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転生ヒロインの被害者の会  作者: 紡里


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2/12

攻略対象:年上のお兄さん枠(後編)

 突然、私の部屋に乱入した少女が、不躾(ぶしつけ)に言い放った。

「名乗らなくてもランドルフって知ってるけどね!」


 専属侍従が、いつでも取り押えられるように警戒態勢を取った。

 フットマンもアンジェリカとの距離を詰める。


「ラルフは灰色の髪の毛をアップにしているけど、今みたいに一筋垂れているのも色気があってイイネ。

 前髪を下ろして、実年齢より幼く見えるのも見たいなぁ。お風呂上がりで雫が垂れているのは、超絶セクシーだったよね」


 アンジェリカは上半身をこちらに傾け、私の顔をのぞき込んだ。

 まるで悪魔が少女の姿で現れたような、底の知れない不気味さを感じる。

 なぜ、私の風呂上がりを知っているかのような言動をするのだ?


 髪が一筋垂れているのは、先ほど頭をかきむしったからだ。

 貴族らしくない、見苦しいと、乳兄弟にあとで小言を言われかねない。

 いや、こんな強烈な不審者を前にしたら、髪型など些末なことか。


 一昨年、女学校が開設された。

 年の離れた妹も、両親に懇願して通うようになった。

 楽しそうだと微笑ましく眺めていたが、こんな生徒がいるのでは悪影響が心配だ。

 可哀想だが、妹を中退させることも検討した方がいいかもしれない。


 それにしても、男性の私室に侍女も伴わず女性が入ることの意味を知らないのか。

 このままでは私の評判が危うい。


 さて、どうするのが最善だ?

 私はおもむろに立ち上がり、窓を開けた。

「ダイアナ! お前の友人がこの部屋に突然来たのだが、どういうことかな?」


 途端に、お茶会がざわめいた。

「あの方、席を外してなかなか戻ってこないと思ったら……」

「なんて無作法な!」

「今日だって無理矢理割り込んできて、ひどいわ」

 眼下の少女たちは慌てている。

 淑女としては泰然としていてほしいものだが、他の令嬢たちはまともな感覚を持っているようで安心した。


 いや、まだ安心するのは早かったか。


「え、ちょっと待ってよ。あたしは挨拶に来ただけでしょ」

 逃げるでもなく、こちらに食ってかかるのは根性がある。

 ――だが「根性がある」なんて、令嬢に対する褒め言葉ではないぞ。


 私は、もう令嬢ではなく、ただの不審者として相対することに決めた。


「挨拶に来ただけなら、なぜ慌てるのかな。同級生たちに知られたくないということは、何かしら後ろめたいことがあるのだろう?」

 片方の唇を上げ、意地悪い顔を見せてやる。お前の言いなりにはならないぞというポーズだ。


「うっそ。信じられない、この男。もう、いい!」

 アンジェリカと名乗った女は、顔を真っ赤にして、怒って出ていった。結局、家名を名乗らなかったな。


 私はため息を吐き、専属侍従に尋ねた。

「今のは、何だったんだ?」

「金の力で爵位を手に入れた『にわか貴族』か、最近になって貴族家に引き取られた庶子でしょうか」

「お前も扉を突破されて情けないぞ」

 ふと乳兄弟をからかいたくなった。

「申し訳ございません。あまりにも予想外で、後れを取りました」

 しれっと謝罪されてしまうと、それ以上突っ込めない。隙のない奴だ。


 私は再び机の上の陳情書に目を落とした。そして先ほどと同じように、頭を抱える。



 その日の晩、食事をしながら妹に尋ねた。

 アンジェリカという女は「なんで共学じゃないのよ」と女学校に文句を言い、頻繁に男子だけの学院へ忍び込もうとする問題児なのだそうだ。


「どうしてそんな子を連れて来たの?」

 母がダイアナを見つめた。

「彼女が馴染めていないのが可哀想で……」

 心優しい妹は、そう言って目を伏せた。


「ダイアナ。優しくしても、恩を仇で返す人もいるんだ」

 そう言うと、ダイアナははっと顔を上げて、悲しそうに眉尻を下げた。

「あの生徒が問題を起こしたら、やはり女学校など必要ないという意見が出てくるぞ」

 可能性の話を、あえて断言した。

 それくらい言わないと妹は断れないだろう。


「ほう、そのような問題があるのかね」

 父が落ち着いた声で訪ねると、妹はびくりと肩を揺らした。

「あの、お父様。あんなに変わった方は、一人だけですわ」


 何か面倒ごとに巻き込まれなければいいが……顔を曇らせる妹を見ながら、私は不安を覚えた。


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― 新着の感想 ―
いやいや、護衛対象が居るのに踏み込まれてどうするの? 酸やら毒液ぶちまけられたり短剣で若様殺されたりするかもしれなかったのに、なんで平然としてるの? ここの家の警備ザルすぎてこわいですよ…
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