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第56話 賞金トーナメント開幕



 アズマリアの街は、これまでにないお祭り騒ぎになっていた。

 数日後に迫った大規模な賞金トーナメントの噂で、街中が持ち切りだ。各地から腕自慢の連中や、一攫千金を狙うギャンブラーたちが次々となだれ込んできている。

 

メインストリートには色鮮やかな旗が並び、屋台からは美味そうな肉の焼ける匂いと、威勢のいい呼び込みの声が響く。どの酒場も「誰が勝つか」という予想で大盛り上がりで、胴元たちは忙しなく木札を並べて賭けを受け付けていた。

 

中央広場にある巨大な掲示板の前は、すごい人だかりだ。

貼り出されたばかりの「対戦表」を見ようと、みんな必死になって押し寄せている。


「おい、見ろよ! 今回は32人も出るのか!」


「賞金額が凄いからな、面子もヤバいぜ。アズマリアの有名どころが勢揃いじゃないか……」


そんな騒ぎから少し離れたところで、リュウジィは自分の名前がある場所を確認した。

トーナメント表の一番端。決勝まで行かないと当たらない位置には、いかにも運営側が用意した強そうな「刺客」の名前が並んでいる。


「……かなり露骨だな」


リュウジィがそう漏らすと、後ろからタツヨが歩いてきた。トレーニング帰りなのか、汗を拭いながら掲示板を覗き込む。


「見たか、リュウジィ。お前のブロック、わざとらしいくらい手強い奴らが固まってやがるぞ」


「まあ、やることは一緒だけどね」

 

タツヨは掲示板の隅にある特別試合の枠に、自分の相手『オーガ』の名前を見つけた。


「俺の相手も決まったな。最終日の前座……最高の舞台じゃないか。今度こそあいつの鼻っ柱を叩き折ってやるよ」


 二人の視線の先には、街のどこからでも見える巨大な闘技場がそびえ立っている。一週間にわたって行われる過酷なトーナメント。初日の今日は2試合行われる予定だが、アズマリアの観衆たちは、誰が勝ち残るのかを今か今かと楽しみにしていた。


リュウジィが闘技場に向かって歩き出すと、掲示板を見ていた周りの人たちがすぐに気づいた。


「おい、リュウジィだ! 本物だぞ!」


「リュウジィ! 今回も全勝してくれよ! お前に全財産賭けてるんだからな!」


あっという間に、熱狂したファンたちがリュウジィを取り囲む。握手を求めてきたり、背中を叩こうとしたり、みんな好き勝手に声をかけてくる。今やリュウジィは、この街で知らない者はいないほどの人気選手になっていた。


「ちょっと、通してよ。歩けないから」

 リュウジィが困ったように肩をすくめると、タツヨが強引に割って入った。


「おい、道をあけろ! これから本番だってのがわかんねえのか! 応援するなら席で叫んでろ!」


熱烈な声援を背中に受けながら、リュウジィは足を止めずに門をくぐった。

 石造りの通路を抜けた先に、東側ゲート専用の控室があった。

 厚い石壁に囲まれた室内は、外の喧騒が嘘のように静まり返っている。窓のない空間を照らすのは、壁に掛けられた数個の松明の火だけだった。

 部屋の中央には長い革張りのシートが置かれ、そこにはリュウジィの他にも、今日試合がある数人の男たちが座っていた。誰もが口を閉ざし、互いに視線を合わせることもなく、ただ己の出番を待つ呼吸の音だけが、時折小さく響いている。


リュウジィは空いている壁際に背を預け、腕を組んだ。

そこへ、運営のスタッフが顔を出した。


「第一試合、東側代表、リュウジィ選手! 出番です。入場門まで来てください」


名前を呼ばれ、リュウジィは壁から背中を離した。

控室の入り口まで見送りにきたタツヨが、軽く拳を突き出してくる。


「おい、サクッと終わらせてこいよ」


「わかってるって」


リュウジィは軽く拳を合わせると、そのまま部屋を出た。

 入場門へと続く通路を進むにつれ、外の歓声が地響きのように伝わってくる。突き当たりにある巨大な鉄格子の門の向こうには、陽光に照らされた円形の舞台と、それを埋め尽くす観客たちの熱狂が見えた。


「さあ、お待たせいたしました! 賞金トーナメント、注目の開幕戦です!」


実況の声が魔法で増幅され、闘技場全体に響き渡る。


「東側ゲートからは、圧倒的な力で対戦相手を沈めてきたあの男! アズマリアの――『闘技場の死神』、リュウジィ選手の入場だーっ!」


鉄格子が跳ね上がった。一歩足を踏み出すと、4万人もの観衆の叫びが全身に叩きつけられる。

 漆黒のチャイナ服が日光を弾き、動くたびに金色のラインが鋭く走る。足元のヒヒイロカネの靴が、石造りの床を軽く叩いた。

 

反対側の、西側ゲートからも一人の男が姿を現した。


初戦の相手『影丸』だ。


全身を濃い灰色の装束で包み、顔の半分を布で覆っている。その腰には、十手に似た形状の無骨な鉄の武器が二本差されていた。その目は冷たく、ただリュウジィだけをじっと見据えていた。


審判が二人の間に立ち、右手を高く上げた。

 リュウジィは軽く肩を回し、自然体で構える。


影丸は無言のまま腰の十手に似た武器を引き抜き、クロスさせて低く身構えた。


「両者、構えろ!」

 

闘技場の空気が一瞬で張り詰める。


「始め!」

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