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転生ヒロインの被害者の会  作者: 紡里


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12/12

おかしな娘

 娘は十二歳の時に高熱を出した。

 こんな田舎には、腕の立つ医者などいない。


 薬師の婆さんが首を振った。

「あとは『神様の手のひら』だ」


 それは、運が良ければ回復するかもしれない、という絶望的な宣告だった。


 ところが、アンジェリカは奇跡的に回復した。

 神は、愛し子を手元へ呼び寄せられる。けれど、アンジェリカは奇跡的に目こぼししてもらえたに違いない。


 娘の熱が下がった日は、妻と抱き合って喜んだ。


 起き上がれるようになった娘の様子がおかしい。

 鏡を見るなり、叫んだのだ。

「わたし『テンコイ』のヒロインになってる~!?」



 このときから、娘は聞いたことのない言葉を発するようになった。


「堆肥に混ぜる木くずや藁は小さくして。時々混ぜて。一度熱くなって、冷めてから」

 突然何を言い出すのかと思った。

 当然、子どもの言うことを聞く人は少ない。

 だが、少数の家が試してみた。

 最初は「ツンとする臭いがしない」だった。

 次の年、実った物が良かった。

 更に次の年に「あいつらの畑は、病気になってねぇな」と気付いた人たちがいた。


 そこで、変わっているけれど「いい娘だ」という評判が広がった。


 安堵したところで、「マヨネエズ」なるものの騒動が起きた。

 卵黄に油、酢、塩を入れて作る調味料だ。

 うまく混ざらないと、たくさん失敗してようやく完成したらしい。

 確かに旨かった。野菜にも揚げ物にもぴったりだ。


 アンジェリカはさっそく、女衆を集めて作り方を教えた。

 この田舎が更なる発展を遂げるか……と喜んだ数日後、腹を壊す者が続出した。


 疑いを掛けられたアンジェリカは、青ざめていた。

「卵の衛生管理、冷蔵庫がない中世……駄目じゃん」


 結局、娘のせいだという証拠もなく、マヨネエズは我が家でたまに食べるだけになった。



 貴族であるならば――

 村人に教える前に、貴族の間で価値を高めることを考える。

 平民の青年たちに、令嬢が気軽に話しかけたりしてはいけない。

 そういった常識を何度言い聞かせても、「そっちの方がおかしいから、変えていこう」と反論される。


 頭を悩ませているときに、王都で女学校が開校されたという話を聞いた。

 花嫁修業に教養を添えて、一段上の淑女に仕立て上げてくれるらしい。


 貴族の常識を身につけるか、アンジェリカの発想を面白いと受け止めてくれる人を見つけるか――藁にもすがる思いで、娘を送り出した。



 ほどなくして、女学校から警告の手紙が届いた。

 騎士団からも問い合わせが来た。


 王都でも、女学校でも駄目だったか……。


 一年生が終わって切りがいいところで、退学させよう。

 妻とそう相談していた矢先、娘が帰ってきた。


 流浪の民を一人連れて。


「お、お前、何を……!」

 だめだ。我が子ながら、もう面倒を見きれない。

 言葉を失って、頭を抱えてしまった。


 だが、妻は強かった。

「嫁入り前の娘が、殿方と二人旅など、何を考えているのですか!」


「わたし、ラドと結婚する。どうせ、お婿さんに来てくれそうな貴族はいないでしょ」


 だ、誰のせいだと思っているんだ?

 お前の奇行のせいだろうが!


 急いで退学届を出した。

 田舎では噂がすぐに広まる。

 のんきに二人連れで歩いてきたのだから、「あの男は誰だ?」と大騒ぎになっているだろう。


 ラドという少年の褐色の肌――流浪の民とか旅芸人とか言われる人種だろう。

 今、選べる最善の道。

 最悪の中の、少しでもましな選択肢。

 すぐに二人を結婚させてしまおう。



 やがて、このラドという少年が、薬師として田舎の救世主になる。

 薬師の婆さんは偏屈で、後継者がいなくて困っていたのだ。口の悪い者同士、喧嘩をしながら師匠と弟子をやっている。


 この婿が、卵を洗う機械とレーゾーコを作った。

 娘が作らせたらしい。


「だから、冷たい空気を箱に閉じ込めてほしいの」

「術者が唱えなくても継続するなんて、ありえないんだって」

「え~。なんか、回路とか書いてさぁ、魔石使うとかさぁ」

「なるほど、それなら……。なんでそんな知識があるんだ?」

「えっと、天才のひらめき?」

 居間でそんな会話をしているのが聞こえた。


 今やマヨネエズは、我が男爵領でだけ味わえる特産品である。

 取り扱う宿屋は、いくつかに限定している。娘の公衆衛生講座を受講することが条件だ。

 事前に、料理として提供するだけで、マヨネエズ単体では販売しないようにと契約を交わしている。

 また、病気の疑いが出ても困るからな。


 レーゾーコができた時点で王都にも売りに行くのかと思いきや、王族や貴族と関わりになりたくないと言う。

 女学校時代に懲りたようだ。それだけでも、王都へ送り出した甲斐があった。



 近隣の領からマヨネエズの評判が広がり、貴族用のホテルを作るか検討中だ。

 だが、作っても、貴族用の接客ができる人材がいないんだよなぁ。



 それから数年後、ラドの雇用主と名乗る男が乗り込んで来た。

 娘がコテンパンにやっつけた。

 誘拐して奴隷労働させたとして捕まるか、未払いの賃金を払うか。そう迫って――


「き、騎士団のおじさんたちに比べたら、あんなジジイ、ヘノカッパよ」

 涙目で震えながらも、逞しいアンジェリカ。


 娘は、何歳(いくつ)になっても変わらないようだ。


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― 新着の感想 ―
騎士の子と王子は、そのあといい感じだったのか気になります
ヒロインは自分で勝手に悟って幸福になりましたとさ・・・ でもそれまで引っ掻き回された攻略対象や護衛騎士さんたちは??? 可哀想過ぎ・・・余りにも自分勝手で困ってしまいます。 でも他人を勝手な理屈で踏み…
ざまぁ無しでヒロイン本人も幸せそうで良かった良かった。
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