表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

26/63

第26話 光刃(こうじん)の洗礼と敗北の刻印



 ブーン! ブーン! ブーン!

 剣の不気味な重低音が空気を震わせる。

 リブルの構えは、見たことがないものだった。

 剣のつかを頭の横に保持し、剣身はほぼ水平。その切っ先が蛇の舌のように俺を正確に捉えている。

 ヤバいのは、こいつに一切の隙がないことだ。俺のことなんて微塵みじんも舐めていない。

 ――その瞬間、一気に入れ替わるように間合いを詰めてきた。

 斬撃が来る! 手元の動きは見えているはずなのに、剣の軌道がまるで見えない。

 

俺は死に物狂いで体をひねり、必死にかわした。

 ブーン! ブーン! ブーン!

 恐怖心を煽る音が耳元で鳴り響く。攻撃する暇なんて一秒もありゃしない。

 

避けているはずなのに、光の余波だけで皮膚がじりじりと切り刻まれていく。

 上段から振り下ろされた一撃を、俺は横に飛んでかわした。

 

ブォウォォォォン!

 

剣が叩きつけられた石畳が、3メートルほども無残に裂けた。

 リブルはその剣をひるがえし、間髪入れずに横一線になぎ払って来る。

 俺は践歩せんぽで斜め前方へと潜り込むようにかわしたが、その


瞬間――。

 ドカッ!

 

剣をかわした死角から、遠心力を乗せた凄まじい蹴りが俺の腹を捉えた。

「うううっ……!」

 内臓がひっくり返る衝撃。そして、止まることなく次の一撃が飛んでくる。

 俺は思いっきり後方へ飛び、距離を取った。


(……こいつの剣は、貴族のお坊ちゃんの剣とは違う。勝つためなら、何でもやる剣だ)

 

あっちこっち切られて、焼けるような痛みが脳をく。


「なら、俺も何でもしてやるよ……!」


 内功ないこうの呼吸を一段深く沈め、吐き出した瞬間、捨て身の覚悟で距離を詰める。

 リブルが斬りに来た瞬間、瞬間移動のように斜めにスライドし、ヒヒイロカネの靴底で石畳を蹴り、削り取った。そのつぶてをリブルの顔面へ目掛けて飛ばす。

 踏み込みが半歩足りない!

 俺はリブルの剣の側面を、外回転させたしょうで撃ち抜いた。

 横拳おうけん

 

パァァァァン!!

 横に弾かれ、体勢を崩したリブル。その隙を逃さず、一気に距離を詰める――。

(……えっ、体勢を崩したフリか!?)

 罠だ。リブルの口角が吊り上がる。振りかぶった斬撃が、逃げ場のない速度で迫る。

 ヤバい、止まらない。俺は必死に崩拳ほうけんを叩き込んだ。

 

カギィィィッ! ドカッーーーン!


「えっ……?」

 リブルと俺の間を割って入るように、透明なアクリル板のような壁が出現していた。リブルの剣と、俺の拳が、その壁に阻まれて止まっている。

 

ローザがパチンと指を鳴らすと、その物体は霧のように消えた。

「これ、模擬戦でしょ? はい、おしまい」

 ズタボロの俺にローザが近づいてきて、しょうから緑色の光を放つ。

 すると、全身の傷がたちまちふさがっていった。

「……これが、回復魔法」

 呆然とする俺に、ローザが口を開く。


「あんたさぁ、身体強化使えるんだね。びっくりだわ。……だけどさぁ、自惚うぬぼれてない? 自分の力に」

 

ローザの言葉が、治りたての体に冷たく突き刺さる。


「自分のこと、強いと思ってたでしょ? 私が止めなかったら、どうなってたか、わかるよね?」

 

俺は返す言葉がなかった。

 全くその通りだ。完璧な敗北。異世界に来て、ちょっと形意拳けいいけんがチートで使えるからって、どこかで調子に乗っていたんだ。


「今のあんたじゃ、何1つ守れやしないよ。もし私に力がなくて、本当に守りたい人達がいたら、模擬戦を言われた時にひざまずいて、許しを乞うわ」

 何も言えなかった。46年生きてきて、現世では経営者として店を回してきた自負さえ、この言葉の前では粉々だった。


「……でも、あんたちょっと気に入ったから、ヒント教えてあげる」

 

ローザは突き放したまま、小さな声を落とした。


「リブルの剣は、伝説の一本。オーディンの加護を受けた雷神の剣。アイツだってあれを使いこなすのに、三回は死にかけてるんだから。あんたもガントレットか鎧ぐらい着けなさい。それが、強くなるヒントね」

 

嵐のような女だ。

「今度はプライベートでお店行くね! いじめないから大丈夫」

 ローザが去っていく背中を、俺は立ち尽くしたまま見送るしかなかった。

「今のあんたじゃ、何1つ守れやしないよ」

 その言葉が、いつまでも俺の心を貫いていた。

 そしてこの時、遠目から銀色の瞳でリリスが俺を見ていたことに、俺はまだ気づいていなかった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ