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46歳おっさんの形意拳が、異世界でチートになった 〜魔法も剣も届かない究極の拳法で、第二の人生を無双する〜  作者: 九条竜二


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第27話 魔性の女来る



 王宮から帰ってきて、3日が経った。

 

俺の心には、ぽっかりと穴が空いていた。


「今の貴方じゃ、何一つ守れやしないよ!」

 

頭の中で、ローザの言葉がしつこく鳴り止まない。


異世界に転生して、店の経営者になって、ちょっと形意拳が異世界ではチートで使えて、まるで物語の最強の主人公にでもなったつもりでいた。


結局何もわかっていないガキそのものだった。リブルにやられて、その事がわかった。

 

その事実が、今はただただ恥ずかしくて、情けない。


店はいつも通り、客の熱気と肉を焼く煙で溢れかえっている。

下に降りて来てたバッドが口を開く。


「……カエデ姉さん。兄貴、あんな感じでさ。何とかならない? 俺馬鹿だからさ」

 

バッドがカウンターにいるカエデに小声で話しかけていた。


「……人間の心だけは、計算できないから。ごめんね」

 

カエデは帳簿から目を離さず、静かにそう答えた。


それから、さらに3日が過ぎた。

俺が店へ出勤してくると、店内の空気が明らかにいつもと違っていた。

 

客たちは食事の手を止め、一点を凝視してざわついている。二階の階段からは、営業中なのにキャストたちが鈴なりになって身を乗り出し、一目だけでも拝もうと色めき立っていた。


その視線の先、客席の特等席には、圧倒的な「華」をまとった女がすでに座り、食事をしていた。


かつての江戸で、花魁道中おいらんどうちゅうを一目見ようと群衆が集まったというが、まさにそのスーパースターがそこにいた。

 

俺は階段にいるキャストに手で上に上がれと合図して、バッドに聞いた。


「誰なの? あのお客は」


「兄貴、知らないんですか? ロクメイカンのナンバーワンですよ」


横からバッドが興奮して耳打ちしてきた。


「ロクメイカン?」

 

バッドが身を乗り出して言う。


「王都の高級娼館しょうかんのロクメイカンのナンバーワン、ツキノ嬢ですよ」


「娼館か」

 

値踏みするような視線を一度だけ向け、俺は興味なさげに視線を切った。


「ただの娼婦じゃないんですよ、いくら金積んでもツキノ嬢が気に入らないと一晩過ごせないんです。しかもツキノ嬢と一晩過ごすと運が上がるって話で。いいなぁ俺もやりてぇ」


(現世の座敷わらしかよ)

 

だが、今の俺にはどうでもいいことだった。凹んでいてかったるいし、そんな眩しいものに興味はない。俺はその姿をチラッと横目で見ただけで、そのまま裏の事務所へと入った。

 

だが数分後、バッドが事務所のドアを叩いた。


「兄貴、店主の顔が見たいってツキノ嬢が言ってるんです。オーナーが挨拶もしないんじゃ格好がつかないでしょ。来てください」


「……お前が行けよ」


「俺じゃダメなんです。あの人が、わざわざ『店主さんは、どちらにいらっしゃるの?』って聞いてきたんですよ!」


しつこいバッドを黙らせる方が楽だと思い、俺は渋々立ち上がった。

 

剥がれかけの「愛想笑い」を顔に貼り付けて、彼女の席へと向かう。

 

「来店有り難うございす。店主のリュウジィです。うちの肉はどうでしょうか?」



彼女は、キングオーグの肉をゆっくりと味わって言った。


「……いいお肉ね。この肉を選んだ方の『目』は、確かみたいだわ」

 

真夜中の闇を溶かし込んだような、つややかな黒髪のウェーブ。


見る者を射抜く、深紅のルビーのような瞳。

目尻がわずかに跳ね上がっており、その視線には獲物を捕らえる蛇のような危うい熱がある。


体のラインを大胆に強調する、深い真紅のベルベットドレス。スリットからは雪のような脚が覗く。

 

だが、彼女のルビーの瞳が俺の「型だけの接客」を静かに射抜く。


「ただ、この一皿を客に出した方の心が、少し冷めてしまっているのが残念かしら」


俺はそんな事を言う彼女をじっと見つめた。


お読みいただきありがとうございました。

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