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46歳おっさんの形意拳が、異世界でチートになった 〜魔法も剣も届かない究極の拳法で、第二の人生を無双する〜  作者: 九条竜二


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第69話:無慈悲な追撃の果て



 オーガは急ぐ様子もなく、一歩、また一歩と足を進めてきた。

 その足取りは、血生臭い闘技場にはおよそ似つかわしくない。まるで天気のいい午後に公園を散歩でもしているかのような、ひどく無防備で、ゆったりとした動きだった。

 

だが、その一歩ごとにタツヨの受ける圧迫感は増していく。


タツヨは頬の痛みに顔を歪めながらも、じりじりと後退して間合いを保とうとした。呼吸を整え、次に繰り出されるであろう暴風のような連撃に備えて、全身の神経を研ぎ澄ます。


しかし、オーガは構えすら取らなかった。

だらりと両腕を下げたまま、視線だけをタツヨに固定して歩き続ける。

タツヨがその不気味な静けさに息を呑んだ, その瞬間だった。

 

予備動作は一切なかった。

歩みを止めることも、腰を沈めることもなく、オーガの右足が最短距離を通って跳ね上がった。

 ノーモーションから放たれた回し蹴りが、空気を切り裂く鋭い音を立ててタツヨの脇腹へと迫る。

 

「ドーンッッッ!」


「ガハッ……!」

反応がわずかに遅れた。

タツヨは咄嗟に肘を絞ってガードを差し込んだが、丸太のような脚から放たれた衝撃を殺しきることはできなかった。


骨がきしむ嫌な音が脳内に響き、タツヨの身体は再び砂の上を激しく弾き飛ばされた。


タツヨが勢いよく後方へ吹っ飛ぶ中、オーガは即座にその影を追って踏み込んでいた。


逃げ場のない空中、あるいは着地の瞬間に合わせるように、オーガが巨大な拳を真っ向から振り下ろす。


タツヨは必死に腕を固めてガードの形を作ったが、上から叩きつけられるような一撃がそれを強引に押し潰した。


「ドォォンッ!」


凄まじい衝撃とともに、タツヨの身体が地面へと激しく叩きつけられる。

逃げ場を失った衝撃は砂を大きく陥没させ、その反動でタツヨの身体はボールのように地面でバウンドし、力なく宙に浮いた。


無防備に浮き上がったタツヨの胴体を、オーガがさらに追撃する。

まるで転がってきたサッカーボールを蹴り飛ばすかのような、無造作かつ無慈悲な一蹴。


重戦車のような脚から放たれた衝撃は、タツヨを弾丸のような速さで真横へと吹き飛ばした。

 制御を失ったタツヨの身体が、凄まじい勢いで闘技場を囲む分厚い壁に激突する。


「ドゴォォォォンッ!」


耳を突き破るような破壊音が響き渡り、硬質な壁がタツヨの激突に耐えきれず、派手に砕け散った。崩落した石材と土煙がタツヨの身体を飲み込んでいく。


だが、オーガの攻撃はまだ、これで終わりではなかった。

崩れ落ちた瓦礫がれきの中で、息も絶え絶えになっているタツヨ。

その姿を捉えたオーガは、止めの一撃を叩き込もうと、無慈悲に拳を撃ち下ろした。

 

その瞬間だった。

闘技場の搬入口で、これまでじっと戦いを見守っていたリュウジィが動いた。

目にも留まらぬ速さで砂を蹴り、瓦礫とオーガの間にその身を滑り込ませる。


振り下ろされるオーガの巨拳。

それに対し、リュウジィは正面からその掌を突き出し、迎え撃つ。

オーガの拳のど真ん中を、リュウジィの劈拳へきけんが鋭く捉えた。


「パァァァァンッ!」


乾いた、凄まじい破裂音が闘技場に響き渡る。


激突の瞬間、目に見えるほどの衝撃波が周囲の土煙を円状に吹き飛ばし、足元の砂が激しく舞い上がった。

 その衝撃に、これまで微動だにしなかったオーガの巨体が、わずかに後ろへと押し下げられる。

 静まり返っていた会場が、一瞬遅れて爆発したような騒ぎに包まれた。


「リュウジィだ! リュウジィ!」

「おい、本物かよ!」

 

観客たちのどよめきが、波のように闘技場を駆け巡っていく。


「おい! 小僧! 邪魔してんじゃねえ」


オーガが忌々(いまいま)しげに顔を歪め、低くうなるような声を絞り出した。

対するリュウジィは、突き出した掌を静かに引くと、オーガの視線を真っ向から受け止めた。


「もう勝負はついてるだろ」


「てめえもヤッちまうぞ! ああ」

 オーガが剥き出しの殺気を放ち、リュウジィを睨みつける。

リュウジィは一歩も引かず、静かに構えを解かずに言い放った。


「やってみろよ! オーガ!」


その瞬間、早くもリュウジィのファフニールのチャイナ服が、漆黒から深紅へと変化した。

予期せぬ変色を目の当たりにし、観客席からさらなるどよめきが沸き起こる。


「……なるほど、お前が最近闘技場の死神とか言われてるリュウジィか?」

 

オーガは何かを思い出したように、不気味な笑みを浮かべてその拳を収めた。


「なら楽しみは後に取っておくか」

 

そう吐き捨てると、オーガは興味を失ったかのようにきびすを返し、悠然と闘技場を後にした。

 オーガが去るのと同時に、待機していた運営のヒーラー(治癒士)三人が、砂煙の立ち込める瓦礫の山へと駆け寄った。

 彼らは手際よく重い石材を退けると、血に染まり、意識を失ったタツヨを慎重に引きずり出す。


「早くしろ! 心拍が弱っている!」


ヒーラーたちは担架に乗せ、急ぎ足で搬送を始めた。

リュウジィは、変わり果てた姿で運ばれていくタツヨの背中を追うように駆け出した。


「死ぬなよタツヨ! 一緒に俺の国に帰る約束したじゃんかよ!」


去りゆく担架に向かって、リュウジィの切実な叫びが、熱狂の冷めやらぬ闘技場に虚しく響き渡った。



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