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46歳おっさんの形意拳が、異世界でチートになった 〜魔法も剣も届かない究極の拳法で、第二の人生を無双する〜  作者: 九条竜二


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第8話 初めての殺し合い




「始めッ!」


審判の合図と同時に、巨漢の剣士が突進してきた。


開始の合図すら待ちきれなかったのかと思うほど速い。


剣士スキルで強化されたハルバードが、俺の頭上へと振り下ろされる。


「ブン!」


空気を切り裂く音がした。


観客席から悲鳴が上がる。


俺は反射的に身体を動かした。


間一髪。


どうにか、その一撃を躱す。


(……わッ、やばっ!)


心臓が跳ね上がった。


今のは、本当に危なかった。


俺は一歩、斜め前へ足を踏み出した。


――践歩(せんぽ)。


真正面に立っていたら、頭が割れていた。


けれど、この動きは避けるためだけのものじゃない。


相手の側面へ潜り込む。


そのための一歩だ。


ハルバードの刃が、俺の肩先をかすめた。


そのまま地面の石畳を砕く。


ガギィンッ!


ハルバードが通り過ぎる。


俺は、至近距離まで入り込んでいた。


男の動きが止まる。


――入れた。


簡単に側面へ入れた。


なのに。


俺は恐怖に負けて、一歩下がってしまった。


自分でも分かる。


足が震えている。


観客席がどよめいた。


「どうした?チョロチョロ逃げ回るだけか?つまらんぞ」


ガタイの良い騎士が、ハルバードを頭上で回しながら挑発してくる。


俺は乱れた呼吸を整えた。


(とにかく落ち着こう。ハルバードの軌道は見えた。確信した。やはりこの世界で俺の形意拳はどうやらチートらしい)


今度は、俺から飛び込む。


待ってましたとばかりに、男がハルバードを振りかぶった。


斧の部分で、横薙ぎに斬りつけてくる。


やはり――見える。


前の世界じゃ、ただの趣味だった。


道場で型を繰り返して。


汗をかいて。


身体を動かして。


それだけだった。


だが、この身体で動くと違う。


相手の重心がどこにあるのか。


次の動作が、どこへ向かうのか。


まるで、その先が見えているようだった。


俺は地を這うように身体を低くした。


ハルバードが頭上を通り過ぎる。


そして――


暗腿(あんたい)。


靴裏に縛り付けた蹄鉄の角が、男の鎧の脛を金属ごと削り取った。


バギィッ!


嫌な音が、闘技場いっぱいに響く。


「が、ぁあああかっ!?」


鎧のグリーブごと脛の肉を削られ、男の巨体がガクンと沈んだ。


膝をつく。


あれだけの体格の男が。


たった一撃で。


観客席から、さらに大きなどよめきが起こる。


けれど、迷っている暇はない。


俺は崩れた男の正面へ飛び込んだ。


左手で盾を強引に跳ね除ける。


がら空きになった胴体へ、まっすぐに割って入った。


後ろ足で地面を蹴る。


その力を腰へ。


腰から背中へ。


そして拳へ。


全身の質量を、一気に伝える。


――崩拳(ほうけん)。


転生前。


何度も何度も繰り返してきた動き。


その動きを、この身体に乗せる。


骨を真っ直ぐ繋ぐ。


呼吸と動作を合わせる。


それだけだった。


なのに。


ただの拳が、重い衝撃へと変わった。


パァアィィィィィン!


鼓膜を震わせる、鋭い衝撃音。


分厚い胸当ての鎧が、俺の拳の形に凹んだ。


衝撃が、その奥まで突き抜けていく。


その威力に、自分でも驚いた。


――すごい。


そう思う余裕すらない。


一発叩き込んだ。


だが、まだ倒れていない。


なら、確実に倒す。


俺は拳を引かず、そのまま一気に歩を詰めた。


身体を半回転させる。


後手を頬に添えて防御。


頭の横から肩にかけてを、一直線の壁に変える。


残ったすべての力を、その頭と肩に預ける。


そして――


ぶつけた。


――靠(こう)。


中国武術独自の体当たりだ。


ゴウォン!!!


逃げ場のない衝撃が、巨漢騎士の身体を弾き飛ばした。


巨体が宙を舞う。


そのまま闘技場の壁へ激突した。


ドォンッ!


砂埃が舞い上がる。


男は意識を失い、その中へ沈んでいった。


闘技場が、一瞬で静まり返った。


誰も声を出さない。


歓声すらない。


ただ、砂埃だけが静かに舞っていた。


それほどまでに、あっけない幕切れだった。


(……必死だった)


俺はゆっくりと立ち上がった。


握りしめた自分の拳を見る。


こんなに威力が出るとは、思っていなかった。


嬉しい。


――いや。


それより先に、手が震えていた。


俺は拳を開いた。


それでも震えは止まらない。


ゆっくりと息を吐く。


丹田から、空気が抜けていく。


さっきまで身体の中に満ちていた熱が、するすると引いていくようだった。


残ったのは、じんわりとした疲労。


そして、妙な静けさだけ。


たった数分だった。


なのに、どっと疲れた。


店での一件とは違う。


あの時は、無我夢中だった。


何も考えていなかった。


ただ、親父さんとミーナさんを守らなきゃと思って、身体が勝手に動いた。


今回は違う。


最初から最後まで、意識があった。


相手が何をしてくるのかを見て。


避けて。


踏み込んで。


殴った。


そして――倒した。


その一つ一つを、全部覚えている。


それが余計に堪えた。


二度目の人生で。


俺は、何をやってるんだろうな。


俺は倒れたまま動かない男に背を向けた。


そして、そそくさと退場門へ向かって歩き出す。


観客席がざわめき始めたのは、俺が門をくぐる直前だった。







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