第4話 俺は、少しずつ前へ
昨夜の夜勤を終えた後、俺は宿舎のベッドで拳を握りしめていた。
紫色の魔物である俺の体が、悔しさで小さく震えていた。(まだ……全然足りない)でも、落ち込んでいる暇はない。
俺は負けるのが嫌いだ。
だから今日も、昨日より少しでも前へ進む。夜勤が始まって1時間後、試練が来た。1人目 ヘッドホンをしたスケルトン
完全に無視して指だけで注文してくる。
(スケルトンの内心)
(クソ……昨夜墓場で寝てたらゾンビの腐った腕が頭蓋骨に落ちてきて朝まで耳鳴りだ。しかも今朝は魔王軍アプリが魔力障害で給与明細が見れねえ……)俺は声を張り上げて確認したが、結局注文を一つ間違えて魔法陣が赤く明滅した。
客は不機嫌そうに去っていった。(……反省点。確認が甘かった)2人目 タメ口全開のオーク
「ビール出せよ、バカ。早くしろ」
(オークの内心)
(はあ……朝から上司に血のペン投げつけられて目ん玉刺されかけたし、自動販売機が爆発してマグマコーラを浴びたわ。靴の中には小悪魔まで入って足の指をずっと噛まれてる……)俺は丁寧に返そうとしたが、相手の勢いに飲まれて早口になってしまった。
オークは舌打ちをして去った。(……反省点2。自分のリズムを保てなかった)そして3人目。
今度は商品を思いっきり投げてくる大柄なオークだった。目が据わっており、これまでで一番態度が悪い。(オークの内心)
(今日はマジで苛々する……魔王軍の給料は遅えるし、昨日は上官に火炎瓶ぶん投げられて避けたら部下が丸焼き。今朝は地下鉄が魔竜暴走で2時間遅れ、隣のデーモンに肘鉄食らって、ガーゴイルが石化してレジに激突……全部腹立つわ)会計後に缶をカウンターに勢いよく投げつけてくる。ここで俺は、1人目と2人目の反省点を全力で活かした。
素早く缶をキャッチしながら、紫色の体を大きく見せ、最高の笑顔を真正面から向け、はっきり大きく言った。「ありがとうございます! 投げていただいた商品、確かに受け取りました!
ただ、次からはカウンターに置いていただくと、より安全でスムーズです!
お客様のご満足のため、よろしくお願いします!」オーク「はあ? てめえ今なんか言ったか? 俺の態度が気に食わねえのかよ!?」俺は笑顔を崩さず、すぐに返した。
「気に食わないかどうかはお客様が決めることです!
投げると商品が潰れたり味が変わったりしますから、カウンターに置いていただけると助かります!」オーク「うるせえ! 新米が偉そうに——ったく、魔王軍も給料遅えし上司は八つ当たりばかりだ……」俺「魔王軍のご苦労、お察しします!
私も接客でイライラすることはありますが、お客様のような熱い方が来てくださると燃えてきますよ!」オーク「ははっ、ふざけんなよ紫色の魔物!」俺「ですが私は全力でお客様をおもてなししたいんです!
魔界は厳しいですが、この店では少しでも気持ちよく帰っていただけるよう頑張ります!
どうか、もう一度チャンスをいただけますか!?」オークは一瞬言葉に詰まり、気まずそうに目を泳がせた後、プッと吹き出した。(オークの内心)
(……こいつ、投げたのに一切引かねえ。魔界の愚痴まで笑顔で聞いてきやがる。ムカつくけど……なんか少し肩の力が抜けた)「……チッ。お前、良い店員だな。
魔界はみんなイライラしてるからよ……」オークは照れくさそうに頭を掻きながら、商品の袋を掴んだ。「また来るわ、熱血紫色」俺はレジの前で、思わずガッツポーズを決めた。
(……やった!)失敗を認め、反省し、すぐに次の客で試す。
それを繰り返すことで、俺は確かに少しずつ、でも確かに前へ進んでいる。店長代理が遠くから見ていて、珍しく満足げに頷いた。
「お前、今日の顔……なかなか良かったぞ」俺は汗を拭いながら、笑った。
「まだまだです。でも、昨日より今日は確実に強くなれた気がします」俺は負けるのが嫌いだ。
だからこそ、今日も前を向いて歩き続ける。
第4話 完




