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46歳おっさんの形意拳が、異世界でチートになった 〜魔法も剣も届かない究極の拳法で、第二の人生を無双する〜  作者: 九条竜二


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第84話 通過儀礼



 ギャングスターを二つに分けるにあたり、リュウジィたちは連日話し合いを重ねた。新店舗へ移動させるのは「焼肉屋」か「キャバクラ」か。ハク、カエデ、リナ、バッド、シド、および従業員全員の意見を集約した結果、焼肉屋を新店舗へ移すことに決まった。

 

現在の店舗は、全フロアをキャバクラに改装する。二階席は贅を尽くしたVIPルームとして、新たな客層を呼び込む計画だ。

 

改装の喧騒の中、バッドとシドが扉を開け、二人の男を招き入れた。スラムから連れてきたゼノン・ヴァルカリアとギノン・ヴァルカリア。鋭い眼光を持つ双子の兄弟だ。

 二人は短く刈り込んだ頭を晒し、腰には、両手持ちができる実戦向きのサーベルを帯びていた。バッドが二人の背を押し、リュウジィの前に進み出る。

「兄貴(少し緊張した面持ちで)、スラムにいた頃の俺の昔の仲間です。こいつらが新しく焼き肉のスタッフとしてどうですかね? 昔食堂とかでは働いた経験はあるのですが」

 リュウジィは椅子に深く腰掛けたまま、二人を見た。双子はリュウジィの威圧感を真っ向から受け止め、不敵に頷く。

「二人にどこまで話を聞いてるか、わからないけど。初めまして、リュウジィです」

 兄のゼノンが一歩踏み出し、リュウジィを見下ろすように問い返した。

「初対面で失礼なんですけど、本当に強いんですか?(腰の剣の柄に指をかけ)俺達、自分より弱い奴の下には付けないんですよ」

「テメエ何言ってんだよ。兄貴、すいません!」

 バッドが慌てて声を荒らげ、二人の間に割って入る。

 

だが、弟のギノンも兄に並び、一歩も引かずに言葉を重ねた。

「本当にそう思ってます。俺達、馬鹿なんで」

 

その様子を横で見ていたシドは、内心のワクワクを抑えきれずにいた。まだ一度も、リュウジィが戦う姿を見たことがなかったからだ。

 

リュウジィは二人を見据えたまま、思考を巡らせる。

(現世なら、こんなのソッコーお帰り願うけど。こいつ等は暴力にしか敬意を払えないみたいだし、バッドの仲間なら本気で働いてくれたら戦力にはなるか)

 

リュウジィはゆっくりと立ち上がり、扉の方を向いた。


「わかった。外でやろうか(無造作に歩き出し、背中越しに二人を促して)。二人一緒でいいよ」

 

その言葉に、双子の顔色が変わる。


「「(二人の怒声が部屋に響き渡る)舐めんなよ!」」

 

青ざめたバッドが、リュウジィと双子の間に割って入ろうと右往左往する。


「待ってください兄貴! お前らもいい加減にしろ!」

 

一行は店を出て、少し歩いた所にある空き地へと移動した。シドはこれから始まる光景を想像し、口元が緩むのを隠せない。


「シド、お前も面白がってないで止めろよ!」

 バッドが苛立ちをシドにぶつけた。

シドは涼しい顔で、中央の三人に視線を向けた。


「あの二人だって中々のもんだぜ、二人相手だったら。俺達でもヤバいだろ? リュウジィさん、苦戦するんじゃないか」

 

バッドは呆れたように大きな溜息をついた。


「そっか、お前はその辺の話を詳しく知らないんだな(かつての戦慄を思い出すような目で)。兄貴はアグニ村近くの闘技場で、連勝しすぎて出入り禁止になってんだよ」


シドが息を呑むのを横目に、バッドは言葉を継ぐ。


「それだけじゃねえ。俺達がフロドとプリカを迎えに行った、アズマリアのデカい闘技場見たろ? 世界最大の! あそこで伝説の負けなしの剣闘士、ぶち殺してんだよ」


「えっ! うそっ」

シドの顔から余裕が消えた。二の句が継げず、焦った様子で空き地の中央を凝視する。

リュウジィは胸に手を当て、身に纏った漆黒のベロア生地――ファフニールに意識を向けた。

(俺の力だけでやる。お前は大人しくしててくれ)


リュウジィは対峙する双子へ、淡々と事実を告げた。

「ただやるんじゃつまらないから(相手を真っ直ぐに見据えて)。俺が勝ったら二人とも奴隷な」

 完全にスイッチが入ったリュウジィの意図を察し、バッドは苦虫を噛み潰したような顔をして天を仰いだ。


「「(抜刀の音が重なり)奴隷でも何でもなってやるよ!」」

 

二人の叫びと同時に、鋭い剣撃が上下に撃ち分けられ、空気を引き裂きながらリュウジィへ迫る。目前に迫る刃を前に、リュウジィは静かに思考を加速させた。

(あれ、遅いな……。今、ファフニールの力は使ってないよな?)

 

二つの剣撃がリュウジィの体を通り抜けた。だが、手応えはない。正面にいたはずのリュウジィの姿は消え、すでにゼノンの真横に音もなく立っていた。


「なにっ!(ゼノンが驚愕し、強引に剣を振り被る)」

 

その瞬間、リュウジィの掌がゼノンの下腹部を軽く撃ち抜いた。ゼノンは「グエッ」と声にならない声を上げ、そのまま地面に崩れ落ちた。


「てめえ!(ギノンが怒号とともに、袈裟がけの太刀を叩きつける)」


リュウジィは避ける動作も見せず、そのまま懐へ一歩踏み込んだ。ギノンの顎を、掌で下から軽く弾き飛ばす。ギノンは抵抗する間もなく仰向けにひっくり返り、そのまま白目を剥いて意識を失った。


バッドは呆然と立ち尽くすシドの脇腹を、肘で小突いた。

「わかったか?(倒れた二人を指さし)無茶苦茶手加減してあれだぞ」

 

シドは震える声で答えた。


「瞬殺じゃん。次元が違いすぎる……」

 

リュウジィは倒れた二人を一瞥し、バッドに向き直った。

「バッド(静かに歩み寄り)。店の裏の部屋にいるから、落ち着いたら二人を連れて来てよ」


「兄貴、すいませんでした! すぐ連れて行きます」

 

バッドは恐縮しきった様子で、深々と頭を下げた。


しばらくして、意識を取り戻したゼノンとギノンが、バッドたちに連れられて部屋を訪れた。兄弟はリュウジィの顔を見るなり、迷わずその場に跪いた。床に額をこすりつけるように頭を下げ、声を絞り出す。


「すいませんでした!」


「そんなことしなくていいから(穏やかに手で制し)、立ちなよ」


戸惑いながら立ち上がった二人に対し、リュウジィは自ら右手を差し出した。ゼノンの手を、およびギノンの手を、順に力強く握りしめる。


「改めて、リュウジィだ(相手の目を真っ直ぐに見据え)。これからよろしくね」


「「よろしくお願いします!」」


二人の威勢のいい返事を聞きながら、リュウジィは内心でほっと胸をなでおろした。

(とりあえず、話の通じない相手じゃなくて良かった……。奴隷なんて言っちゃったけど、実際どうやってこき使えばいいんだよ。まあ、まずはまかないでも食わせて、店のルールを叩き込むか)


「よーし、じゃあ初仕事だ。バッド、こいつらに掃除道具持たせてやって。まずはこの店のホールを、隅から隅まで磨き上げてもらおうか」


リュウジィが笑いながら指示を出すと、ゼノンとギノンは「はいっ!」と即座に動き出した。その背中を見送りながら、リュウジィは小さく息を吐いた。

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