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46歳おっさんの形意拳が、異世界でチートになった 〜魔法も剣も届かない究極の拳法で、第二の人生を無双する〜  作者: 九条竜二


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第98話「王都の華、降臨」


新規オープンまで、あと三日。

 店舗分離が決まった時、皆で話し合って店名を変えることになった。キャバクラの名前は『ジャンヌダルク』。現世の銀座に実在する、最高峰と呼ばれるクラブから貰った名前だ。焼肉屋は『ジョジョエン』。現世で有名な焼肉店、叙々苑から貰った。

 改装中の店内は、埃と塗料の混じった匂いに包まれている。

 ジョジョエンのホールを仕切るのは、バッドの母親だ。彼女は開店前から厨房スタッフと打ち合わせを重ね、段取りを一つ一つ確認していた。


「いよいよ、3日後だね」


その言葉に、疲れた様子は一切なかった。ゼノンとギノンも焼肉屋に配属され、ホールの動きを覚えようと母親の後ろをついて回っていた。

たまたま暇を持て余していたタツヨが、用事もないのにリュウジィについてきていた。


「なあ、オープンまで人手足りてるか?」

 

タツヨの方から聞いてきた。


「正直ギリギリかな」


「俺、居酒屋でバイトしてたから、ホール回りなら慣れてる。落ち着くまで手伝おうか」


「いいのか?」


「暇だし」

 

リュウジィは少し考えてから頷いた。


「助かる」


「飯は食わせろよ」


「キングオーグでいいか」


「それで十分だ」


しばらくして、店の扉が開いた。

その瞬間、店内の空気が変わった。

職人たちが口を閉じ、床材を運んでいた者たちが手を止める。厨房からホールへ出てきたスタッフが、思わず立ち止まった。誰も声を出さなかった。出せなかった、という方が正しい。


男だった。


だが、普通の男ではなかった。

艶やかな黒髪を後ろに流し、細身の黒い上着を纏った姿は、どこか現実離れした美しさがあった。一歩踏み出すたびに、その存在が場を支配していく。宝塚の舞台から抜け出してきたような、息を呑む存在感。かつて江戸の花魁道中を一目見ようと群衆が集まったというが、まさにそういう類の「華」だった。


深紅のルビーのような瞳が、改装途中の店内を静かに見渡す。


二階の階段からキャストたちが身を乗り出した。誰かが小さく「誰……?」と呟いたが、答えられる者はいなかった。


ロクメイカンを知らない者には、ただならぬ存在感の男に映った。ロクメイカンを知っている者には、信じられない光景だった。

「……遅くなりました」

その声で、リュウジィは気づいた。

「ミライ」

「はい」

 バッドが目を見開く。

「……ミライさん!?」

「久しぶり、バッド」


ミライは僅かに微笑んだ。その笑顔だけで、店内に漂う塗料の匂いまで浄化されたように感じた。

「男装……っすか?」


「アドバイザーとして働くから」


バッドは一瞬固まってから、隣のゼノンとギノンに小声で耳打ちした。「兄貴の彼女だ」。二人は顔を見合わせ、リッカは思わず口を閉じた。


ハクだけが、静かに一礼した。


「よろしくお願いいたします」


「こちらこそ」


階段の上から、ハニーブロンドのロングヘアーをした女が駆け下りてきた。リナだった。


「ミライさん!」

 リナはミライの両手を握った。

「よろしくお願いしますね」

 

ミライはリナの手を静かに握り返す。


「こちらこそ。リナさんが中心だから、何でも言って」

 

リュウジィがスタッフ全員を見渡した。


「紹介する。ジャンヌダルクのアドバイザー、ミライだ。リナが中心なのは変わらない。ミライはリナのサポートとして入ってもらう」


リナが少し安堵したように息を吐いた。同い年の二人の間に、言葉以上のものが流れていた。


一通りの紹介が終わった後、リュウジィはゼノンとギノンを手招きした。


「ちょっと来い」


二人は顔を見合わせながらついてくる。リュウジィは布に包まれた細長い荷物を二つ取り出し、それぞれに手渡した。


「開けてみろ」


ゼノンが布を解くと、銀色の輝きが目に飛び込んできた。ミスリルのサーベルだった。ポンメルには、精巧な狼の彫刻が施されている。ギノンも同じものを手にして、しばらく言葉が出なかった。


「……これ、俺らに?」


「お前らの剣だ」


ゼノンはサーベルをゆっくりと抜いた。刀身が光を弾く。ギノンも同じように抜いて、しげしげと眺める。


「……兄貴」


ゼノンが口を開いた。声が、少し掠れていた。


「ありがとうございます」


ギノンも深く頭を下げた。言葉は短かったが、それで十分だった。

バッドが腕を組んで、満足そうに頷いていた。


横からタツヨが近づいてきた。ミライをちらりと見て、リュウジィの耳元に口を寄せる。

「(声を潜めて)お前の彼女か。いい女じゃん」


「うるさい」


「後で紹介しろよ」


「してるだろ、今」


「ちゃんとした紹介をしろって言ってんだよ」


ミライがその様子を見て、僅かに口元を緩めた。


「タツヨさんですね。リュウジィから聞いてます」


「俺のことも知ってんのか」


「ええ」


タツヨは一瞬だけ目を細め、それからニッと笑った。


「よろしくな」


新規オープンの話が終わり、ミライと一緒に外に出る。久しぶりに会った割に、妙に自然な距離感だった。


夜の王都を並んで歩きながら、他愛のない話をした。ロクメイカンを辞めてからの日々、荷物をまとめるのに思ったより時間がかかったこと。ミライの語る言葉には、リュウジィも気づかなかった視点での店の改善案が混ざっていた。

しばらく歩いたところで気がつく。


「ミライの家ってどこなの?」


「(首を傾げながら)さあ、どこでしょ?」


「……うちに来る?」


「そうしようと思ってたわ」


当然のように言って、ミライはリュウジィの腕に手をかけた。主導権がどちらにあるのか、言うまでもなかった。


リュウジィの家の前に、男二人と荷馬車が止まっていた。


「ミライ様、こちらの家に運べばいいんですか?」


「……えっ? 何これ」


「(さらりと答えて)今日から、ここが私の家」


「えっ! 聞いてないよ」


「言ってないもん」

 

ミライは薄く微笑んだ。


「ダメ?」


「……ダメとは言ってないけど」


「じゃあいいじゃない」


「それを押しかけって言うんだよ」


「知ってるわ」

 男たちに視線を向ける。


「(男たちに向かって)今この人が扉を開けるから、そしたら運んで」


「へ、へい!」


リュウジィは苦笑した。

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