解放された騎士候補生
第三王子が蛇に噛まれ、要注意人物の少女がそれを救った。
物語としては恋愛フラグが立つところだが、現実的な人々はそれを受け入れられなかった。
特に、警護を担当していた者たちにとっては――
軍務卿は騎士団長へ、警備体制について問うた。
キングスフォード学院との連携、第三王子が置かれている状況などは、騎士団長として考慮して当然の話だ。
騎士団長は当日の配置を説明した。通常であれば、何の問題もない布陣であった。
「騎士たちが第三王子殿下の状況を把握する前に、その少女は蛇だと見破ったのか」
軍務卿の問いに、騎士団長は悔しさを抑えながら返答する。
「……噛み跡から、蛇の疑いは浮上していました。
医療班は、蛇ならばその種類を特定する必要があると提言している最中のことでした」
騎士たちが無能だったわけではない。その少女が規格外だっただけだ。
軍団長はそれを承知の上で、自分たちの有用性を売り込む。
「騎士団には荷が重いようなら、協力するのもやぶさかではないですよ」
「なっ……なんたる侮辱」
「騎士団は貴族で構成されています。
今回は近隣の農園の情報を把握していたら、いち少女に先を越されることはなかった。違いますか?
平民との繋がりを軽視しない態勢を取ることは、一考に値すると思いますけどね」
軍団長は貴族にやり込められることが多いので、ここぞとばかりに平民の有用性を主張した。
軍務卿は、騎士団長が己の面子と王族の安全のどちらを取るか、静かに観察していた。
「……平民から騎士爵になった者たちに、その辺りのことを徹底させます」
騎士団長はそう言ってから、奥歯を噛みしめた。
話し合いの中で、アンジェリカ・ハートウッドの自作自演ではないか、という疑いも浮上した。
だが、実現不可能という壁にぶち当たった。
屋外で蛇の行動を自在に操る――そんな方法はない。
その日の夜、騎士団長は帰宅すると、長男ブライトを呼びつけた。
「お前は騎士になるための、まともな努力をせよ。第三王子殿下に顔を売って、護衛騎士に取り立ててもらおうなど、邪道なことを考えるな」
「……え」
ブライトは父の発言に言葉を失った。
「返事は?!」
「はいっ!」
ブライトは自室に戻って、こみあげる怒りに拳を握った。
前言を撤回して勝手なことを言う父に、そして何も言えない自分に――
このままでは眠れそうにない。
ブライトはランプと剣を持ち、裏庭に出た。
訓練用の人形に、八つ当たりのように斬りかかる。
ドンッ、ガッ、ガシュッと音がする。
くそっ。
護衛の方法も教えられないまま、第三王子の取り巻きをやらされた。
どう考えても、無理だろう。
それでいて、騎士団長の息子であるからには、恥ずかしくない成績を収めろと言われた。
授業が終わりに近づくと、第三王子の元に駆けつけるために、こっそり王子の予定表を確認する。
そんなことをしていたら、授業に集中できるわけがない。
騎士団長だからといって、第三王子の予定を息子に教えるのは情報漏洩だろう。いつ咎められるかと、内心ヒヤヒヤしていた。
それらがなくなるのだから、喜んでいい。
――そう思う。
そう思うのだが、気持ちは荒れ狂う。
あんな馬鹿なことをしていたせいで、騎士たちからの視線が厳しくなった。
実力もないくせに第三王子の周りをうろつく、図々しい学生。
盾になってアンジェリカから守ることもできない、目障りな奴。
護衛騎士を狙っているのが見え見えの、ずるい男。
俺のせいか?
父上の言いつけに逆らえなかっただけだ!
「痛っ」
手のひらの豆が潰れた。
力任せに剣を振るっていたので、変なところが擦れていたらしい。
「ふうー」
心を静めるように、長い息を吐く。
そっちがそう言うなら、俺だって自分の学業に専念する。
肩の力を抜こう。もう父上の期待を背負わなくていい。
弟と競争する必要もない。
評価は欲しい。役に立って認められたい。
そういう思いはある。
けれど、その前に、自分の人生を大切にしなければ。
――そう、口の中で何度もつぶやいた。
「あ、ブライト見ぃつけたぁ!」
茂みをかき分け、件の少女が現れた。
ランプに下から照らされた顔が……。
「ぎゃー!」
俺の恐怖を、誰かわかってくれるだろうか。




