わたしはヒロイン
おかしい、おかしい。
なんでわたしがラルフに怒られているの?
……怒るというか、恥をかかされたって感じ。
もう、違うでしょう?
「明るくて、なんて感じのいい子なんだ。引っ込み思案の妹をよろしく頼むよ」
って微笑んで、わたしの手の甲にキスするはずなのに。
まるで怪しい人物を見るみたいな目つきに、これ以上粘っても無駄だと悟った。
しぶしぶお茶の席に戻ったら、令嬢たちのかしましいこと。
「余所のお宅を勝手に歩き回ったらいけないわ」 って。
知ってるわよ。
わたしだって、乙女ゲームのイベントじゃなきゃ突撃しないってば。
えーと、誤魔化した方がいいかな。
「強い視線を感じたものですから、気になって……」
頬に手を当てて、目線を下に。頬を染めて、恥じらいを見せるのよ。
「強い視線?」
「あなたは感じた?」
箱入りの令嬢たちは、そんな内緒話を始めた。
お小言を回避する作戦、成功ね。
「それだけで、どこのお部屋からの視線かわかってしまうのですか?」
ダイアナはこの話題を引っ張る気か。まあ、この家の人間だから、気になるのも仕方ないかな。
「わたくし、人の視線には敏感なのです」
ちょっとトラウマがありそうな、儚げな微笑を作る。
ほら、可愛すぎて不埒な視線に敏感とか、そんな感じで納得してほしい。だって、二重ぱっちり、鼻筋が通った美少女なんだもん。
……実際、そんな特技はない。
種明かしをすると、目印があったのだ。
ラルフの部屋の向かいに、専属侍従の控え室がある。
専属侍従はその部屋の扉の上端と枠の間に葉っぱを一枚差し込んでいる。無断で部屋に誰かが入ったらわかるように。すごく神経質なのよね。
わたしはフットマンを振り切って、二階の廊下を走りながらその葉っぱを探した。
葉っぱの先なんて小さいだろうから、見落としたらどうしようっていう不安もあったわよ。
だから、見つけたときは感動したわ。
心の中で「やったー!」って叫んだ。こっちの世界の体は、視力が良くてよかったなって。
あ、領地にいる家令をクビにした方がいいって、教えてあげるのを忘れた。
でも、あんな感じの悪い人に教えてあげることもないか。
ほんと、偽物かって言いたくなるくらい、ラルフは感じ悪かった。
えーと、確か、家令は高圧的な態度で、苦情を握りつぶすのよね。ラルフたちはその情報を知らないから、当然、対策の立てようがない。
放置された問題はどんどん大きくなって、大問題を引き起こすの。
わたしが活躍するのは、そのとき。
家令と村長たちとラルフ、三者の意見を平等に聞いて、みんなが納得するミラクルな名案を導きだすのよね。
ということは、家令を今クビにしちゃいけないか。しばらくは泳がせておいた方がいいんだわ。
だけど、全員が納得する案って、なんだったっけ?
そこに辿り着く前に、興奮した村長の一人にわたしは手を挙げられそうになる。そこを、ラルフが助けてくれるのよ。
「君はなんて無茶をするんだ」
「だって、この問題を解決しないと、ラルフが大変なことになるじゃない!」
「私のためにそこまで……」
そこで、ラルフはわたしをぎゅっと抱きしめるの。そして、そのあと……むふふふ。
色っぽいイラストが堪らないのよね。
でも、現実のラルフはあんな感じで大丈夫かしら。解釈違いだわ。
偉そうで感じ悪い人が次期領主とか、心配だな。
わたしがぶたれそうになっても、助けにくるのが間に合わない雑魚キャラっぽくない?
バッドエンドの場合、ラルフもダイアナも没落するんだよね。
わたしはそれに巻き込まれたくないから、ラルフは攻略するのはやめようかな。
逆ハーレムが達成できないのは、ちょっと残念だけど。
全てのイベントを漏れなくこなすのも、意外と大変そうだし。一瞬、スタンプラリーかよって思っちゃった。
うん。堅実にいこう。
そういえば、隣にいたのはラルフの乳兄弟か。糸目で、侍従にしては口が悪いの。
二次創作でカップリングになっていた気がする。
ふむ。もう少ししっかり、そういう目で観察してもよかったわね。もう二度と会う機会がないのならば、尚さら、惜しい気がしてきた。
そうよ。彼らは学生じゃないから、わたしが努力しないと接点すらないのよ。
もう!
わざわざ出向いてあげたんだから、感謝してほしいわ。




