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第7話 魔界の裏側と、接客の意味

その日、オルガに連れられて魔界のあちこちを回った後、俺の頭の中は完全にぐちゃぐちゃだった。

魔界って、思ってたよりずっと面倒くさくて、複雑で……そして、なんか魅力的。

翌日、オルガが俺を呼び出した。

オルガ「昨日は軽く世界を見せただけだ。今日は本物の『魔界の素顔』を見せてやる。

ついてこい、電斗」

低い、渋い声。銀色の短髪に立派な角を生やした大柄な体。

オルガはただ立っているだけで、妙な安心感と圧迫感の両方を与えてくる、所謂イケてるおじさんだった。

俺は少し緊張しながら、オルガの後ろを歩いた。

最初に連れて行かれたのは、魔王城に近い下層街だった。

街は一見活気があるように見えたけど、魔物たちの顔がみんな疲れていて、どこかぼやけた感じがした。

近くでゴブリンがぼやいている。

ゴブリン「また魔王様の都合で俺たちはまたモブキャラ扱いだ……」

オーク「給料も遅えし、上司はサボりばっか……もうやってらんねえよ」

俺は思わず足を止めた。

(……魔王様のストレスが、こんなに街全体に影響してるのか……魔界、めっちゃめちゃくちゃすぎる……)

オルガが俺の横で、低く落ち着いた声で言った。

オルガ「魔王様のストレスは数年前からヤバいことになってる。

それが魔力として魔界中に広がって、みんなのイライラを増幅させてるんだ。

結果、客の態度が悪くなり、接客の難易度が跳ね上がってる」

その声には、長年この世界を見てきた者の静かな苛立ちと、諦めきれない熱が混じっていた。

次に連れて行かれたのは、接客ギルドの訓練施設だった。

そこで俺は初めて店員たちの訓練を見た。

猫耳の少女が俺に気づいて、ぴょこんと駆け寄ってきた。

ルカ「わあっ! 新しい人だ! 紫色の肌、すっごくかわいい! ふわふわしてるみたい!」

ルカは猫耳をピクピク動かしながら、俺の顔をじーっと覗き込んできた。

大きな瞳がキラキラしていて、尻尾が嬉しそうに左右に揺れている。

ルカ「私はルカ! 派遣接客士やってます! オルガさんに聞いたよ、魔物マートで頑張ってる熱血新人さんでしょ?

ねえねえ、紫色って触ってもいい? すべすべしてる?」

俺「え、あ、ちょっと待って……!」

ルカは俺の腕をちょんちょんと触りながら、にこにこ笑った。

ルカ「わあ、意外と冷たい! 魔力の感じが新鮮だね!

私も最初は全然ダメダメだったけど、今は派遣でいろんな店を回ってるよ!」

オルガはルカの頭を軽く撫でながら、穏やかに笑った。

オルガ「ルカは移動接客の専門だ。一つの店に留まらず、色んな店を渡り歩いて経験を積む。

お前も将来的にはそうなるかもしれないぞ」

ルカ「魔界って広いから、店によって全然やり方が違うの!

カラオケは歌で盛り上げるし、居酒屋は酔い度管理が命だし、パン屋は発酵魔法の波長合わせが超難しいの!

電斗くんもがんばってね! 私、応援してるよ!」

ルカは猫耳をぴょこぴょこ動かしながら、両手を握りしめて応援ポーズを取った。

その無邪気な笑顔に、俺は思わず頰が緩むのを感じた。

(……この子、めちゃくちゃかわいいな……俺、紫色ピエロなのに、こんなにかわいい子に「がんばって」って言われると、なんか照れる……!)

訓練施設の奥で、オルガが俺を見下ろした。

オルガ「魔王様のストレスが限界を超えると、魔界全体が暴走する可能性がある。

それを防ぐ一つの手段が『接客』なんだ。

客の不満を笑顔で受け止め、満足させて、少しでも魔界の空気を良くする……

それが今、魔界に必要なことだ」

その声は低く、落ち着いていて、でも芯に熱いものが宿っていた。

俺は静かに拳を握った。

(魔界の裏側を知って、ますますわからなくなってきた……

でも、俺は接客で強くなりたい。

あいつを超えるためにも……この世界で生きていくためにも)

オルガは俺の肩を、大きな手で軽く叩いた。

オルガ「いい目してるじゃねぇか。

次はルカと一緒にカラオケ屋に行ってバイトしてこい」

ルカ「えへへ! 電斗くん、一緒にがんばろうね!」

その後、俺はルカと一緒にカラオケボックス「魔音亭」に向かった。

ルカは俺の横をスキップするように歩きながら、猫耳をピクピクさせ、楽しそうに話しかけてくる。

ルカ「カラオケは本当に楽しいよ! 歌で盛り上げるのが大事なんだ!

電斗くん、ダンス部だったんでしょ? 歌も好き?」

俺「え、えっと……まあ、ちょっとだけ……」

(……距離感近い……でも、ルカがこんなに楽しそうにしてるなら、俺も本気で頑張ってみるか)

その日、俺は魔界の深さと、接客の重さを改めて知った。

ルカの明るい声が耳に残り、俺の胸は少しだけ高鳴っていた。

第7話 完

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