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46歳おっさんの形意拳が、異世界でチートになった 〜魔法も剣も届かない究極の拳法で、第二の人生を無双する〜  作者: 九条竜二


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第83話:約束の対価


 翌日、俺は一人で街の乗り合い馬車に乗り、王宮へと向かった。

 

ガタゴトと揺れる馬車の窓から、遠ざかっていく店の屋根を眺める。

 昨夜、三ヶ月ぶりに再会した従業員たちの顔を思い出し、自然と口元が緩んだ。一日だけ休息を挟んだことで、旅の汚れも落ちた気がする。

 庶民的な活気に満ちた市場を抜け、馬車は貴族街へと入った。

 

雑多な喧騒は消え、代わりに手入れの行き届いた街路樹と、重厚な石造りの屋敷が並び始める。この静寂が、王宮が近い証拠だった。

 やがて、巨大な白亜の城壁と、高い尖塔が姿を現した。

 陽光を反射する王家の紋章と、門前に立つ衛兵たちの鎧が光を放っている。

 馬車が王宮の正門前で速度を落とす。

 

三ヶ月前、この門を出る時に背負った重圧は、今は達成感に変わっていた。


「さあ(馬車の扉に手をかける)、報告といこうか」

 

俺は独り言をつぶやき、背筋を伸ばして馬車を降りた。

 正門の衛兵に通行証を提示する。三ヶ月前、国王から直々に渡されたものだ。

 衛兵は一瞬目を見開いたが、すぐに直立不動の姿勢で門を開けた。

 広大な中庭を抜け、本宮の回廊を進む。

 

磨き上げられた大理石の床に、俺の靴音が規則正しく響いた。

 すれ違う官吏や騎士たちが、この世界には存在しない漆黒のチャイナ服という異質な格好の俺に視線を送る。

 だが、足を止める者はいない。リュウジィという名と、その背負う役割が、既に王宮内に知れ渡っている証拠だった。

 

巨大な装飾が施された扉の前で足が止まる。

 扉の両脇に控えていた重装騎士が、俺の姿を確認すると左右に分かれた。

 重い扉が静かに開かれ、謁見の間が姿を現す。

 

高い天井から注ぐ光の先に、三ヶ月前と変わらぬ威容を湛えた国王が鎮座していた。周囲には重臣たちが並び、冷徹な視線をこちらへ向けている。

 俺は広大な空間を歩み、王の正面で足を止めて深く頭を下げた。


「ただいま戻りました(床を見つめたまま)。国王陛下」

 

王はゆっくりと目を開き、俺を真っ直ぐに見据えた。


「よくぞ戻った、リュウジィ。まずは礼を言わせてもらおう。あの日、刺客の手からリリス王女殿下を守り抜いてくれたこと、改めて感謝する。そして、単身アズマリアへと渡り、物理的な調査を全うしてくれたこともな」

 

王は一度言葉を切り、深く頷いた。


「そなたの口から聞こう」

 

俺は顔を上げ、王の視線を受け止めた。


「はい。アズマリアのヒルデガルド王女様からの伝言、それにあちらで判明した事実を(王の目を真っ直ぐに見据える)報告に参りました」

 俺はアズマリアでの出来事を、順を追って話した。

 

リリス王女殿下暗殺未遂の黒幕がアズマリアの大臣ピエールであったこと。アズマリア国王が病に伏せっており、その隙を突いた策略であったこと。


「ヒルデガルド王女様は(さらに一段、声を張る)、我が国との戦争など望んでいません。それどころか、国内の問題が片付き次第、彼女自ら謝罪のために当国を訪問すると明言しました」


 謁見の間に、俺の声だけが響いた。

 王は沈黙を守り、俺が語る事実を一つずつ噛み締めるように聞いていた。

 左右に控える大臣たちがざわめき始めるが、王が一瞥をくれると、再び静寂が戻った。


「……以上が、アズマリアでの報告です。陛下(一歩前へ踏み出す)、これでお分かりいただけたはずです。リリス王女殿下を狙った暗殺計画の真相は、あちらの王女の手で決着がつきました」


 王は玉座の肘掛けを静かに叩いた。

 石を叩く硬質な音が、謁見の間に反響する。

「……見事だ、リュウジィ。そなたがもたらした功績は、この国を救ったに等しい。アズマリアとの不毛な争いは回避された。約束通り、そなたの功績を認めよう」

 

王の言葉を受け、俺はさらにもう一歩、踏み出す。


「ありがとうございます。……ならば、陛下。以前交わした(国王の反応を伺うように間を置く)『約束』についても、履行していただけるということでよろしいでしょうか」


 俺の声が謁見の間に響く。


「この国で六十年前から続く『武道家スキル持ちの騎士や傭兵禁止』の法。元々戦うためのスキルであるはずの武道家持ちが、この理不尽な法律のせいで路頭に迷っている。その鎖を断ち切り(拳を固める)、彼らに正当な評価と職に就く道を与えていただきたい」

 

王はしばしの沈黙の後、力強く頷いた。


「……よかろう。そなたは東の地において、我が国の盾となることを十分に証明した。私が全土に対し、法改正を知らしめよう。今日この時を以て(玉座から立ち上がる)、不当な法に縛られた武道家たちの過酷なる時代は終わる」

 

国王の宣言を背に受けながら、俺は静かに息を吐いた。


(元々大志を抱いてた訳じゃない。俺自身、この法改正がなくてもこの世界で十分やっていけていた。だが、闘技場で泥を啜りながら戦う連中、力仕事でその日暮らしを強いられる武道家たちの姿を無視することはできなかった。……これでようやく、あいつらもまともな飯が食えるようになる。俺の店に来たら、たらふく食わせてやるか)


 謁見の間を辞し、長い回廊を抜けて王宮の出口へと差し掛かった時だった。


「リュウジィ!」

 

背後から聞き覚えのある声が響いた。

振り返ると、長い黒髪をなびかせたリリス王女殿下が、こちらへ向かって駆け寄ってくる。あの日、一日お忍びの護衛として街を案内した時以来の再会だった。


彼女は俺の前で足を止め、少し弾んだ息を整えてから顔を上げた。

 銀色の瞳が、陽光を浴びて宝石のように煌めいている。その首元には、三日月のチョーカーが揺れていた。


「リュウジィ、本当によく戻ってくれたわ(少し背伸びをして俺の顔を覗き込む)。アズマリアでのこと、父様から聞いたわ。無事に調査を終えて帰ってきてくれて、安心したわ」


 リリス王女殿下はそう言うと、ドレスの裾を少し持ち上げ、俺に向かって丁寧に頭を下げた。


「心から感謝するわ。リリスとして、そしてこの国の王女として。本当にありがとう」


俺は少し面食らったが、すぐに口角を上げた。


「お礼なんていいんですよ(頭をかく)。俺は約束を守っただけですから。それに、リリス王女殿下が無事で何よりです」

 

リリス王女殿下は顔を上げると、少しいたずらっぽい笑みを浮かべた。一歩、俺との距離を詰めてくる。


「ねえ、リュウジィ。また私がお忍びで街を見に行く時は(俺の漆黒のチャイナ服の袖を軽く掴んで)、あなたが護衛をしてくれるかしら?」

 

その問いに、俺は迷うことなく笑顔で答えた。


「ああ、もちろん。王女殿下のお守りなら、いつでもお任せください(胸を叩く)。次はもっと面白い場所へ案内しますよ」


リリス王女殿下は俺の言葉に、満足そうに頷いた。

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