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第十三話:刃の系譜と静寂の跡

※読者の皆様へ


本作には一部、戦場における暴力描写・残酷な表現(流血や部位の損壊など)が含まれます。苦手な方はご注意のうえお読みください。



雲の切れ間からかすかな月光が第三砦の広場を照らしていた。


広場の中央では、土蜘蛛の腹から吐き出された数千の首を弔うため、補給隊による火葬が執り行われ、赤々と炎が燃え上がっていた。パチパチと骨や肉が爆ぜる不快な音とともに黒煙が立ち上り、焦げた肉臭が濡れた夜気の中に重く漂っている。


生き残った兵士たちは誰もが血と泥に塗れ、一歩歩くごとに膝を折らんばかりの極限の疲労に打ちひしがれて、気を失っていた。


「おい、手を止めるな! 火葬の薪を追加しろ! 負傷者は兵舎跡の救護所へ担ぎ込めッ!」


広場に鋭く響き渡るのは、戦術家・三白(みつしろ)の冷徹で引き締まった号令だった。


かつて土蜘蛛との死闘の最中、壁上から状況を見極め「小鉄扉(しょうてっぴ)を開けろ! 剛造(ごうぞう)、蓮二(れんじ)……陣様が限界だ、広場へ入り共闘せよッ!」と的確な指示を飛ばして四人の逆転劇をお膳立てした男である。三白は,眼光を月光のように鋭く光らせながら、崩壊しかけた砦の戦後処理を滞りなく仕切っていた。



死闘の直後、土蜘蛛に止めを刺した老将・陣は、緊張の糸が切れた途端に糸の切れた人形のように吐血し、その場に崩れ落ちて気を失っていた。


「陣様は老齢だ。あの鬼の将軍と単身で打ち合い、全霊の大斧を振るわれた……死にはしないだろうが、意識が戻るには何刻も先になるだろう。」


三白の沈着な判断により、陣はすぐさま奥の安全な陣幕へと担ぎ込まれていた。砦の支柱である老将が倒れた今、この凄惨な現場の指揮を一手に引き受けているのが三白であった。


広場の片隅、山でできた天然の壁付近で座り、凛は習慣であるかのように震える指先で刀の血脂を荒く拭っていた。激痛と疲労で視界がかすみ、腕を上げるのすら重い。将軍はやはり手強かった。あれ以上長引くと刀がダメだった........


「凛……ッ! 凛ッ……!」


足を引きずりながら、煙の中から甚平(じんべい)が駆け寄ってきた。小鉄扉へ飛び込んでいった凛の身を案じ、外の掃討が終わるやいなや力を振り絞って探し回っていたのだ。


凛の生きて刀を拭く姿を見ると、甚平はその場に崩れ落ちるように膝をつき、激しく肩を上下させた。


「よかった……無事だったのか……っ。あのバケモノの前に戻るって聞いた時は……もう会えねえのかと.......」


「……甚平。無事だったか」


「当たり前だろ……ハァ、ハァ…俺は死ぬような男じゃ.........ねえよ........」


甚平はそう言うと、そのまま山壁に頭を預け、泥の上にへたり込んだ。


そこへ、血脂が拭かれた太刀を腰に納めた蓮二が、引き摺るような足取りで歩み寄ってきた。身体の節々が悲鳴を上げているのか、顔を歪めて凛の隣にドカリと腰を下ろす。


「……『正眼流(しょうがんりゅう)』か。いい太刀筋だった」


蓮二は懐から煙管(きせる)を取り出そうとしたが、指が噛み合わず、諦めたように溜め息を吐いた。


「……あなたの『犬心流(けんしんりゅう)』もです。あんな低い姿勢からの無茶な連撃……身体がもちませんよ」


「ははっ……泥臭い流派でね。初代の桃太郎様に付き従った『犬』の戦い方を模した剣らしい。無茶してもいい……生き残った方が勝ちだからな」


蓮二は乾いた唇を舐め、力なく笑った。


そこへ、重い足音とともに長槍を支えにした剛造が現れた。鎧のあちこちが砕け、その巨体も限界を迎えているのは明らかだった。


「犬だろうが正眼だろうがどうでもいい……三白の言った通り、あの小門から突入して正解だったな。あの状況で凛が土蜘蛛の喉を捉えてくれなきゃ、陣さんどころか俺たちも全滅していた」


剛造は重い手を凛の肩に置き、ぐっと力を込めた。


「よく生きて戦い抜いたな、凛」


「……滅相もありません」


凛は静かに息を吐いたが、燃え盛る火葬の炎を見つめるその瞳の奥は、重く冷えていた。


——九代目桃太郎の部隊が全滅したあの日。

遠方から惨劇を目撃した凛が視認できたのは、絶望的な強襲をかけた、漆黒の異彩を放つ『黒鬼』の姿だけだった。


怒号と血飛沫が舞う凄惨な乱戦の中、雑鬼どもの群れと肉塊の影に隠れ、九代目桃太郎を襲撃した二体の姿までは捉えきれなかった。だが、黒鬼の背後に揺らめいていた、肌が痺れ、呼吸すら塞がれるような異常な「圧」の塊。間違いなく、あの場には黒鬼と並び立つ化け物がさらに二体存在していたのだ。


姿すら見えぬまま息の根を止められる恐怖。その底知れぬ闇の片鱗を、凛はただ一人、皮膚に刻み込んでいた。


(あのバケモノども……すべてが、いずれまた動き出す)




「……まあ、今は休め。陣様が倒れられた以上、明日からは三白の指示のもとで砦の補強と、本隊への報告作業だ」



剛造が壁に背を預け、深々と目を閉じる。


数千の首を焼く黒煙が月夜の空へ流れていく。防衛戦は終わった。しかし、月光すらも照らさない森奥で砦を眺める角を持つ人間がそこにいた。


(第十三話 完)

読んでいただき感謝感激です!!!!!!!!!!!!

AIをふんだんに使用していますが

これからも「桃太郎を継ぐ者たち」をよろしくお願いします!

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