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転生ヒロインの被害者の会  作者: 紡里


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10/12

攻略対象:錬金術師

 俺は塔に閉じ込められて、石を金に変えろと言われている。

 できるもんか。

 流浪の民で、傷薬を売っていただけだ。


 父を殺された。

 この場所で文字を叩き込まれて、研究しろと言われた。

 錬金術の基礎も学んでいない。

 というか、錬金術師って詐欺師と同一視されているんだが?


 食事も始めはちゃんと運ばれていたが、成果が出ないなら食う資格はないとか言い出した。

 今は一日一食だ。

 錬金術のことを考えろと言われても、頭の中は「腹減った」でいっぱいだ。


 まあ、監視もやる気がないのは救いか。

 奴が昼飯を食っているときに、「それを寄越すか、俺が森で食いもんを取ってくるのを見逃すか、どっちにする?」と脅してやった。


 ただのひ弱なガキなんだけど、魔法使いか何かだと思っているから、怯えて通してくれた。


 木の実や魚を捕るついでに、薬草を採る。

 塔にある道具で薬を作って、ときどき農夫や猟師と物々交換する。


 なんだ。

 今までの生活とやってることは同じだ。


 自由はない。だけど、寝ているところを襲われたり、飢え死ぬ可能性が低いから、まあいいかとも思う。

 少しずつ、本の内容も理解できるようになってきたし。


「ラド。発見!」

 女の子の声がした。


 赤みがかった金髪で、目の大きな子だ。

 かなり可愛い部類に入ると思う。


 ほら。監視の奴がデレデレし始めた。

 え、通すの?

 いきなり来た不審者だぞ。

 どこかへの通りすがりじゃなく、この塔のことを知っていて突撃して来たのに。


 階段を上ってくる音が大きくなる。

 久しぶりに、まともに会話できるのか。

 心臓がばくばくうるさいくらいだ。


 第一印象が勝負だ。

「あんた誰?」

 渋めに、大人っぽく睨みつけてみた。


「わたしはアンジェリカ・ハートウッド。このゲームのヒロインよ」

 小首をかしげ、人差し指を頬に当て、舌を出している。


 なんなんだ? なんのポーズだ?

 俺は、芸を売る流浪の民と一緒に旅をしたこともある。だからダンスや演劇に馴染みがある。

 こいつは、修行したての新人程度の演技力だと思う。


 そうでなければ、ただの頭のおかしな女だ。可愛いのに、気の毒なことだ。


「ああ~ん。傷ついた子犬のようね。もう大丈夫よ!」

 いきなり抱きついて、頭を撫でられた。


「ちょっ、何するんだよ」

 柔らかい感触を味わいたいという気持ちに蓋をする。ハニートラップかもしれない。

 盗まれるような情報は持っていないけど。


「ねえ、ラド。ここから逃げたくない?」

 アンジェリカはスッと身を離して、俺の目を見つめた。


「……逃げたい」

 さっきまで「飼い殺しだけど別にいいか」と思っていたのが、嘘のようだ。


「わたしも……攻略対象の反応はイマイチだし、都会の人は冷たいし、もうヤだ」

 アンジェリカはしくしく泣き出した。


 仕方ないから、今度は俺が彼女の頭を撫でる。

 嗚咽混じりに彼女はいろいろなことをしゃべっていた。だが、ほとんど聞き取れないし、聞き取れたとしても意味がわからない気がした。


「く、クッキーも、みんな食べてくれなくなってぇ~」

 農園で小遣い稼ぎをしたり、小麦粉やバターをもらったりしながら、苦労して作っているそうだ。

 初めは喜んでくれた人にも断られるようになったと、泣いている。


「じゃあ、作るのやめたら?」

「そ、それ以外に、得意なことないのよぉ~」

 差し出されたクッキーを一つもらう。


「美味しい」

 あー、甘いものも久しぶりだな。


「ほんと? 美味しい? じゃあ、お弁当も食べる?」

 アンジェリカは、おずおずと鞄から包みを出した。


 米が固められ、揚げた肉に、卵を焼いたやつ。蒸した野菜は色鮮やかだ。

「うっわ。旨めぇ」

「もう、そんながっつかなくても」

 そう言いながら、アンジェリカはにこにこしている。

 ときどきずびっと鼻を啜りながら、自分で作ったクッキーをかじっていた。


「あれ、これあんたの昼飯じゃないの?」

「そうだけど。美味しいって食べてもらえる方が嬉しいから、いいの」


 お互いの状況をしゃべりながら、あっという間に時間が過ぎた。

 日が陰り、風が冷たくなってくる。

 冬の太陽は沈むのが早い。


「うん。決めた」

 帰り支度をしていたアンジェリカは、突然そう宣言した。


「決めたって何を?」


「今夜、荷造りしてここに来るから。一緒に故郷に帰ろ?」

 泣き止んだと思ったら、そんなことを言う。

「夜は危ないだろ」

 そんな常識も知らないのか。


「え? だってラドは『灯れ』と『刺せ』を使えるでしょ?」


 ぎょっとした。

 最近、使えるようになった魔術だ。

 この塔の持ち主にも報告していない。

「なんで知っているんだ?」

 警戒心が湧き上がる。

 そうだ。俺なんかに会いに来るなんて、利用しようとする奴ばかりだ。

 知ってたよ、そんなこと。


「そんなこと? わたしがヒロインだからに決まってるじゃない」


 ……「ヒロイン」というのは予知能力のようなものなのだろうか?

 なんか、もういいか。


 俺は本を一冊だけ選び、持っていくことにした。

 監禁された慰謝料代わりだ。

 本当に、彼女は来るかな。

 親父と死に別れてから、初めて人として扱われた気がする。


 ……来なくても、昨日と同じ明日が始まるだけだけど。

 俺はつい、自分が傷つかないように保険をかけてしまう。

 悪いことを想像しておけば、がっかりしたときに「ほら、やっぱりな」と諦めがつくから。


 あ! 遠くにランタンの灯が見えた!


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― 新着の感想 ―
この回のお話好きなので何回も読み直してます。王子殿下もしっかり助けたし、よく頑張ったね。と言ってあげたい。
えっ?ここから入れるヒロイン被害者の会があるんですか??
ヒロイン人助けして良い子やなぁ。
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