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46歳おっさんの形意拳が、異世界でチートになった 〜魔法も剣も届かない究極の拳法で、第二の人生を無双する〜  作者: 九条竜二


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第85話 新規店舗の下見と予期せぬサプライズ


 ギャングスターから歩いて二分ほどの場所に、その建物はあった。

 以前は別の飲食店が入っていた居抜きの物件で、カエデが見つけてきた。俺はカエデに連れられて下見に訪れた。

 

建物の前に立ち、外観を眺めた。

人通りの多い通りから一本入った角地にある。外壁は石造りで、大きな傷みは見当たらない。看板を付け替えれば、すぐに店として使えそうだった。


「ここが、新しいお店の候補地です。オーナー」

カエデが言った。

 

俺は頷き、預かっていた鍵で重い鉄の扉を開けた。

中には、前の店が使っていたカウンターや椅子がそのまま残っていた。

 天井には、排気のための小さな穴がいくつか開いている。


調理場に入り、蛇口を捻って水が出るか確かめた。火力を調整する魔石のつまみも回してみる。火床や洗い場の配置はそのまま使えそうだった。床は油で汚れている。

 

カエデは客席を歩き回り、壁や照明の状態を確認していた。


「そうだな。内装は少し変えるつもりだが、広さはちょうどいい」


俺はフロアの端から端まで歩き、歩数を数えた。

 調理台の石板に触れた。


「カエデ、お前の意見も聞かせてくれ。内装はどういう感じがいいと思う?」

 

俺が聞くと、カエデは少し考えた後、声を上げた。


「そうですね。調理場がこれだけ広いなら、客席から調理場の様子が見えるようにするのはどうでしょうか」

カエデは客席の中央に立ち、調理場の方を指差した。


「今は高い壁で仕切られていますが(カエデは調理場との境にある壁際まで歩み寄り、その表面を指先で丁寧になぞった)ここを壊して低いカウンターに変えるんです」

 

カエデは壁に歩み寄り、その表面を叩いた。


「そうすれば、調理場の活気が客席に直接伝わります。注文した肉が準備される様子が見えるのも、お客さんには安心感を与えるはずです」

 

カエデは俺の顔を見て言った。

俺は調理場の中から客席を見渡した。仕切りの壁は厚く、視界を遮っている。

壁の向こう側へ回り、カエデの隣に立った。


「確かに、この壁を抜けば開放感が出るな。だが、煙や熱気が客席に流れる」


俺は天井を見上げた。排気穴の位置を確認する。


「そこは、排気の魔石を増設して対応できます。以前の店よりも強力なものを使えば解決します」

 

カエデは床の油汚れを避けながら、反対側の壁際へ移動した。


「照明も、今は少し暗すぎます。窓を大きくするか、明るい色の石材を壁に使いましょう」


カエデは窓枠の埃を指先で拭った。


開いたままの扉から、バッドが中に入ってきた。

 バッドは店内の様子を一瞥すると、俺に向かって手招きをした。


「兄貴、ちょっと(バッドは周囲を気にしながら声を潜めた)ちょっといいですか」

バッドが小声で言った。

俺は調理台から手を離し、バッドの方へ歩いた。

バッドはカエデに背を向け、さらに店の隅へと移動した。俺はカエデから離れた場所で、バッドと向き合った。


「あのう、余計なことだとは思ったのですが。今日、兄貴の名前でロクメイカンを予約しておいたので、行ってください」


「はあ?(俺は眉を寄せ、バッドを睨みつけた)誰がそんなこと頼んだ」


「兄貴が怒るのはわかるのですが。兄貴がアズマリアに行っていた時、あの方は週に一回は店に食事に来ていて、兄貴のことを心配していたんですよ。帰ってきたら教えてくれ(バッドは困ったように頭を掻いた)と。俺、断れなかったんですよ」


 俺は無言でバッドを見た。


「余計なお世話なのはわかっているんですが、兄貴、帰ってきてからもずっと働きっぱなしじゃないですか。息抜きが必要ですよ。それにツキノさんが来ると(バッドはさらに顔を近づけて声を落とした)二階からリナさんが降りてきて、店の相談に乗ってもらったりして。店の皆とも仲が良いんですよ」


「……でもなぁ」


「兄貴の今の立場なら、女の一人や二人(バッドは真っ直ぐに俺の目を見つめた)いてもおかしくないですよ。でも、兄貴は女に対して何か、気を許さない所があるじゃないですか」

 

(決して女が嫌いなわけではない。それどころか、自分ではスケベな方だと思っている。だが、現世でキャバクラを経営し、手練手管で男をはめる女たちを見てきたせいで、女に心を許せないのは確かだった。)


「わかった(俺は一度重く息を吐き、バッドの肩を力強く叩いた)アズマリアに行った時も、ツキノさんが店に来ていると言っていたよな、お前。ありがとう。今日は店を休むよ」


「ありがとうございます。ゆっくりしてください」


「ありがとうございますって、何かな、それは」


俺は隅で待っていたカエデの元へ戻った。


「カエデ、悪いが今日はこの辺にしよう。一度ギャングスターに戻る」

「分かりました。オーナーは少し(カエデは俺の肩に手を伸ばし、目立たない埃を払った)休まれた方がいいですよ」

 

カエデは俺の肩の埃を軽く払い、店を出るように促した。

俺は一つ呼吸を置いてから、店を出た。

 

夕闇が迫る王都の道を、ロクメイカンの方角へ向かって歩き出す。

甘い香油の匂いと、黄金の輝きが待つ場所へ。


俺はツキノのルビーの瞳を思い出していた。

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