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第25話:謁見(えっけん)の間の模擬戦

馬車が止まり、巨大な鉄の門が開く。

 そこは、石造りの冷気が支配する王宮の中庭だった。リブルとローザに挟まれ、俺は重い足取りで謁見えっけんの間へと続く長い廊下を歩く。

 脇に抱えているのは、魔石で温度調整された魔石冷却箱だ。

 店を出る間際、厨房の隅でバッドの母親が「これ、王様への献上物にしなさい。あんたの命を守ってくれるはずだよ」と持たせてくれた、最高級のキングオーグの肉が詰まっている。

 

バッドみたいなはみ出し者が、毎日汗をかいて働いているあの店。あいつらの居場所を、こんなところで終わらせるわけにはいかない。手に伝わる箱の重みが、今の俺をなんとか支えていた。


 西の王国、キングスフォーン。

 天井が高いその空間の最奥、黄金の玉座に座る男。この国の王が、退屈そうに俺を見下ろした。

「……リブル。アグニ村で騒ぎを起こした店主とは、この若造のことか。随分と期待外れではないか」

 

俺は、46歳の処世術をフル回転させ、深々と頭を下げた。

(……いきなりこれか。完全にガキ扱いだな。仕方ないか今の姿は間違いなく小僧だから)


「陛下、お初にお目にかかります。リュウジィと申します。此度は、我が店自慢のキングオーグの肉を献上したく、持参いたしました」

 王は一瞬、肉に目を向けたが、すぐにその口角をいびつな形に吊り上げた。


「料理か。……だが、余が興味があるのはお前の腕だ。アグニ村の報告書にはこうある。魔法も剣も使わぬ若造が、一瞬で騎士を無力化したとな」


(……あ、やっぱりそこか。そう簡単に隠し通せるわけないよな)


「ははっ、まさか。あれは運が良かっただけで……」


「ふはははは! 運だと? 面白い。騎士を倒せる武道家など、この国にはおらぬ。是非、その運とやらを余に見せてみよ」

 

その時、広間に足速に一人の女がやって来た。

「お父様、殺したら駄目よ!」

 その声に、リブルとローザが即座にひざまずく。


「来たのか、リリス」

 

長い黒髪に、射抜くような銀色のひとみ。首元には三日月のチョーカーが光る。王族らしいドレスをまとっているが、色は深い紺色。袖口にあしらわれた繊細な黒レースが、彼女のどこか神秘的な雰囲気を引き立てていた。

 フォーン家第二王女、リリス・フォーンその人である。

 

リリスがこちらを覗き込む。一瞬緩んだ王の目が、再びギラリと残酷な光を帯びた。


「模擬戦だ。……リブル、相手をしてやれ。余を楽しませてみせよ。――殺すなよ」


 王の言葉とは裏腹に、空気が冷え切った。

 調査兵団長リブルが音もなく、俺の正面に立った。リブルの瞳に宿っているのは、練習相手に向ける眼差しではない。獲物を確実に仕留める、死神のそれだ。


(……本気かよ。これ、模擬戦じゃなくて完全に公開処刑だろ)

 

俺は、肉の入った魔石冷却箱をそっと横に置いた。

 

ひざが笑いそうになるのを、内功ないこうで無理やりねじ伏める。

 

俺は、ゆっくり構えた。

 半身で両手の高さは溝落ちぐらいにして中央に配置し、しょうはやや大きめのボールを持つぐらいの開掌かいしょうあごを引き、前後に軽く足を開く。一見すると無防備だが、あらゆる打撃に対応し、最短距離で突きを叩き込むための合理的なスタンス。現世で培った、あの中段の構えだ。

 

リブルの眉が、僅かに動いた。熟練の戦士であればあるほど、この構えに隙がないことに気づくはずだ。


「……お手柔らかに、お願いしますよ。団長さん」

 

俺は、馬車の中で練り上げた内功ないこうを一気に循環させた。

 その時、リブルが剣を抜いた。

 幅広の剣身が、全体的に黄色く発光している。そしてブーン、ブーンと空気を震わせる不気味な音が、静かな広間に響き渡った。


(……おいおい。あれに絶対ヤバい剣だな。なんてもん持ち出してくれるんだ)


(やるしかないか。……行くぜ、異世界のダース・ベイダー)

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