第十二話:第三砦防衛戦 完
※読者の皆様へ
本作には一部、戦場における暴力描写・残酷な表現(流血や部位の損壊など)が含まれます。苦手な方はご注意のうえお読みください。
「ぬぅぁぁぁぁッ!!」
老将・陣の大斧が、雨と血を切り裂いて頭上から一気に振り下ろされた。
凛の正眼流の一撃によって喉元を穿たれ、悲鳴とともに仰け反った土蜘蛛。その無防備になった柔らかい頭部から胴体めがけて、巨斧の刃が深々と噛み散る。
ズバァァァァンッ!!
硬質なわらじのような甲殻ではなく、生々しい肉の感触。陣は全身の筋力を乗せてそのまま斧を縦に引き裂いた。
「ギシャッ……ガ……ッ……」
粘液と大量の黒い血が爆ぜ、巨躯が激しく痙攣する。土蜘蛛の多脚が脱力し、どさりと重い音を立てて石畳の上へと倒れ伏した。
……静寂が、広場を支配した。
「ハァ……ハァ……ハァ……っ!」
陣は大斧に体重を預け、肩を猛烈に上下させている。剛造も長槍を杖代わりに泥に膝をつき、蓮二は太刀を握る腕を痺れさせて血の海の中にへたり込んだ。凛も全身を激しい疲労と激痛が苛み、呼吸すら刃物を飲んだように苦しい。
四人はもちろん、城壁の上も門の外も、生き残った兵士たちは誰一人としてまともな身体をしておらず、満身創痍の惨状だった。
その時——大鉄門の外から、勝鬨とも悲鳴ともつかぬ歓声が上がった。
「雑鬼どもが逃げていくぞ! 」
「 勝ったんだッ!」
壁上からの支援と前線の踏ん張りにより、ついに門外の雑鬼の群れも完全に磨り潰されたのだ。第三砦防衛戦は、人間の勝利という形で幕を閉じた。
「ふぅ……生き残ったな、陣さんよお……」
剛造が泥を拭いながら重い声を漏らした、その時だった。
——ズズズズズズッ……バシャァッ!!
倒れた土蜘蛛の深く裂けた胴体から、不快な蒸気とともに、正気を疑うような悪夢の光景が溢れ出し始めた。
「な……なんだ……これ……!?」
蓮二の顔から血の気が完全に引く。
裂けた胃袋の肉塊から泥の中へ吐き出されたのは、胃液に塗れた無数の「人間の首」だった。数十や数百ではない。数百、数千という凄まじい密度の人間の頭部が、雪崩のように石畳を埋め尽くし、広場一面を埋めていく。苦悶に歪んだ数千の顔が泥に転がり、鼻を突く猛烈な腐臭と血臭が戦場を支配した。
陣が引き攣った顔でその地獄絵図を見下ろし、擦り切れた声で呟いた。
「先月、討伐に向かって消息を絶った『九代目桃太郎』の部隊か……?ここに……九代目の首もあるに違いない」
鬼の将軍を討ち取り、失われた英雄の遺恨を晴らした——老将がそう確信しかけた、その瞬間。
「……違います」
凛の冷ややかな声が、惨劇の広場に静かに響いた。
「なに……?」
陣が振り返る。凛は膝をついたまま、研ぎ澄まされた動体視力の記憶を辿るように、眼前の数千の首の山を静かに見つめていた。
「九代目桃太郎を殺したのは、この土蜘蛛ではありません。あれを屠ったのは……上位三体がひとり、『黒鬼』です」
「……な、なにを言っている、凛!?」
剛造が目を見開く。
凛は視線を上げ、陣、剛造、蓮二の三人をまっすぐに見据えた。
「俺はあの日、遠くから見ました。九代目の隊を壊滅させたのは、黒い圧を纏ったあの『黒鬼』です。この土蜘蛛は……ただ、その後に残飯を漁りに来ただけに過ぎない」
「黒鬼……ッ!?」
蓮二が息を呑み、剛造の手から伸びる長槍がかすかに震えた。
満身創痍の身体に、新たな恐怖が突き刺さる。
「おい、まさか……その『黒鬼』とやらが、この第三砦へ向かって侵攻してきているんじゃないだろうな!?」
剛造が戦慄を込めて叫んだ。今この傷だらけの状態で、九代目桃太郎すら屠ったような本物のバケモノが押し寄せてくれば、第三砦は間違いなく全滅する。広場を冷たい沈黙と絶望が包みかけた。
「……案ずるな」
重々しい声でそれを打ち消したのは、陣だった。
老将は深々と息を吐き出すと、泥に塗れた大斧の柄を固く握り直し、逃げていく雑鬼どもの背筋を見据えた。
「経験上、鬼の将軍が背後に控えているならば、雑鬼どもがこうも無様に散り散りとなって逃げ出すことはない。あ奴らは頭目の絶対的な威圧に縛られるからな。……奴らが逃げているということは、この場に黒鬼はおらん。危機は去ったのだ」
陣の静かだが確信に満ちた言葉に、剛造と蓮二は大きく肩を落とし、安堵の息を漏らした。
だが、凛だけは静かに広場を埋め尽くす数千の首を見つめ続けていた。
危機は去った。しかし、人間側の「勝利」などという言葉を嘲笑うかのように、九代目を屠った「黒鬼」の影、そしてあの日見かけた「角生えの人間」の不気味な記憶が、泥の底で深く静かに蠢いていた。
(第十二話 完)
読んでいただき感謝感激です!!!!!!!!!!!!
AIをふんだんに使用していますが
これからも「桃太郎を継ぐ者たち」をよろしくお願いします!




