↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46歳おっさんの形意拳が、異世界でチートになった 〜魔法も剣も届かない究極の拳法で、第二の人生を無双する〜  作者: 九条竜二


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

66/209

第66話:最終決戦の黎明




アズマリアの朝は、かつてない熱気に包まれていた。


断崖の上に築かれた赤い瓦屋根の街並みは、夜明け前から動き出した群衆で埋め尽くされている。石灰岩の白い坂道を、王都中から集まった貴族の馬車と、一攫千金を夢見る労働者たちの足音が激しく叩いていた。


人々の視線は、街の象徴である巨大コロッセオへと注がれていた。


崖の縁にそびえ立つその威容は、海からの強い風を受けながら、龍の彫刻が施された極彩色の石柱を朝日に輝かせている。


大通りには、今日行われる「最終決戦」の組み合わせを記した木札が至る所に掲げられ、それを取り囲む野次馬たちの怒号に近い歓声が響いていた。


「タツヨがオーガと再戦だぞ!」


「死神リュウジィがどこまでやるか、見ものだな!」


屋台からは肉を焼く煙が立ち上り、酒場は朝から開け放たれ、勝利を確信する者たちの賭け金が飛び交う。


最終日を迎えた砂舞台を前に、街全体が巨大な生き物のように脈動していた。


コロッセオの深部にある控え室は、表の喧騒が嘘のように冷え切っていた。


石造りの壁は厚く、観客たちの地鳴りのような歓声も、ここでは低い振動として伝わってくるだけだ。


部屋の中央には、重厚な革張りの椅子が二脚、向かい合わせに置かれている。


リュウジィは深く腰を下ろしていた。


わずかに身じろぎするたび、闇に沈んだ布地に金色の筋が血管のように浮かび上がり、再び消えていく。


その向かいでは、タツヨがガントレットを装着した両拳を、何度も握り込んでは開いていた。


ボクサー特有の鋭い視線が、一点を見つめて動かない。


コロッセオの二階。


一般客の立ち入りが禁じられた回廊の隅で、ピエールは苛立ちを隠そうともせず、何度も足を踏み鳴らしていた。


湿った石壁に、ピエールの荒い鼻息が響く。


目の前に立つ黒装束の骸衆の男は、彫像のように動かない。


その沈黙が、ピエールの神経をさらに逆撫でしていた。


ピエールは男の顔を覗き込むようにして、怒鳴り声を上げる。


「クルシオはどうした! いないのか?」


問い詰められた黒装束の男が、感情の欠落した声で答えた。


「私にもわかりません。それどころか、他の者も数人、姿を消しました」


その言葉を聞いた瞬間、ピエールの顔が怒りでどす黒く変色した。


見開かれた目には血走った筋が浮かび、震える指先で男の胸元を指し示す。


「いないだと? 探せ! 今すぐ探してこい!」


裏返った叫び声が、無機質な回廊を突き抜けて響き渡った。


ピエールは逃げ場のない焦燥に突き動かされるように、何度も激しく床を蹴りつける。


再び、静まり返った闘技場の控え室。


リュウジィは椅子の背にもたれたまま、天井の一点を見つめていた。


その隣では、タツヨが依然として自分の拳の感触を確かめ続けている。


二人を包む空気は、驚くほど静かに凪いでいた。


鉄格子の向こうから、係員の抑揚のない声が届く。


「タツヨ様。お時間です。入場口へ」


タツヨの動きがピタリと止まった。


強く握り込んでいた拳をゆっくりと開き、一度だけ深く息を吐く。


まるで肺の奥に残った空気を、すべて吐き出すように。


椅子から立ち上がると、タツヨは部屋を出る直前、ふと振り返った。


リュウジィに向ける視線は鋭い。


だが、その奥にはどこか温かさがあった。


メタリックブルーに輝くガントレットの拳を、リュウジィへと突き出す。


そして、不敵な笑みを浮かべた。


「バリバリ撃ちまくって、ボコボコに凹まして来るからよ」


リュウジィは天井へ向けていた視線をゆっくりと下ろし、背もたれから身体を離した。


タツヨの突き出した拳を真っ直ぐに見据え、静かに応える。


「ああ! 今日の夜は、また美味い物食べよう」


その言葉を聞き、タツヨは満足そうに短く鼻を鳴らした。


そして、静寂に包まれた部屋を後にする。


独り残された控え室で、リュウジィは再び椅子に身を沈めた。


だが、先ほどまでの静けさは嘘のようだった。


胸の奥をざわつかせる嫌な予感が、冷たい石壁の冷気よりも速く全身を駆け巡り、嫌な汗が背中を伝っていく。


リュウジィはいてもたってもいられず立ち上がった。


音を立てないようにドアを開け、監視の目を盗みながら、影に紛れるように薄暗い廊下を進む。


まだ試合は始まっていない。


地鳴りのような大歓声が漏れ聞こえてくる通路を抜け、リュウジィはタツヨの背中を追って闘技場の搬入口へと急いだ。


闘技場の中央。


強い日差しが照りつける剥き出しの砂舞台の上に、タツヨはポツンと立っていた。


すり鉢状の巨大な観客席から降り注ぐ何万もの視線と、熱病のような歓声が全身を激しく叩く。


だが、タツヨの意識はすでに外の喧騒を完全に遮断していた。


両腕のガントレットは、すでに戦闘用の第二形態へと変貌を遂げている。


滑らかだった装甲は内側からバチバチと弾け、凶悪なまでのトゲが節々の隙間から無数に突き出していた。


砂舞台の反対側から、地響きのような圧倒的な足音と共に、その巨躯が現れる。


身長二メートルに達するオーガ。


青銅色の肌は朝の光を鈍く反射し、全身には、まるで頑丈な鎧を纏っているかのような、不自然なまでの筋肉が隆起していた。


上半身は裸。


下半身には迷彩柄を模した無骨なズボンを穿き、金色のウェーブがかった長い髪を後頭部で厳つく結び上げている。


そびえ立つ断崖のような圧迫感を放ちながら、オーガが不敵に口を開いた。


「久しぶりだな、タツヨ! 今度はちゃんと殺されに来たか?」


オーガの低い嘲笑を受け流し、タツヨは負けじと不敵に笑い返した。


「今日はお前の最強伝説の命日だ」


東の国の厳かな儀礼に則り、純白の白装束を纏った審判が、両者の殺気が渦巻く中央へと割って入る。


その衣服は、高く昇った太陽の光を受け、発光するかのように眩しかった。


審判は、儀式を司る巫子のように片手を高く掲げる。


コロッセオ全体が黄金色の陽光に照らされる。


その手が一気に振り下ろされた瞬間、場内に鋭い開始の笛の音が突き刺さった。


「始めッ!」


直後、アズマリアの青空を震わせる衝撃的な大喝采が炸裂した。


東の国特有の、腹の底を激しく揺さぶるような唸り声が群衆から上がり、万雷の拍手が海の波となって砂舞台へ一気に押し寄せる。


激しく立ち上る砂塵が、猛り狂う観客たちの熱狂に巻かれて龍のように渦巻いた。


その混沌の中心で。


タツヨとオーガは、同時に地を蹴り飛ばした。







お読みいただき、本当ありがとうございます。もし気に入っていただけましたら、作品のブックマークや、下の星(☆☆☆☆☆)で応援をお願いします!次の更新の大きなエネルギーになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。