ヒロインは頑張っている(前編)
乙女ゲームで学校が共学じゃないって、おかしいでしょ。
入学式の日の出会いイベントは?
同じクラスだからこそのエピソードは?
廊下でぶつかるとか、お昼を一緒に食べるとか、放課後に勉強を教え合うとか。
そういうのがなかったら、どうやって愛を育めばいいわけ?
わたしは、ヒロインなのに。
ヒロインだから、自分から動くことにした。
こうなってみると、一番接触が難しいのは、王族である第三王子のヘンリーだ。
攻略の難易度は高くないけど、偶然会うとか無理でしょ。
仕方なく、彼が通学する馬車の前に、飛び出した。
もちろん、すっごく怖かったよ。
馬車って、近くで見るとものすごく大きいんだよね。
馬の蹄も怖かった。蹄鉄を打っているから、痛そうじゃん。
いななきとか鼻息とかホラーみたいな迫力で、涙が出そうになった。
護衛の人たちには怒鳴られるし。
ヘンリーは馬車から降りてこなかった。
ガラス越しに目は合ったけど、顔を覚えてもらえたかな。
「お互い頑張ろうね」
って、声が聞きたかった。この出会いは失敗かなぁ?
だけど、やらなきゃならない。
わたしはヒロインだから。
次のチャンスは、キングスフォード学院の行事だ。
女学校の同級生が、その行事に行くと言うから、一緒に連れて行ってもらった。
「田舎から出て来て、知り合いもいなくて寂しいの」と泣きついたら、いいよって。
持つべきものは優しい友達だよね。
寮の台所を借りて、手作りのお菓子をたくさん作った。
寮の職員さんにも配ったし、連れて行ってくれるお友達にもあげた。
みんな美味しいって言ってくれて、作った甲斐がある。
ヘンリーは喜んでくれるかな。
もちろん、ヘンリーの周りにいる人たちの分もちゃんとある。ブライトの分もね。
一人だけに渡すなんて、依怙贔屓はしない。
男の子にだけ媚びて、女の子を馬鹿にするとか、そういう露骨なことをするのも良くないよね。
正当派ヒロインは、清く正しい子なのだ。
……なのに。
ヘンリーのお友達に警戒されて、お菓子を取り上げられた。
毒が入っていないか確認するためだって。
失礼しちゃう。
でも王族だから、そういう危険もあるのか。
そのあと、院長室に呼ばれて、厳重注意を受けちゃった。女学校の校長にも言いつけるって。
なんだか、ゲームみたいに上手くいかない。
好感度のチェックもできないし、イベント達成率もわからない。
まあ、いいか。前進あるのみ。
その次は「野摘み会」だ。
第三王子の母親である第二王妃が、令嬢やご夫人たちを集めて開くイベントだ。
ここで選択を間違うと、ヘンリーは女性恐怖症になってしまう。
ヘンリールートに入るかどうかにかかわらず、助けてあげなきゃと思う。
でも、わたしは招待されなかった。
どうすればいい?
そこで、農家のお手伝いに潜り込んだ。
農家のおばちゃんたちと一緒に、お嬢様たちが摘んできた草の仕分けをした。
だって、お嬢様たちが変な物まで摘んでくるんだもん。
食べられる草。
薬になる草。
触らない方がいい草。
似ていて間違っても仕方ないと思えるのと、どうしてこれを摘んできたと首を捻るものまである。
まあ、おしゃべりしながら仕分けるから、結構楽しかったけどね。
ただ、一部のご夫人たちはすごく詳しかった。
「この薬草、うちの領地でも育てられないかしら」
「薬草を加工できる薬師の確保が必要で……」
なんて、領地経営の話で盛り上がっている。
へえ。
ご夫人って、お茶を飲んでおしゃべりしているだけじゃないんだ。
意外だった。
でも、それより大事なのはヘンリーだ。
彼が奥様がたの毒牙にかからないよう、わたしがガードしてあげるんだ。
そう張り切っていたんだけど、ヘンリーは一瞬顔を出しただけで、いなくなってしまった。
変な事件に巻き込まれるよりいいけど、もうちょっと見たかったな。




