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46歳おっさんの形意拳が、異世界でチートになった 〜魔法も剣も届かない究極の拳法で、第二の人生を無双する〜  作者: 九条竜二


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第64話 アズマリアの騎士団長



 地鳴りのような「リュウジィ」コールが、闘技場の石造りの壁を激しく震わせていた。


興奮で顔を真っ赤にした観客たちが、身を乗り出し、狂ったように拳を突き上げている。その熱狂의渦の中心で、リュウジィは一歩、また一歩と、返り血の臭いが漂う花道を悠然と歩み出した。


 背後には、顔面を粉砕され、もはやピクリとも動かないムサシの無残な肉塊が転がっている。

 その圧倒的なまでの敗北の光景が、観客たちの目に焼き付くたび、スタジアムを揺らす歓声はさらに高く、激しく、残酷なまでの熱を帯びて膨れ上がっていった。

 喧騒を遮断する重厚な扉を抜け、薄暗い廊下を渡って控室へと戻る。

 扉を開けると、そこにはタツヨが待っていた。


「リュウジィ……! やりやがったな!」

 

タツヨは興奮を隠しきれない様子で、自身の拳を握りしめた。


「お前身体大丈夫か?」


その瞬間に目の前が真っ暗になった。

次に意識が戻ったとき、視界に飛び込んできたのは見慣れない天井だった。

 

鼻を突く独特な薬草の香りと、微かに漂う魔力の残滓。どうやら、闘技場に併設された治癒士の診療所に運び込まれたらしい。


鉛のように重い身体に鞭を打ち、リュウジィはゆっくりと上身を起こした。ギシリとベッドが軋む音が、静かな室内に響く。

全身の関節が錆びついたような激痛に顔を顰めながら、なんとかベッドの端に腰を下ろした。足の裏に伝わる床の冷たさが、辛うじて自分が生きていることを実感させた。

 そんなリュウジィの様子を見て、傍らに控えていた治癒士が声をかけた。


「明日一日休めば何とかなるじゃろ」


そこへ、慌ただしい足音と共にタツヨが部屋に飛び込んできた。

 ベッドに座り込んだリュウジィの顔色を見るなり、タツヨは治癒士に詰め寄った。


「おやっさんこいつ大丈夫かよ!」


治癒士は鼻を鳴らし、机に置かれた薬瓶を整理しながら平然と答えた。


「案ずるな。外傷はあらかた塞いだ。今はひどく消耗しとるだけじゃ。一晩眠れば、明日には動けるようになるわい」


その言葉を聞いて安心した俺は、急激に強い眠気に襲われた。

 抗う気力もなく、俺は再び眠りについた。

 


場面は変わり、アズマリア王都の薄暗い路地裏。

 湿った空気の漂う細い道を、一人の男が足早に通り抜けていく。その後ろを、気配を殺した一人の剣士が密かに追っていた。


 だが、不意に前を歩いていた男が足を止めた。振り返ることもなく、男は静かな声で告げた。


「私に何か用ですか? 尾行が下手くそですね」

 

隠れる意味がなくなった剣士は、壁の陰から姿を現した。左目尻から頬にかけて刻まれた深い傷跡を露わにし、鋭い視線で男の背中を射抜く。騎士団長バルトロメウスであった。


「骸衆の頭領、クルシオだろお前は」


「さて誰の事ですか? 人違いじゃないですかね?」


「大人しく、着いてくればそれでよし」


「嫌だと言ったら、どうします」


「斬る! 他の骸衆も全てな」


そう言うとバルトロメウスは、腰に下げた長剣を引き抜いた。装飾を極限まで省いた実戦本位の代物。握り込まれた柄の革は、持ち主の体温を吸い込み、黒ずむほどに馴染んでいた。その使い込まれた剣先が、鋭くクルシオを指す。


その瞬間に物陰に隠れてた剣士三人が出てきて、クルシオを囲む。彼らは王宮守護の任に相応しい、細かな彫金が施された青銅製の美しい鎧を纏い、路地の退路を断つようにして切っ先を突きつけた。


「なるほど、ヒルデガルド王女が動いたと言う訳ですか」


パッとまるで手品のように、クルシオの両手に少し長めのダガーが握られた。

 そしてダガーを持った手が幻影のように一本、二本、三本と増えて行く。


「死にたくない雑魚は引っ込んでてください」


その瞬間にバルトロメウスに襲いかかる。

 しかしバルトロメウスはクルシオのダガー攻撃を剣で弾く。


 ガキィィン! キィン! ガシュッ! ギィィィン!


バルトロメウスも負けてない。ダガーの連撃を弾き飛ばすと、間発入れずに鋭い踏み込みからクルシオの胴を斬りつける。しかしクルシオは、高く飛んでそれを躱した。


「こんな事も出来るんですよ。サンダーウェーブ」


ダガーの先から放たれた紫の稲妻が、爆音と共にバルトロメウスへと降り注いだ。

 だが、バルトロメウスは微動だにせず、逆巻く電光を真っ向から剣で撃ち返した。激しい衝撃波と共に路地裏が白く染まったが、騎士団長の構えに揺らぎは一切なかった。


「ふん!この程度の魔法、戦場でいくらでも経験してるわ!」


今度はバルトロメウスが地を蹴り、クルシオの高さまで一気に飛び上がる。


「剣技!アーマーバスター」


空中で放たれた、文字通り鋼鉄すら粉砕する一撃。クルシオは咄嗟に二本のダガーをクロスさせて受けたが、バルトロメウスの剣圧はその防御を紙屑のように蹴散らした。


ガキィッッッン!!!


激しい金属音と共にダガーが粉々に砕け散り、逃げ遅れたクルシオの右腕が鮮血を撒き散らしながら宙を舞う。


「ぐ、ああぁぁぁぁっ!」


路地の石畳に叩きつけられたクルシオ。その動揺を逃さず、周囲を囲んでいた三人の騎士が電光石火の速さで踏み込んだ。


 ドシュッ!という鈍い音と共に、冷酷な切っ先が残されたクルシオの手足を次々と貫き、石畳に縫い付けた。


「ぎぃ、ぁ……あ……!」


もはや指一本動かせない絶望的な状況の中、バルトロメウスが血の付いた剣を無造作に振り払い、見下ろすように歩み寄った。


「暗殺一族か何か知らんが、所詮はコソコソした戦い方しか出来ないお前らに、俺が負ける訳ないだろ。安心しろ今は殺しはしない。聞きたい事があるからな」



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