第4話:見えない鎖
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気合を入れて、ショクアン扉を開けて外に飛び出た。
外に出た瞬間に、たった今、付き添ってくれて、尚且つ飯まで食べさせてくれると言ってくれた、親父さんを一瞬忘れていた。
急いで振り返る。
「おい!お前いきなりどうした?飯は?」
親父さんは心配そうな顔で俺を見ていた。
「……ごめんなさい、親父さん。ちょっと考え事をしてて。結局、日雇いの土木作業か、ダンジョンのモンスターの『囮』くらいしか仕事がないみたいだね」
俺が苦笑すると親父さんが口を開いた。
「いいか、よく聞け。一番厄介なのはな、その『武道家』っていうスキル自体なんだ」
親父さんは声を潜めて、この世界の残酷なシステムを語り始めた。スキルなしならどんな仕事でも、そこそこになれるが、戦闘系のスキルを持つと、体の使い方も頭の回転もそのスキルに固定され、何をやっても評価が得られない。さらに運が悪い事に、元々武道家スキル持ちは王宮の警護や傭兵の雇用があったが、60年前からこの国では雇用が禁止になったと言う。単純に一部の人間を除いて、武器を持ってないから戦闘になると直ぐ死んでしまうから、雇っても役に立たない。それがこの世界の「見えない鎖」なのだという。
(……なるほど。スキルで能力が決まってしまうのか。異世界のシステムってのは、日本のハローワークよりよっぽど質が悪いってわけだ)
親父さんの話は続く。「例えば魔術士ならエリート街道。オックスオードやマサチューソッツといった魔法大学で英才教育を受け、落ちこぼれても回復魔法が使えれば食いっぱぐれない」
つまり、この世界の人間は、生まれた瞬間に引いたカード一枚で一生のランクが決まってしまう。
「親父さん。それじゃあ俺は、一生この『武道家スキル』のハンデと一緒に、このまま詰んだ状態で生きていくしかないってのか?」
「……普通なら、そうだ。だがな、リュウジィ。お前、さっき村の若衆に何をしたんだ?魔力が漏れるような反応が全くなかったぞ」
この世界の住人は、スキルを使う時に独特の反応が身体に出るらしい。だが、俺が使ったのは形意拳の動き……ただの物理現象だ。
「お前が持ってるその『妙な動き』。それが、どうにかしてくれるかもしれねぇぞ」
「……親父さん。ちょっと待ってくれ。闘技場ってのは、すぐ申し込めるのか?」
「申し込めるが、勧められんぞ。運が悪く剣士との対戦が決まったら、終わりだぞ。剣士スキルの奴らは、スキルの補正で『腕力』と『速度』が異常なんだよ。まともにやり合えば、一瞬で真っ二つだぞ」
(……真っ二つか。でも1回死んでるから、開きなおるしかない。転生して二度目の人生なのに、現世と同じゃ意味ないよな。賭けてみよう。自分の運を)
「闘技場で剣士に勝てば、報酬は通常の十倍だ。だが、剣士に勝った武道家なんて見たことはないぞ」
親父が言い終わる前に、俺の体は動いていた。
「わかった。親父さん、ちょっと待っててよ!」
俺はショクアンに逆戻りし、さっきの受付嬢に羊皮紙を突き出した。
「あの、すみません。さっきの闘技場、申し込みたいんですけど。備考欄に『剣士との対戦希望』って書いてもらえますか?」
「……本気ですか?次の闘技場の開催は三日後になりますが、お勧め出来ませんよ」
受付嬢の冷たい視線を背に、俺はショクアンを後にした。戻ってきた俺に、親父さんが呆然と呟く。
「リュウジィ、本当に申し込んだのか……」
「ああ。……でも親父さん、これ、一応公営なんだよね? 三日もあれば、少しは動けるようになるだろうし……やるしかないでしょ」
(はっきり言って怖い。現世で武道家だった訳じゃないし。当然殺し合いなんてしたこともない。しかし趣味の枠を超えたレベルで形意拳にのめり込んでたのは事実だ。それにさっき村人の棒切れを吹き飛ばした勁力。試してみたい)
俺は震えながら拳を握りしめた。




