表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46歳おっさんの形意拳が、異世界でチートになった 〜魔法も剣も届かない究極の拳法で、第二の人生を無双する〜  作者: 九条竜二


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

86/116

第86話 ツキノの告白


 馬車が止まり、俺は外に出た。

 夕闇の中に、前と変わらない黄金の輝きが浮かんでいる。

 ロクメイカンの建物を見上げた。ここに来るのは2度目だ。

 

自分の店の3倍は魔石を使っているという金色の建物は、豪華な光を放ち、夜の闇を塗りつぶしている。外壁に埋め込まれた大量の魔石が、周りの家並みを圧倒するように光っていた。その明るさは、自分の店とは比べものにならない。

 

彫刻のある重い鉄の門の前に立ち、一呼吸置いた。


門の両脇に立つ正装の門番が、俺の前に一歩出て、視線を向けてきた。


「お名前を伺ってもよろしいでしょうか」


「ギャングスターの、リュウジィだ」


俺が答えると、門番は短く頷き、黄金の門に手をかけた。重い音を立てて、左右に扉が開く。

開いた門の奥から、甘い香油の匂いと、黄金の光が流れてきた。


石畳を踏み、建物の中に入った。

エントランスを抜けた先には、広いロビーがある。床には毛足の長い絨毯が敷かれ、足音が消える。前にカシムと座った、深い緑色の革張りソファが並ぶ一角を通り過ぎた。

ロビーの奥から、聞き覚えのある足音が近づいてきた。

 

黄金の光を背にして現れたのは、ツキノ本人だった。


「……リュウジィ来てくれたの?」


ツキノは俺の前で足を止め, 少しだけ目を細めた。


相変わらず、真夜中の闇を溶かしたような黒髪が波打ち、歩くたびに甘い果実の香りが漂う。跳ね上がった目尻に縁取られた深紅の瞳は、やはり俺の心の内を見透かしているようだった。


「行きましょう。こっちよ」


俺は頷き、ツキノに促されて、奥に続く広間に入った。

 広間には、贅沢な格好をした客たちが、隣に座る女性たちと楽しそうに酒を飲みながら話している。俺はツキノに導かれ、その賑やかな喧騒の中に身を置いた。

 広間の一角にある席に座り、運ばれてきたグラスを合わせた。澄んだ音が響く。


「(グラスを傾け、表情を和らげる)来てくれてありがとう。……本当に嬉しいわ」

 

ツキノはグラスを傾け、ふっと表情を和らげた。


「アズマリアの件、お疲れ様。大変だったわね」


「なんだ、バッドはそこまで話してたんだ。……あのさ、ツキノさん。ずっと聞きたかったんだけど、毎週店に来てくれてたみたいだね。なんで? 確かにうちの焼き肉は美味いけど、毎週来るのは……」


俺が問いかけると、ツキノは赤い瞳を少し泳がせ、グラスの縁を指でなぞった。


「……心配だったから、かな。自分でもよくわからないの」


「はあ? わからないって……」


「だってそんなのわからないよ。……ねえ、リュウジィ。君はどうして甘いものが好きなの? そう聞かれて、ちゃんと理由を答えられる?」


ツキノは茶目っ気のある笑みを浮かべて、俺の顔を覗き込んできた。


「うーん、それは……。でもさ、俺がいくら店をやってるからって、ツキノさんから見たら俺なんてまだ小僧でしょ。そんなに気に掛けるような相手かな」

(中身は46の親父なんだけどな)


 心の中で付け加え、俺は苦笑いして視線を外した。だが、ツキノは真剣な眼差しをこちらに戻した。

「(真剣な眼差しを向ける)自分でも不思議なの。貴方は普通の人じゃないから。言葉や見た目だけじゃなくて、もっと深いところに何かがある気がするのよ」


「普通じゃない?……まあ、確かにそうかもね」

(ある意味、普通じゃないのは確かだけどな)

 

俺が曖昧に返すと、ツキノは確信を持ったように頷いた。


「普通じゃないわよ。だってその若さでお店を成功させて、力もあって、王宮や貴族にもつてがある。そんなの、普通ならもっと傲慢になって調子に乗るわよ。でも、貴方はそうじゃない。初めてお店に行った時だって、どこか冷めていたし」


「そうだったかな。……あんまり自覚はないけど」

(あの時はリブルに完敗して、めちゃくちゃ凹んでたからな)


ツキノはグラスを置き、じっと俺を見つめた。


「(グラスを置き、じっと見つめる)だから気になった。何故か分からないけど、貴方のことがどうしても気になるの」

 

それからしばらく、俺たちは他愛のない話をしながら酒を楽しんだ。ツキノは時折楽しそうに笑い、俺のグラスが空くたびに酒を注いでくれた。


やがて、ツキノがゆっくりと立ち上がった。

 彼女は俺の手をそっと取り、潤んだ瞳でじっと見つめてくる。


「(俺の手を取り、潤んだ瞳で見つめる)……ねえ、リュウジィ。今夜はこのまま、帰るなんて言わないわよね?」


その問いかけには、いつもの余裕たっぷりな態度とは違う、どこか縋るような響きがあった。俺は握られた手に力を込め、彼女の顔を正面から見据えた。


「(握られた手に力を込め、正面から見据える)帰らないよ」


俺が短く答えると、ツキノは安堵したように微笑んだ。

 俺たちは広間を後にし、さらに奥へと進んだ。厚い絨毯の上を歩き、ツキノが静かに重厚な扉を開ける。

 部屋に入り、扉を閉めると、広間の喧騒が嘘のように消えた。薄暗い室内には、先ほどよりさらに強い果実の香りが満ちている。


俺は自分に寄り添うツキノの細い腰に手を回し、引き寄せた。ツキノの指先が俺の胸元に触れ、熱を帯びた瞳が俺を捉える。

 言葉はもう必要なかった。俺はそのままツキノを抱き上げ、静かな闇の中へと誘った。

 ――。

 事が終わり、静寂が訪れる。


「(俺の腕の中で顔を埋める)ねえ、リュウジィ。……私を、女にしてよ」


「(驚いて聞き返す)えっ? いきなり? なんで?」


 ツキノは答えず、俺を強く抱きしめた。

(……腕の中に、彼女の重さを感じた)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ