表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

41/60

第41話 不遜な契約と夜会の毒



 

アズマリアの闘技場で十五日間、五連勝。


最短で敵を沈める俺の戦い方は、運営にとっては扱いにくいが、客を呼ぶには十分すぎる商品になっていた。

連勝続きで気分良く試合をこなしていたが、それが呼び水となって、想定通り俺を王宮へと引き摺り出した。


「私のお抱えになりなさい、リュウジィ」


呼び出された王宮の一室。そこにいたのは、二十二歳の王女ヒルデガルドだった。


見るからに金のかかってそうな派手な装飾に囲まれ、高価な香油の匂いを纏った彼女は、いかにも王族らしい、人を完全に見下したような目でこちらを睨んでいる。


「お心遣りはありがたいですが、住居は結構です。下町に一緒に住んでいる弟分がいて、そいつの待つ家で過ごすのが一番落ち着くんですよ。仕事の時以外は、あっちで自由にさせてください。そちらのやり方に口を出すつもりはありませんから」


王宮の贅沢をさらりと、だが明確に断った俺に、ヒルデガルドは呆気にとられたような顔をした。やがて、ふふ、面白い男ね、とどこか楽しそうに契約を認めた。


次の日の夜。

俺は契約後の初仕事として、貴族たちが集う夜会に同行していた。

会場には、金持ちたちの身勝手な欲望がこれでもかと渦巻いている。


この夜会の目玉は、貴族たちが連れてきたお抱えの剣士たちを戦わせる余興だ。黄金の箱から番号が書かれた札を引き、当たった者同士が舞台に上がるのがこの場の遊びらしい。

 

要するに、奴らにとっちゃ俺たちの戦いなんて、ただの優雅な暇つぶしなんだろう。


「おや、ヒルデガルド殿下。それが例の死神ですか?」


その黄金の箱による抽選が進む中、上座の男に近い派閥の貴族が下卑た笑みを浮かべて近づいてきた。だが、最後まで俺の番号は呼ばれなかった。


「おやおや、運がありませんでしたな。殿下、あんな細身の若造が壊れるのが怖くて、裏で手を回されたのでは?」


「ハハハ! お人形さんは、観賞用としてお城に飾っておくのがお似合いですぞ」


嘲笑を浴びせられるヒルデガルドの肩が、わずかに震えているのが視界の端に入った。


二十二歳の女が、寄ってたかって醜い大人たちになぶられている。その光景は、見ていて気分のいいものじゃなかった。


俺は壁際から、ゆっくりと歩み出た。

一歩踏み出すごとに、靴音がホールの床に響く。


「……よしなさい、リュウジィ。彼らの相手をする必要はないわ」


ヒルデガルドが俺を制したが、俺はそれを無視して、金持ちたちが囲む舞台へと視線を投げた。


「いいよ。そこの2人とやるよ。まさか逃げないよね」

 

静寂がホールを支配した。


面目の潰された貴族が、顔を真っ赤にして絶叫する。無礼な若造を、殺せ、と。

 二人の精鋭剣士が、殺気を孕んで舞台へと上がってきた。

 双剣の男が影のように肉薄し、俺の視界を刃で切り裂こうとする。その刹那、俺は半身でそれをかわし、左掌を真っ直ぐに突き出した。

 形意拳、劈拳へきけん


 パァァァン!!


乾いた破裂音がホールを劈き、男の顔面に衝撃が吸い込まれる。

 男の首が不自然な角度でのけぞり、意識を刈り取られた体が数メートルほど後方へ突き飛ばされた。男は飾り柱に背中から激突し、崩れ落ちた。


「貴様ぁぁ!」


相棒を沈められた大斧の巨漢が、逆上して斧を振り下ろす。その初動を俺は見逃さない。


斧の重さがこちらに届くより速く、俺は一歩深く踏み込み、右拳を男の鳩尾へ最短距離で突き刺した。

 内功ないこうを一点に凝縮した、形意拳、崩拳ほうけん

 

ドスゥッ!!


衝撃は腹部の皮を抜け、背骨まで達する。

 巨漢は声も出せず、腹を抱えるようにくの字に折れ、その勢いのまま背後のテーブルへとなだれ込んだ。銀食器が床に散らばり、会場には信じられないものを見た者たちの荒い息遣いだけが残る。


(……これでもかなり加減したんだけどな。)

 

俺は息一つ乱さず、ただ静かにそこに立ち、手首を軽く回した。

 体は、思った以上に俺のイメージに応えてくれる。


「……殿下、こんなもんでいいですか」


呆然と立ち尽くすヒルデガルドに、俺は短く声をかけた。


静まり返ったホールの中、ただ一人、上座に座る男が声を上げて笑い出した。


「くく……はははは! 実にいい。殿下、いい拾い物をなさいましたな」

 

男は満足げに、ゆっくりと拍手を送る。周囲の貴族たちは、その笑い声に弾かれたように顔を見合わせた。

 俺はその拍手を背中で受け流しながら、舞台を降りた。

 やっぱり俺には、こういう場所はガラじゃない。

 さて、さっさと切り上げて家に帰るとするか。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ