第52話 信頼の証:リュウジィ、王女と手を組む
舞台を降りるリュウジィの呼吸は、少しも乱れていなかった。
自ら名乗りを上げたエイデンを一撃で沈めたところで、汗一つかいていない。
王女ヒルデガルドに導かれ、辿り着いたのは人目を排した王宮のテラスだった。
夜風が吹き抜けるなか、リュウジィは静かに彼女を振り返った。
ヒルデガルドは驚いた表情のまま、リュウジィを見つめ返した。
「……信じがたい力。貴方は一体、何者なのですか?」
リュウジィは一歩、彼女の前に踏み出した。
「俺は、キングスフォーンから来ました。リリス王女の暗殺未遂事件……どうやらアズマリアが関わってるらしくて、その調査のために来ました」
その一言に、ヒルデガルドの表情がわずかに凍りつく。リュウジィは言葉を重ねた。
「俺一人の調査じゃ、この国の深い闇にまでは届きません。だから、王女の力を貸してください。力を合わせて真実を暴く必要があるんです」
静寂のなか、ヒルデガルドは唇を固く結び、リュウジィの言葉の重さを噛みしめている。
リュウジィは、静かに、だが真っ直ぐに彼女を見据えて言葉を継いだ。
「まだ確信は持てないですが……八割がた、あの大臣の仕業だと思っています。あの男は刺客を飼い慣らして、裏でこの国を動かそうとしている。リリス王女を狙ったのも、両国の関係を壊して、その混乱の中で自分の地位を固めるためでしょう。もし王女が殺されるようなことがあれば、それは間違いなく戦争の引き金になります」
ヒルデガルドの瞳が大きく見開かれた。
「戦争……? まさか、あの大臣がそこまでの暴挙に……。この国を戦火に投じようというのですか」
リュウジィは真っ直ぐに、王女に訴えかけた。
「王女。この国があの大臣の勝手で乗っ取られて、戦火に包まれていくのを、黙って見ていたくはないはずです。俺に協力してもらえませんか」
やがて、彼女は顔を上げると、覚悟を決めたようにリュウジィを真っ直ぐに見据えた。
「わかりました。貴方の言葉を信じ、私も協力しましょう。この国が戦火に包まれるのを防ぐためなら、王女として座視しているわけにはいきません。……ですが、私は表立って動くことはできません。ここからは互いに、慎重に動く必要があります」
ヒルデガルドは一度深く息を吐き、言葉を続けた。
「まずは、私が城内を探ってみます。王女という立場なら、大臣の周りや公的な書類に近づくチャンスも作れるはず。必ず、この国の闇を暴くきっかけを掴んでみせます」
リュウジィは頷くと、王宮を後にした。
夜の帳が下りた王宮の外。
人目を避けた影で待っていたタツヨが、戻ってきたリュウジィの姿を見つけると、肩の力を抜いて歩み寄ってきた。
「王女とちゃんと話せたか?」
タツヨの低い声に、リュウジィは短く応えた。
「協力してくれるってさ。……そっちはどうだった。何もなかったか?」
リュウジィの問いに、タツヨは呆れたように暗闇の先を指差した。
「何か三英傑候補とか自分で言っちゃう恥ずかしい奴が出て来て、ぶっ飛ばしたよ。あっちに転がってるよ」
その言葉を聞いた瞬間、リュウジィの口元がわずかに緩む。
「俺も王宮で同じ事言ってた奴と戦ったよ。弱すぎたけど……」
言いかけて、リュウジィはタツヨが指した方向へ目を凝らした。
そこには無残に地に伏した男の影がある。
「ちょっと待って、あっちで転がってる? 騒ぎになる前に逃げるぞ」
二人は顔を見合わせると、足音を殺して闇の中へと走り出した。
風を切る音に紛れ、タツヨが並走しながら低い声を飛ばす。
「おいリュウジィ、お前が一緒にいるフロドとプリカの2人の子供。どっか行かせられないか? このままだと間違いなく狙われるぞ」
タツヨの懸念はもっともだった。敵の魔の手が迫る中、子供たちを巻き込むわけにはいかない。リュウジィは走りながら迷いなく答えた。
「わかった。当てはあるよ。ここからキングスフォーンに手紙を書いたらどれぐらいで届くかな?」
「3日ぐらいだな」
タツヨの即答に、リュウジィは前を見据えたまま短く応じた。
「わかった」
その瞳には、すでに次なる一手が宿っていた。二人の影は夜の街並みに溶け込み、さらに速度を上げた。




