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46歳おっさんの形意拳が、異世界でチートになった 〜魔法も剣も届かない究極の拳法で、第二の人生を無双する〜  作者: 九条竜二


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第39話 三英傑




広場を離れ、石造りの階段を下りながら、俺は先ほど目にしたタツヨ・ジョージの姿を脳裏に焼き付けていた。


 隣を歩くフロドは、さきほど目撃した圧倒的な一撃の余韻が抜けきらないのか、どこか上の空で落ち着かない様子だった。


「……フロド。あと二人は、どんな奴らだ?」


「一人はムサシ・ミヤモト。二本の刀を使う剣士だよ。もう一人はカミラ・ヴァン・クロム。グレイブを使う女の人。どっちもタツヨと同じか、それ以上にヤバい奴らなんだぜ」


「二刀流と、グレイブか」


「そう。二人とも、闘技場じゃかなり有名だよ」


 俺は歩みを進めながら、その二人の名前を頭の中に刻み込んだ。


 タツヨ・ジョージ。


 今日、実際にこの目で見た男だ。


 あの強さを考えれば、同じ三英傑と呼ばれる二人も相当な実力者なのだろう。


「その三人が最強なのか?」


「ううん、違うよ!」


 フロドは首を横に振った。


「三ヶ月に一回出てくる『オーガ』ってのが最強なんだ。タツヨ・ジョージだって一度戦って死にかけてるからね」


「オーガ? 三英傑より上の奴が、まだ奥に控えてるってわけか」


「三英傑が束になっても勝てねえって噂だぜ」


「……なるほどな」


 今日、俺が見たタツヨの強さを思えば、それがどれほどの相手なのか、想像するのも難しい。


 それでも、やることは変わらない。


 元より王宮へ足を踏み入れるために選んだこの闘技場だ。


 強い奴が上にいるなら、そこまで勝ち上がればいい。


 目の前の敵を一人ずつ倒し、その先へ進む。


 それが、一番早く王宮へ近づくための道なのだから。


 俺たちは石造りの階段を一段ずつ降り、アズマリアの下層へと帰路についた。


 明日からの立ち回り。


 そして、来るべき戦いに向けた計画を、もう一度頭の中でしっかりと詰め直さなければならない。



 ――そして、三日後。



 俺は再び、静まり返った薄暗い控え室の中にいた。


 外の鉄格子の向こうから重低音のように降ってくる観衆の歓声は、三日前よりも一段と熱を帯び、壁をびりびりと震わせている。


 不意に、途切れない思考の隙間で、とりとめのない物思いにふけってしまう。


 借金の返済に追われる現実から目を背けるようにして、かつての日本で夢中になってのめり込んでいた形意拳。


 まさか、その趣味の武術が、現世で見た映画『グラディエーター』に登場するような血に飢えた闘技場での、命懸けの殺し合いに引きずり出されることになるとは思ってもみなかった。


 手に入れたのは十九歳の、まだ若い肉体。


 俺の培った形意拳が、この異世界において規格外のチートとして通用している現実は、どこか現実離れしていて、まるで自分が物語の主人公にでもなったかのような錯覚さえ覚える。


 だが、それと同時に、胸の奥底から冷たい不安が這い上がってくる。


 現世での記憶は、なぜか所々がすっぽりと抜け落ちている。


 俺の本名は?


 俺を産んだ親はどんな顔をしていた?


 どんな青春時代を送ってきたのかすら、頭の引き出しを探っても全く思い出せない。


 ハッキリと覚えているのは、かつて経営していたキャバクラが新宿にあったこと。


 そして、空港の警備員として働いていた最中、不意に向けられた改造拳銃の銃口から放たれた弾丸に撃ち抜かれ、気がつけばこの世界に放り出されていたことだけだ。


 そして何より、頭から離れないのは――俺はこの世界で死んだら、一体どうなってしまうのかという恐怖だった。


 前の世界のように、また都合よく人生をリセットしてやり直せるのか?


 それとも、今度こそ二度と戻らない、本当の意味での「人生のゲームオーバー」を迎えてしまうのか?


 答えは、まだ分からない。


 ただ一つ確かなのは、今の俺には生き残るために戦うしかないということだった。


 外から突き刺さるような大歓声でハッと現実へ引き戻され、視線を巡らせる。


 すると、控え室の片隅で静かに佇む一人の男の異様な気配が気になった。


 長めの髪を後ろで無造作に結び、無精髭を生やしたその男の傍らには、殺気を孕んだ二本の刀が静かに立てかけてある。


 男は周囲の喧騒などどこ吹く風といった様子で、抑揚のない虚ろな瞳のまま、一点をじっと見つめていた。


 すぐ隣で、フロドがゴクリと生唾を飲み込みながら、小声で恐怖を混ぜて囁いてくる。


「あれだよ、兄さん。三英傑の一人、ムサシ・ミヤモトだよ」


(なるほど……)


 俺はムサシから目を離さなかった。


 タツヨとは、まるで違う。


 だが、あの二本の刀を見れば、この男がただ者ではないことくらいは分かる。


(あの二本を、どう使うんだ?)


 実際に戦うところを見てみたい。


 そんな興味が、自然と湧いてきた。


 だが、今日の相手はムサシではない。


 俺は思考を切り替え、フロドへ視線を落とした。


「フロド、ちゃんと賭けてきたか」


「勿論だよ、兄さん。……でも、本当にいいんだね?」


 フロドの声には、いつもの明るさが少しだけ薄れていた。


「今日の相手は『三英傑』のすぐ下、『門番』って呼ばれてる奴なんだぜ」


「ああ」


「かなり強いって話だぞ」


「分かってる」


 俺は静かに答えた。


「だからこそ、勝つ価値がある」


 ガチャリ、と鈍い金属音が響いた。


 重い扉が開きかけて、あの口髭の男が顔を覗かせる。


「……時間だ、リュウジィ。行け。上の連中がお前の価値を見定めているぞ」


 俺は静かに頷いた。


 眩い光の差す出口の通路へと、一歩、力強く足を踏み出す。


 背後から響く歓声が、さらに大きくなる。


(とにかく勝って、王宮へ行くための足がかりを作る)


 それだけだ。


 俺は前を向いたまま、光の中へ歩み出した。







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