第90話 ウロボロスの産声
建物内からは、一瞬で話し声が消えた。
掲示板に群がっていた連中も、カウンターに並んでいた連中も、全員が手を止めてこちらを見ている。誰もが驚いた顔で固まっており、広間はただ、妙にひっそりとしていた。
「お前いきなり無茶すんなよ。ヤクザ映画じゃないんだからさ」
リュウジィがそう言うと、タツヨは平然とした顔で答えた。
「(床の連中を見下ろしながら)いいんだよ、最初が肝心なんだ。舐められたままじゃ、まともな仕事も回ってこないだろ」
タツヨは足元で呻いている男たちに視線を落とした。ボディブロー一発で床に沈んだ二人組は、いまだに腹を抱えたまま、満足に呼吸もできずに震えている。
「おい! いつまで寝てんだよ。さっさと起きろ」
タツヨは、踏みつけている男の横でうずくまっているもう一人の男に向かって、ぶっきらぼうに問いかけた。
「お前らのランクは?」
「(苦しそうに顔を歪めながら)……ウッ、C……Cランクです……」
「Cランク? じゃあ大したことねえな! 目障りだからさっさと消えろ」
タツヨが足を退けると、二人はよろけながら、肩を貸し合い、急いでその場を去っていった。
広間には再び静けさが戻ったが、掲示板の前に立つ二人を、遠巻きに伺うような視線だけが残った。
その時、奥のテーブルに座っていた三人組のうちの一人が立ち上がり、こちらに向かって歩いて来た。
「お二人ともまだ依頼決まってないんだったら、俺達の依頼一緒にやりませんか?」
男の誘いに、リュウジィは首を振って答えた。
「誘ってくれるのは有難いけど、俺達、長期間の依頼は出来ないよ」
「3日もあれば余裕で終わるんですが」
男がそう食い下がると、タツヨが横から口を出した。
「(リュウジィと顔を見合わせてから)俺達Eランクだけど大丈夫なのか?」
「依頼の条件が、Dランク冒険者三人で合計五人の依頼なんですが、この街で合流するはずだった二人が来れなくなってしまったので」
男はそう言うと、奥のテーブルに座っている仲間の二人に手招きをした。
席から立ち上がった二人が歩み寄り、三人揃うと自己紹介を始める。
「俺達、『気紛れな旅団』というパーティーです。俺がリーダーのジャスパー。右から弓使いのオリオン、魔法使いのアミリです」
「『ウロボロス』のリュウジィとタツヨジョージです」
お互いに会釈を交わす。挨拶が終わると、タツヨがすぐに本題を切り出した。
「依頼内容は何?」
「この王都から食料、薬品、洋服、雑貨などを商業都市アメヨコまで運ぶさいの護衛です」
アメヨコという名前に、リュウジィとタツヨは思わず顔を見合わせ、笑いそうになるのを堪えた。
「(笑みをこらえながら)是非やらして下さい」
「助かりました。依頼を受けたけど人数足りなくて、どうしようかと思ってたので」
ジャスパーが安堵した表情を見せる。
「出発はいつから」
「明日の朝からです」
「「了解!」」
二人は声を揃えた。待ち合わせ場所などの詳細を決め、
「ふろむ・えー」を出る時に気がついた。三人とも背負っている荷物が多い。
「何でそんな荷物が多いの?」
リュウジィが尋ねると、オリオンが答えた。
「僕らアイテムボックスないんで、仕方ないんですよ」
「アイテムボックスなんてあるの?」
「ええ、武器屋に置いてありますよ。高価ですし、小さいですから店頭には置かないですけどね」
そのやり取りを聞いていたタツヨが会話に加わる。
「いくらすんの?」
「10万ゴルドぐらいです」
「なんだそんなもんか。じゃあリュウジィと二つ買って一つやるよ。なぁリュウジィ」
「初めての依頼の記念にいいよ」
魔法使いのアミリが、目を丸くして驚いた。
「(絶句してから)本当ですか! 貴方達何者ですか?」
「(ニッコリしながら)俺達か? 俺達はパーティー『ウロボロス』」
五人はそのまま近くの武器屋へ向かい、アイテムボックスを二つ購入した。それは現世のお守りを一回り大きくしたような、手のひらに収まるポケットサイズだった。
タツヨがそのうちの一つをジャスパーに差し出すと、三人は驚愕し、何度も頭を下げた。
「(必死に頭を下げながら)これだけの物を頂くわけには……。せめて道中の食料などは自分達ですべて用意させてください」
ジャスパーたちは恐縮しきった様子で何度も感謝を口にし、明日の合流場所を確認してその場で別れた。




