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46歳おっさんの形意拳が、異世界でチートになった 〜魔法も剣も届かない究極の拳法で、第二の人生を無双する〜  作者: 九条竜二


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第29話 黒竜の誘い




ツキノと一夜を共にした次の日。


俺は憑き物が取れたように、すっかり元気を取り戻していた。


(本当にアゲマンっているんだな。彼女には感謝だ)


なぜかカエデとニーナが今日は口をきいてくれないが、今の俺にはそれすら心地よい。


二階のキャバクラフロアの端でキャストとお客を見ていると、バッドがニヤニヤしながら近づいてきた。


「兄貴! どうでした? ロクメイカンは。やっぱりこう、凄いんですか」


そう言いながら、腰をクイクイと振っている。


「想像を超えたね! 口では答えられないよ」


「マジですか! いいなぁ、俺も行きてぇ」


「今度行くか? カシムさんと三人で。ツキノ嬢は客を選ぶからあれだけど、他の子もなかなかだぞ。これ以上は言えないな。あっははは!」


「兄貴、一日で変わりましたね。俺、安心しましたよ」


「腑抜けたか?」


「そうじゃないです。兄貴、出会った時から人を寄せ付けない空気があったのに、それが消えました。それに、そんな風に笑ったことないじゃないですか。顔が優しくなりましたよ。イケメンです」


「そう? ありがとう」


バッドが「えっ?」という顔をしている。


どうやら俺の返事が、よほど意外だったらしい。


確かに、自分でも変わったのが分かる。


王宮から帰ってきて以来、ずっと胸の奥にあった重苦しいものが、嘘のように消えていた。


何か特別なことをしたわけじゃない。


ただ、ツキノと一緒に酒を飲み、話をして、そして一夜を共にした。


それだけだ。


それなのに、あれほど頭から離れなかったローザの言葉や、リブルに敗れた悔しさが、今は少しだけ遠く感じる。


やはり女性の力は偉大だ。


だが、完全に忘れたわけではない。


俺はこの時、王宮でローザに言われたことを思い出していた。


『リブルの剣は、伝説の一本。オーディンの加護を受けた「雷神の剣」。あんたもガントレットか鎧ぐらい着けなさい。それが、強くなるヒントね』


(やはり、武具は必要なのか?)


リブルとの戦いで、俺は自分の力がどこまで通用するのかを思い知らされた。


形意拳が弱いわけじゃない。


むしろ、この世界では十分すぎるほど強力な武器になっている。


だが、それだけでは足りない。


相手が伝説の武器を持っているなら、こちらにも対抗する何かが必要だ。


俺自身が強くなる。


それは当然として、使えるものがあるなら何でも使うべきだ。


それから数日が経った。


ロクメイカンの日以来、カシムさんが店に来た。


俺は一階の裏にある仮設小屋の事務所にいたが、店の者が知らせてくれたため、急いで二階のフロアへ向かった。


「いらっしゃいませ! この前は本当にありがとうございました」


カシムさんはニヤリとしながら、俺の顔を覗き込んだ。


「おお! てか顔変わったな、リュウジィ君。連れて行った甲斐があったよ」


「本当ですか? なんかバッドにも言われたんですよね……。ところでカシムさんに、聞きたいことがあるのですが」


「なんじゃ? わしの知っておる事なら何でも答えよう」


「伝説の武具とか呪われた武具で、ガントレットや鎧について、何か知りませんか?」


俺がそう尋ねると、カシムさんは少し考えるように顎へ手を当てた。


「知っとるよ。専門家だからな。例えばこれ」


そう言うと、カシムさんは人差し指にはめている指輪を見せた。


幅広の銀の指輪。


その真ん中には、真っ黒な丸い石がはめ込まれている。


「これは『サーベルタイガーの瞳』。ダンジョン探索の時、危険モンスターが近くにいる時は赤、お宝が近くにある時には黄色に光るんじゃよ」


「へぇ……そんな便利なものまであるんですね」


「ダンジョンでは、何が起こるか分からんからな。こういう道具が命を救うこともある」


カシムさんは、まるで自慢の宝物を見せる子供のような顔で指輪を眺めた。


「拳を覆わない、手首からのガントレットとか、軽量の鎧みたいなのないですかね?」


俺が尋ねると、カシムさんは再び考え込んだ。


「ガントレットはあるけど、手首からのは聞いた事ないな。軽量の鎧もちょっと……」


「そうですか……」


「……あっ!」


突然、カシムさんが声を上げた。


「でも、あれはちょっとなぁ……」


「あるんですか?」


俺は思わず身を乗り出した。


「教えて下さいよ。どこのダンジョンですか? どんな鎧ですか?」


「いいや、ダンジョンではないよ」


「じゃあ、どこにあるんです?」


「ここから乗り合い馬車で二日の南の国『サウスチェケラッチョ』にある、国営で一番デカい武具店の地下に飾ってあるぞ」


「えっ! そんな簡単な所にあるんですか?」


俺は思わず聞き返した。


「伝説の武具と呪われた武具なのに? やっぱり国の宝的な感じですか?」


「見学も出来るし、着たいと言えば着れるぞ。国宝でもないしな」


「えっ! ちょっと理解出来ないですけど」


伝説の武具。


呪われた武具。


そんな物が、国営とはいえ普通の武具店の地下に飾られている。


俺の感覚では、厳重な警備の中に封印されていてもおかしくない。


「そんな危険なものを、普通に見学できるんですか?」


「まあ、見学するだけなら死なんからな」


「……着ると?」


俺が聞くと、カシムさんの表情が変わった。


「黒竜ファフニールの鎧。今まで千五百人の人間が死んでおるからな……」


「……」


一瞬、言葉の意味を理解できなかった。


「あの……今、何人って言いました?」


「千五百人じゃ」


あまりの桁の違いに、俺は思わず聞き返した。


「……千五百人? なぜそんなに死ぬんですか」


カシムさんは俺の目を真っ直ぐに見据えた。


「あの鎧には、意志がある」


「意志?」


「そうじゃ。着けた瞬間に相手を品定めする。主として認められなければ、その場で即死じゃ」


「即死……」


「そうじゃ」


カシムさんは淡々と答える。


だが、その内容は淡々と聞けるものではなかった。


「だが、もし万が一、鎧にお前が主だと認められれば……」


カシムさんは、そこで一度言葉を切った。


「鎧はお前の思った通りの形へと姿を変える」


「思った通りの形に?」


「最初から軽量なわけじゃない。お前が望むから、その形になるんじゃ」


俺は思わず自分の拳を見た。


それなら、俺が望めば形意拳を邪魔しない形にもできるということか。


「そしてその鎧は、着けた者の身体能力を極限まで高める『身体強化』の力を持っておる」


(おいおい、ラノベのインテリジェンスウェポンかよ)


まさか鎧そのものに意志があり、持ち主を選ぶとは思わなかった。


しかも、主と認められれば、装着者の意思によって形を変える。


それだけでも十分ぶっ壊れている。


さらに身体能力まで強化する。


俺が欲しがっていた条件に、これ以上ないほど当てはまっている。


問題は――。


「千五百人……」


俺が呟くと、カシムさんは自分の指輪をさすりながら言葉を継いだ。


「まあ、伝説の武具や呪いの武具は、それなりの対価を払わないと手に入れられないって事だよ。この指輪だって、着けてから五日、高熱で泡吹いてたからな、わしは」


「……泡、吹いたんですか」


「死ぬかと思ったわい。ガハハ!」


笑い飛ばすカシムさんだったが、その目は笑っていなかった。


その指輪にも、何かしらの代償があったということだ。


それでも、今こうして平然と身につけている。


「伝説の武具っていうのは、そういうものなんですね」


「そういうものじゃ」


カシムさんは指輪を眺めた。


「力だけを欲しがる者には、力相応の代償が待っておる」


「……」


「千五百一人の死体になるか、伝説の主になるか……」


カシムさんは俺の目を見た。


「それでも行くか、リュウジィ君」


俺は静かに息を呑んだ。


(主として認められれば、望んだ形に変わる。そして付与効果は『身体強化』……。それを俺の『内功』と重ね掛けできれば、あいつの雷神の剣にだって対抗できるはずだ)


リブルの姿が頭をよぎる。


あの雷神の剣。


あの圧倒的な力。


そして、何もできなかった自分。


もう二度と、あんな思いはしたくない。


強くならなければならない。


店を守るためにも。


仲間を守るためにも。


そして、いつか再びリブルと対峙した時に、今度こそ自分の力を証明するためにも。


もちろん、死ぬのは怖い。


千五百人も死んでいるのだ。


自分だけは大丈夫だなんて、根拠のない自信を持てるほど俺は馬鹿じゃない。


それでも――。


俺には、行く理由がある。


俺はカシムさんを真っ直ぐに見返した。


「ええ、行きます」


「本当に行くのか?」


「そりゃ、リスクは高いですけど、それくらいぶっ壊れた装備じゃないと話になりませんから」


カシムさんがニヤリと笑う。


「ほう……」


「観光がてら、ちょっとその『ファフニール』ってやつに挨拶してきますよ」


「千五百人も死んどるんじゃぞ?」


「泡吹くくらいで済めば儲けもんです」


「ガハハ!」


カシムさんは豪快に笑った。


俺もつられて笑う。


(……ま、まずは本当に泡を吹くだけで済むように、神様にでも祈っておくか。信じちゃいないがな)





お読みいただきありがとうございました。

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