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転生ヒロインの被害者の会  作者: 紡里


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11/12

疲れちゃったヒロイン

 わたしは疲れ切っていた。

 せっかく王都に出て来たのに、学校が共学じゃないからイベントが起こらない。

 上手くいかない攻略。

 イケメンたちに睨まれたり、怯えられたりする日々。


 最初は親切だった同級生も、厨房や農場の人たちも、だんだん素っ気なくなっていく。

 それに、騎士の人たちには目の敵にされているみたい。

 怖いから、第三王子にはもう近づかないってば。


 ヒロインは攻略対象者の悩みを解決してあげなきゃいけない。

 だけど、わたしの幸せは?


 うまく攻略できたら、ご褒美にわたしを好きになってくれるシステムだ。

 なんだか、それって違わない?

 見返りを求めた行為に下心が透けていたら、なんだか嫌だよね。


 だから、わたしは好かれなかった?

 でも、行動しなかったら、好かれるきっかけさえないわけでしょ。


 ――だめだ。

 もう、これ以上できないよ……。


 心が折れたわたしは、大人しく学生生活を送ろうと考えた。

 作戦を練っているときは、それだけで頭がいっぱいになる。

 だから、それがない状態で教室を眺めると……孤独だ。


 少人数の集団で、仲良くわいわいやっている。

 一人でいる人は、本を読んだりおひとり様を満喫している。もしくは、話しかけるなという空気を出している。


 せっかく学費を出してもらったのに、わたしはここで何をやっていたんだろう。

「男を追いかけ回して、はしたない」

 そんな評判のために、両親に苦労をかけたのか。


 最近は、街を歩いていても騎士の人たちの目が怖いしなぁ。

 田舎に帰ろうかな。

 女学校を卒業しなくても、困ることはない。今なら、来年度の授業料を払わなくて済むし。


 田舎でも浮いていたけどさ。

 両親は困った顔をするけど、一応、家族として受け入れてくれる。


 あ、田舎に帰る前に、もう一人だけ会っていこうかな。

 塔に閉じ込められている錬金術師を助けるのは――余計なお世話じゃないよね?


 会った瞬間に顔をしかめられたら、へこみそう。

 いや、そうしたら逃げ帰ればいい。


 だから、今、わたしは町外れの塔に向かって歩いている。

 いや、塔が隠されているはずの森を目指している。


 ヒロインって、一体何なんだろうね。

 ゲームの中なら疲れない。たくさん起こるイベントも、選択肢を選ぶだけ。

 お菓子だって、材料を集めて、ボタン一つで失敗なし。混ぜる具合や火加減なんて、気にする必要もない。

 それから、攻略対象者から拒否されても「あ~、選択肢が違ったかぁ」で終わり。ショックだけど、そこまで傷つかない。


 なんか、なんか……それを、生身の人間にやらせるのが無理なんじゃない?

 それこそ、人に尽くすのが生きがいです――みたいな聖女のような人じゃないと。

「人を幸せにするのが自分の幸せ」とかさぁ、わたしの本来のキャラじゃない。


 はあ。たくさん歩いて身体がぽかぽかしてきたな。

 吐く息が白い。


 今日は早起きして、寮の厨房の人が忙しくなる前にクッキーを焼いた。

 塔は日帰りできる距離だから、お弁当を用意した。

 厨房の人には唐揚げを味見させてあげて、場所を借りたお礼とした。

 わたしが油周りの掃除をしている間に、学生たちの朝食が出来上がる。


 わたしは厨房を出て、自分の分の朝食をいただいた。

「あ~ら。『ヒロイン』様は、今日は何をされるご予定ですの?」

 そんな声をかけられた。

 ただの好奇心なのか、嫌味を言いたいのか――まあ、後者だよね。


 今までは、ヒロインらしく明るく、悪意に気付かないふりをして答えていた。

 たとえば「いい一日になるよう、頑張るだけよ」とか。


 だけど、今日は駄目だった。

「興味があるなら、ついてきてもいいわよ」

 喧嘩を売られたというほどじゃないけれど、ムカついたのは確かだから。軽く、煽り返してやる。

「――ふん。あなたなんかに、興味があるわけないでしょ」

 その少女は、長い髪を翻し、取り巻きを連れて食堂を出て行った。


 ふふふ。なに、あの捨て台詞。悪役らしい振る舞いね。素晴らしいわ。

 自分で性格が悪いと自白しているようなものよね。

 ――って、評価して終わらせたいのに。心が痛いのよ。油断したら涙が出そう。


 マイナスの感情って、ぶつけられると痛いんだわ。

 植物だって、褒めて育てるのとけなすのとでは、差が出るらしい。



 は~、結構歩いているんだけどな。

 乗合馬車が通っていない、辺鄙な場所だから歩くしかない。


 確か、迷信深い村長に捕まっちゃってるんだよね。

 ここでわたしが助けなかったら、餓死とか、変な人に売られるとか、村長に殴られるとか……。

 見捨てたら寝覚めが悪いから、これだけやろう。

 はあ~。また、胡散臭そうに追い払われるのかなぁ。


 魔法少女とかも元気だよね。めげないよね。

 怪我しても闘うって、ファイターじゃん。


 わたしには、そんな根性ない。

 ……ヒロイン、辞めたい。


 ラド。褐色の肌をした流浪の民。

 ちょっとひねくれたキャラだから、出会い頭に嫌味を言われるんだろうな~。


 ツンデレなんて、二次元だからいいんだよ。

 リアルでツンされたら、泣くでしょ。

 デレが確約されてたらいいけど、現実はそうじゃないから。

 バッドエンドのヒロインは、ラドに錬金術の実験台にされるんだっけ。ホムン……なんとかの材料にされちゃう。


 怖い結末だ。

 今、回れ右して帰る?

 自分の命をかける意味ある?


 野良猫にバリバリひっかかれるみたいにさぁ。それを上回る愛があれば「ネコちゃんかわいい」って言えるんだろうけど。


 あ~あ。わたしってこんなに後ろ向きじゃないはずなのに。

 もう、限界なのかも。


 ちっ。塔が見えた。

 んじゃ、ラストステージ、行きますか。


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― 新着の感想 ―
ゲームだと会話も場面は決まってるし答えも選択式だから楽だよね。 でもそれが現実になると、場面外で起きる初見の会話や行動が出て来るから大変だよね。 そんなん初見殺しみたいなもんだよねぇ…。
このヒロインが行動すると助けられるって事は彼女の行いは定められたものだとも言える。実際に救われているから神の介入を体現する、神の代行者なので立派な聖女でしたね。ヒロインが愚者になるただの喜劇かと思いき…
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