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46歳おっさんの形意拳が、異世界でチートになった 〜魔法も剣も届かない究極の拳法で、第二の人生を無双する〜  作者: 九条竜二


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82話 アウトローズ・クラウンからライズアップ④



シャルナが、赤い鞘から音もなく剣を抜いた。


「死ぬときの名前として、バッドって名前はちょうどいいですね。……いきます!」


シャルナが地面を蹴った。


その踏み込みは驚くほど軽い。まるで風に乗ったように身体が滑り、一瞬でバッドの横へ回り込んだ。


次の瞬間、赤い剣が閃く。


バッドは腰のオリファルコンの剣を抜き放ち、迫る一撃を片手で受け止めた。


ガギィンッ!


金属同士が激しくぶつかり、乾いた衝撃音が路地に響き渡る。


「なんだ、全然大したことないじゃん」


バッドは鼻で笑いながら吐き捨て、剣を弾き返した。


シャルナの身体が軽やかに後ろへ飛び退く。


着地と同時に、赤い剣が再び突き出された。


バッドは剣を返し、迫る刃を受け流す。


二度、三度と剣が交わる。


そのたびに火花が散り、金属音が路地に連続して響いた。


バッドは余裕を持ってそれらをさばいていた。


しかし、五度目の打ち合いで、バッドの眉がわずかに動く。


ガキィンッ!


受け止めた剣から、先ほどまでとは違う衝撃が伝わってきた。


(なんか、重くなってない……?)


バッドは剣を押し返しながら、シャルナの動きを見た。


シャルナは笑っている。


まるで、バッドが何かに気づくのを待っているかのようだった。


さらに数合。


剣がぶつかるたびに、シャルナの剣から伝わる衝撃が増していく。


最初は片手で受け止められていた一撃が、今では腕の骨まで響くほどの重さになっていた。


シャルナが大きく踏み込み、上段から剣を振り下ろす。


赤い剣が、バッドの頭上から一直線に迫った。


バッドはそれを正面から受け止める。


ドゴォンッ!


凄まじい衝撃が腕から肩へ突き抜けた。


「……っ!」


バッドの右腕が大きく沈む。


足元の地面が砕け、土煙が舞い上がった。


バッドは奥歯を噛み締めながら、足で地面を削り、体ごと数メートル後ろへ押し下げられる。


ようやく止まったときには、右腕が痺れていた。


剣を構え直すバッドの視界で、シャルナの持つ剣の刀身が、赤黒い光を帯びて脈打っている。


まるで、今の衝撃を喰らって喜んでいるかのようだった。


バッドはしびれる右手を握り直し、その剣を睨みつける。


「……ただの剣じゃねえな。魔剣かよ」


シャルナは不敵な笑みを浮かべ、バッドを見据えた。


「気づきましたか。この剣は打ち合うたびに、相手の衝撃を吸い込んで力に変えるんです。普通の剣なら、さっきの一撃で折れてますよ。さすがオリファルコンの剣ですね」


「……小難しい能書きはいいんだよ!」


バッドが地面を蹴り、反撃に出る。


一瞬で間合いを詰め、オリファルコンの剣を鋭く振り抜いた。


刃が空気を裂き、シャルナの首筋を狙う。


シャルナはそれを正面から受け止めた。


ガキィンッ!


硬質な衝撃音が周囲に響き渡る。


シャルナの赤い剣が、再び赤黒い光を強く放った。


「らぁ!」


バッドは休まず剣を叩きつける。


右から左。


さらに上段からの連撃。


オリファルコンの剣が、次々とシャルナの魔剣へ襲いかかる。


シャルナはそのすべてを魔剣で受け止めた。


ガギィンッ!

ガキィンッ!

ドォンッ!


剣がぶつかるたびに、赤黒い光が激しさを増していく。


同時に、バッドの腕へ返ってくる反動も重くなっていった。


一撃ごとに、剣を握る手が沈む。


一撃ごとに、肩へ衝撃が食い込む。


「くっ……!」


バッドは歯を食いしばりながら、さらに剣を振るった。


しかし、シャルナはその攻撃を受け止めるたびに、ますます強くなっていく。


シャルナが小さく剣を振るう。


その一閃をバッドは剣で防いだ。


だが、次の瞬間。


ドゴォンッ!


あまりの衝撃に、バッドの膝が折れそうになった。


「くっ……!」


バッドは顔を歪める。


攻めているはずなのに、押されている。


剣を振るたびに、自分の方が削られていく。


一歩。


また一歩。


バッドの足が後退した。


シャルナの魔剣は、すでにバッドの腕力を上回る重さへと変わっていた。


バッドは剣を振り続ける。


だが、攻撃を仕掛けるたびに、魔剣の衝撃が腕へ叩き込まれる。


次第に、攻めることさえ苦しくなっていった。


その様子を近くで見ていたシドが、呆れたように、しかし警戒しながら声をかける。


「おい大丈夫かよ? てか、あいつ強すぎだろ」


シャルナは余裕の笑みを崩さず、剣を軽く振り払った。


「どうしました? 息が上がってますよ?」


バッドは荒い呼吸を整え、強気に言い返す。


「気のせいだよ、今度こそぶった斬ってやるからな」


言葉とは裏腹に、右腕はまだ痺れていた。


それでも、バッドは剣を握り直す。


シャルナが一歩踏み込んだ。


今度は、シャルナが攻勢に出る。


鋭い一撃がバッドを襲った。


バッドは剣を振り上げ、迎え撃つ。


ガキィンッ!


二撃目。


三撃目。


打ち合うたびに、魔剣の攻撃は重くなっていく。


バッドの腕に、凄まじい衝撃が叩き込まれた。


「ぐっ……!」


シャルナが放った重い横なぎを、バッドはなんとか剣の腹で受ける。


しかし、次の瞬間。


ドゴォンッ!


身体が大きく吹き飛ばされた。


バッドは地面を転がりながら、どうにか勢いを逃れる。


土煙が舞い、背中と肩に土がまとわりついた。


それでも、バッドはすぐさま立ち上がり、剣を構え直した。


(このままだと、マジでやばい……!)


右腕は限界に近い。


まともに打ち合えば、次は受け止めきれない。


シャルナの魔剣は、剣をぶつけるたびに強くなる。


ならば、正面からぶつかる必要はない。


バッドが鋭く踏み込んだ。


オリファルコンの剣が、シャルナへ向かって走る。


シャルナも剣を振りかぶった。


バッドの剣を受け止め、さらに力を増すつもりなのだろう。


二人の剣が、再びぶつかろうとする。


その瞬間。


バッドが剣の軌道をずらした。


刃と刃がぶつかる寸前、オリファルコンの剣がシャルナの魔剣をかわす。


シャルナの目が見開かれた。


「なっ……!」


剣と剣がぶつからない。


バッドはそのまま前転した。


身体を低く沈め、シャルナの横へ潜り込む。


土煙が舞う。


バッドはシャルナの真横で、しゃがみ込むような体勢になった。


刃が触れ合う音はしない。


魔剣の衝撃も、返ってこない。


シャルナが振り切った剣を戻し、バッドを斬りつけようとする。


しかし、低い体勢から繰り出されたバッドの剣の方が早かった。


「……もらった!」


バッドが鋭く叫ぶ。


オリファルコンの剣が、横一文字に走った。


ザシュッ!


シャルナの胴体が深く切り裂かれる。


「ああああああっ!」


シャルナが鋭い叫び声を上げて崩れ落ちた。


膝をつき、身体を折る。


赤黒い光を帯びていた魔剣が、シャルナの手から滑り落ちた。


バッドは立ち上がった。


荒い呼吸を吐きながら、膝をついたシャルナを見下ろす。


まだ終わっていない。


バッドは剣を振り上げた。


「……!」


シャルナが顔を上げる。


その首へ向かって、バッドは上から叩きつけるような斬撃を放った。


ザンッ!


シャルナの首が、音を立てて地面に転がった。


その場に、静寂が落ちた。


バッドは剣についた血を払い、周囲を囲んでいた連中を鋭い眼光で見回した。


「おい! お前らも神の戦士とか言って、こんな馬鹿にいつまで踊らされてんだよ。文句ある奴はいるか!」


開けた路地に、バッドの声が響く。


その場にいた人たちは、血の海に沈むシャルナの死体とバッドを交互に見つめ、一様に口を閉ざした。


武器を握る手が震え、視線を逸らす者もいる。


誰も何も言えない。


ただ、気まずい沈黙だけが、その場を支配していた。


やがて、一人が力なく武器を収め、背を向けた。


それをきっかけにするように、一人、また一人と、バッドに背を向けて路地の奥へと引き上げていく。


バッドは大きく肩で息をついた。


ようやく、終わった。


地面に落ちた赤い魔剣を拾い上げる。


赤黒い光は、まだ刀身の奥でかすかに脈打っていた。


「はあーっ、なんとか勝てた……。この魔剣、せっかくだからもらっとこ」


バッドは魔剣を担ぎ、顔を上げた。


少し離れた場所に、ギノンとゼノンが立ち尽くしていた。


二人はシャルナのあっけない最期と、目の前の現実が信じられないといった様子で、呆然としている。


バッドは二人へ歩み寄った。


「ギノン、ゼノン、俺たちと一緒に行こうぜ」


その言葉に、二人は顔を見合わせた。


迷いを抱えたまま、動けない。


シドが二人のもとへ歩み寄り、ぶっきらぼうに告げる。


「いつまでもここに居たって、何も変わんねえだろ」


ゼノンが、力なく笑いながら言葉を漏らした。


「……だけどさ、今さら俺たちが普通に戻れるわけないじゃん……」


バッドは拾った魔剣を担ぎ直し、普段通りの笑顔で答えた。


「過去は変えられないけど、今と未来は変えられるって、兄貴が言ってたぜ」


その場のピリッとした空気に似つかわしくない、調子の良いバッドの言葉。


シドが鼻で笑った。


ギノンとゼノンも顔を見合わせ、小さく吹き出した。


沈黙に包まれていた路地に、乾いた笑い声が広がった。




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