恐ろしいほど冷静だった。
相手が刀を抜く瞬間の「肘の上がり」を完全に見切っていた詩織は、わずか半歩だけ体を開き、風を切って迫る刃を最小限の動作でかわす。そして、流れるような無駄のない一撃を相手の胴へと叩き込んだ。
ガキィンッ!
「……そこまで! 勝者、詩織!」
「なっ……!?」
一本を取られた桜迅流の門下生は、自分がなぜ叩かれたのか理解できず呆然と立ち尽くした。詩織は静かに木刀を引くと、気品ある一礼を返した。正眼流の隙のなさと、詩織の聡明な見切りの勝利だった。
「くそっ、女相手に不覚を取りやがって……! 次は俺が出る!」
続いて進み出た門下生に相手をしたのは、一馬だった。
大柄で無骨な一馬は、重厚な構えで相手の激しい一撃をどっしりと受け止め、着実に相手を追い詰めていく。地力、技量ともに一馬が圧倒していた。
(よし、これで決め——)
一馬が踏み込み、決め手の一撃を放とうとしたその瞬間だった。
「くたばれっ!」
追い詰められた桜迅流門下生が上衣の裾に隠し持っていた砂や泥を一馬の顔面へと放った。
「なにっ……!?」
目潰しのような泥と不意の足払いを受け、一馬の姿勢がわずかに崩れる。
その隙を見逃さず、相手の木刀が一馬の肩口を強く捉えた。
「愚かな.........」
「やったぞ! 見たか正眼流!」
歓声をあげる桜迅流に対し、一馬は肩を押さえながら悔しさに歯かみを噛んだ。
「一馬兄さん……!」
「すまん……凛、詩織。俺の不覚だ……」
明らかな妨害による惜敗。だが、勝ち誇る桜迅流の門下生たちは勢いに乗り、道場の隅にいた凛へと視線を向けた。
「おいおい、残ってるのはそのチビだけじゃないか! ほら、さっさと出てこいよ!」
その一団の中から、凛と同い年の九歳の少年——雄真が進み出た。腰に手を当て、自信満々の笑みを凛に向けて放つ。
「桜迅流門下生が一人、雄真だ。……一太刀で勝つ!!!!」
正眼流の誇りをかけた立ち合いは、九歳の凛と雄真の最終戦へと委ねられるのだった。
(第十七話 完)
読んでいただき感謝感激です!!!!!!!!!!!!
AIをふんだんに使用していますが
これからも「桃太郎を継ぐ者たち」をよろしくお願いします!




