第十四話:蘇るおとぎ話
※読者の皆様へ
本作には一部、戦場における暴力描写・残酷な表現(流血や部位の損壊など)が含まれます。苦手な方はご注意のうえお読みください。
第三砦の防衛戦から丸三日が経過していた。
大斧を振り抜き、土蜘蛛を討ち果たした老将・陣は、極限状態を乗り越えた反動から重度の虚脱状態に陥り、高熱を出したまま陣幕の奥で眠り続けていた。骨折と内臓への負担は凄まじく、当面の間、軍司令官としては完全に使い物にならない状態だった。
その間、崩壊しかけた第三砦の全権を握り、兵の再編、防壁の緊急補修、そして数千の首の火葬作業を完遂させたのは、戦術家・三白であった。
三白は眠り続ける陣の枕元で素早く筆を走らせると、土蜘蛛討伐の経緯と、その胎内から発見された「九代目桃太郎部隊の遺留品」に関する詳細な報告書を仕上げ、最速の早馬で中央へ向けて発破をかけた。
その頃——人間勢力が治める「吉備国」の中心たる都、総本山。
巨石の城壁に囲まれた都の中心部、重苦しい空気の満ちる大広間では、国家の役人連中が集まり、頭を抱えていた。
ーーー吉備城にて
半月前に入った「九代目桃太郎部隊・全滅」の報は、吉備国全体に絶望を与えた。
「早急に……十代目桃太郎を選考せねばならん」
「候補の選出は難航しております! あの九代目が討たれた今、九代目を超える人材がもう.........」
罵声と溜め息が交錯する広間に、泥に塗れた伝令兵が転がり込んできた。
「報告! 最前線・第三砦より緊急の報告書! 戦術家・三白殿より書状が届きました!」
広場が一瞬で静まり返る。家臣の一人が書状を受け取り、目を通した瞬間、その顔に驚愕と歓喜の色が浮かんだ。
「お……おお! 第三砦、防衛に成功! 将鬼『土蜘蛛』を討伐したとのことだ!」
「何だと!? あの最前線で、将鬼を退けたというか!」
「陣のじい様がやってくれたか! 天はまだ吉備国を見捨てておらんかった!」
死感漂う都に、久々の歓声が上がった。土蜘蛛討伐の報は、九代目を失った絶望を塗り替えるに十分な快挙に見えた。
……しかし、書状を読み進めていた家臣の声が、次第に震え始めた。
「……ま、待て。続きがある……『土蜘蛛の体内より、数千の人間頭部および九代目桃太郎部隊の遺留品を回収・供養した』……」
広間の歓声がすうっと引いていく。
「待て……では、九代目を殺したのは土蜘蛛なのか?」
「いや……違う! 書状にはこう書かれている……『九代目桃太郎部隊を全滅せしめたのは土蜘蛛にあらず。古代に現われし「黒鬼」率いる強襲群なり。土蜘蛛はその残骸を喰らったに過ぎず』……!!」
「黒鬼……!?」
家臣たちの顔から一気に血の気が引いた。
土蜘蛛という脅威を排除した歓喜は、一瞬にしてさらに深い絶望へと上書きされた。
「黒鬼」——それは五十年前に初代桃太郎が鬼ヶ島での死闘から生還して以来、一度も姿を見せていない鬼であった。現代においては書や吉備宮家に伝わる記録文献の中にしか存在しない、半ば神話上の災厄。
その伝説の悪鬼が、文献の中から飛び出し、すでに現代の軍勢を足蹴にしているという事実。九代目は、おとぎ話の悪夢そのものに喰い散らかされたのだ。
大広間の最奥、一段高い上座に鎮座していた男が、重い音を立てて立ち上がった。
吉備国を束ねる吉備宮家当主——吉備宮 一心。
生還した初代桃太郎の血を直接引き、常に冷徹な威厳を保ち続けてきた最高指導者の顔が、今や蒼白に染まり、その唇は見たこともないほど激しく震えていた。
「……『黒鬼』だと……?」
一心の声は掠れ、拳は血がにじむほど強く握りしめられていた。
「五十年ほど前……初代様が討伐戦から生還されて以降、一度たりとも下界に姿を現さず、初代様の口からしか聞いたことないあの黒き絶望が……今になって目覚めたというのか……!?」
将鬼一頭の討伐など、このおぞましい現実の前には何の意味もなさなかった。吉備国の都・総本山を包み込んだのは、歴史の闇から解き放たれた真の恐怖であった。
そのころ第三砦で身を休める凛は初の戦の記憶にふけっていた。
(第十四話 完)
読んでいただき感謝感激です!!!!!!!!!!!!
AIをふんだんに使用していますが
これからも「桃太郎を継ぐ者たち」をよろしくお願いします!




