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46歳おっさんの形意拳が、異世界でチートになった 〜魔法も剣も届かない究極の拳法で、第二の人生を無双する〜  作者: 九条竜二


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第89話:ふろむ・えー


 二日後。

 俺はタツヨと待ち合わせをして、王都の通りを歩いていた。新居への引っ越しを終えたタツヨは、心なしか足取りが軽い。


「引っ越し、無事に終わったみたいだな」


「ああ、カエデちゃんが良い物件を見つけてくれて助かったよ。これで腰を据えて動ける」


俺たちは目的の場所を目指して、石造りの建物が並ぶ区画へと入っていく。


「ところでタツヨ。冒険者登録するなら、パーティー名が必要になるだろ。どうする?」


タツヨは足を止め、腕を組んで考え込んだ。少しの沈黙の後、ニヤリと笑って俺の肩を叩いた。


「俺とお前だぜ? だったら、こっちの奴等に通じない言葉だけど、2匹の龍で『ウロボロス』にしないか? 二人とも名前に龍が入ってるしな」


「(少し考えてから頷き)ウロボロスか。かっこいいなそれ。それにしよう」


 方針が決まったところで、見慣れた建物が見えてきた。入り口には大きな「A」の文字が掲げられている。


「あそこだ。前も一回来たけど、相変わらず人が多いな」


「へえ、あそこが『ふろむ・えー』か。確かに賑わってやがる」


 案内された「ふろむ・えー」は、周囲の建物と同じく無骨な石造りだが、入り口付近には独特の喧騒が漂っている。


俺たちがその大きな門をくぐり、中へと足を踏み入れた瞬間だった。掲示板に群がっていた連中や、談笑していた冒険者たちの視線が、一斉に俺たちへと注がれる。


だが、その視線はどこか冷めていた。この世界、上位ランクになれない冒険者なんて、現世で言えばただのフリーターだ。実際にはその日暮らしの仕事を探してくすぶっている連中ばかり。そんな「掃き溜め」特有の、焦燥感と倦怠感が混ざった空気が、建物内の端々にまで沈殿していた。


連中の視線も一瞬のことだった。彼らはすぐに興味を失ったように自分たちの作業に戻り、再び建物内に騒がしさが戻る。


「(周囲の様子を油断なく一瞥してから)……さて、行くか」

「ああ」


俺たちは騒がしい広間を横切り、正面にある受付カウンターへと向かった。


「すいません、冒険者登録をお願いしたいんですが」


俺が声をかけると、受付の職員は慣れた手つきで二枚の羊皮紙を差し出してきた。


「新規登録ですね。まず、お二人とも最初はEランク、つまり初心者からのスタートになります。実績を積めばランクは上がりますが、最初は受けられる依頼に制限がありますのでご了承ください」

 

説明を受けながら、俺たちは差し出された羊皮紙を広げた。


「(備え付けのペンを手に取り)この項目を埋めればいいんだな」


「ええ。お名前と、パーティーを組まれるのであればその名称もお願いします」


名前の欄に、俺は自分の名を書き込み、パーティー名の欄には「ウロボロス」の文字を力強く書き込んだ。


「(書き終えた羊皮紙をカウンターに差し出し)これでお願いします」


「俺も書けた。パーティー名は、こいつと同じだ」


タツヨも書き終えた紙を横に並べた。職員はそれを受け取り、内容を確認していく。


「リュウジィ様とタツヨ様ですね。パーティー名は……『ウロボロス』。はい、受理いたしました」


職員は受理の印を押し終えると、顔を上げて背後の壁際にある巨大な掲示板を指差した。


「募集はあちらです。Eランクの募集は一番右側になります。冒険者以外の募集も貼ってありますので、お間違えないようにしてください」


「一番右ですね、了解です。行こうか、タツヨ」


俺たちは職員に軽く会釈をして、掲示板へと歩き出した。


一番右端、Eランクの依頼が並ぶコーナーには、頼りない紙切れがいくつか貼られている。


「(一枚の依頼書を指差して)これなんかいいじゃないか? 『薬草採集』!」


「(即座に突っ込んで)いいね! なわけないだろ? 俺たちはこの世界を見に来たんだ。農民やりに来たんじゃないんだからさ」


 俺も負けじと、隣にあった別の依頼書を指差す。


「タツヨ、これいいんじゃない?


『迷子の黒猫探し』」


「ふざけんなよ、ワクワク動物ランドかよ!」


あまりに落差のある依頼内容に、俺たちは顔を見合わせ、声を上げて爆笑した。金は腐るほどある。だからこそ、この「初心者用」の微妙なラインナップが逆に可笑しくて仕方がなかった。


だが、その笑い声を遮るように、背後から無骨な声が叩きつけられた。


「おい、邪魔だ! どけよ」


振り返ると、そこには不機嫌そうな顔をした二人組の冒険者が立っていた。装備の使い込まれ具合からして、それなりの経験を積んでいるようだ。大柄で髭を生やした男が、俺たちを威圧するように見下ろし、ぶっきらぼうに口を開いた。


「おい小僧ども、ランクは?」


「(悪びれる様子もなく)さっき登録したばかりのEランクです」

 

タツヨが正直に答えた瞬間、髭の男と、その仲間らしき男が顔を見合わせ、堪えきれないといった様子で吹き出した。


「(鼻で笑いながら)ハッ、雑魚か? 雑魚はどけ! 邪魔なんだよ」

 

男はそう吐き捨てると、わざと肩をぶつけるようにして、俺たちの間に強引に割り込もうとしてきた。

 その瞬間だった。


 ――ドンッ! ドンッ!

 

空気が震えるような鈍い音が二度響く。

タツヨが目にも留まらぬスピードで踏み込み、二人を通り抜けざま、正確なボディブローを叩き込んだ。


「が、はっ……!?」

 

男たちは悲鳴にすらならないうめき声を上げ、身体をくの字に曲げたまま、床へ沈んだ。一瞬の出来事に、建物内が静まり返る。


「(血相を変えて駆け寄ってきながら)な、何をしてるんですか! 喧嘩は困ります!」

 

慌てて飛んできた係員の制止など、タツヨは気にする様子もない。


「(男の後頭部を足の裏でグリグリと踏みにじりながら)おい! ここにいるてめえら! 聴け!」


タツヨの声が、騒がしかった建物内の隅々にまで響き渡る。


「(顔を上げて広間を睨み据えながら)俺たちはEランクパーティーの『ウロボロス』だ! 文句ある奴は全員相手してやる。まとめてかかってこいや!」


あまりの横暴さと、それを支える圧倒的な実力を前に、掲示板に群がっていた連中は蛇に睨まれた蛙のように沈黙した。

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