第24話 王宮への回廊
(モノローグ)
食事を終えたリブルが、立ち上がり、テーブルに無造作に金貨を数枚置いた。
「釣りはいらん。……残った連中で、好きに分けるがいい」
彼はそれだけ言うと、出口へと歩き出した。
俺はいつもの「営業用スマイル」のまま、スタッフたちに軽く声をかける。
「ちょっと王宮まで打ち合わせに行ってくる。ハクさん、夜の仕込みよろしく。バッド、留守中に酒飲むなよ」
一階に降りると、スタッフたちが不安そうに俺を見守っていた。
あのバッドですら、いつになく真剣な顔でこっちを見ている。
(みんな、余計な心配しないでくれよ。俺一人が適当に話を合わせてくれば済む話なんだから)
店を出ると、そこには磨き上げられた黒のボディに、金色の縁取りがされた豪華な馬車が停まっていた。
リブル、俺、ローザの順に乗り込む。
ふかふかのシートに体が沈み込むが、座り心地を楽しむ余裕なんて一ミリもない。
馬車が走り出すと、窓の外では街の人たちがリブルの姿を見た瞬間に道を開けて、一斉に頭を下げていた。
馬車の車輪が石畳を叩く規則正しい音だけが、静まり返った街に響いている。
俺は座ったまま、誰にも気づかれないように「逆腹式呼吸」を始めた。
吸う時に腹を膨らませて、吐く時に凹ませる。極限まで小さく、深く。意識を下に落としていく。
その瞬間、身体中の細胞が熱くなり、血の巡りが一気に良くなる。
体の芯が安定し、ドクン、ドクンと、自分の鼓動が耳元で鳴っているのがわかる。
「……あれ? なんか変じゃない?」
隣で退屈そうに指先で火を転がしていたローザが、俺の顔を覗き込んできた。
香水の甘い匂いと一緒に、ヒリつくような魔力の気配が鼻を突く。
「君さ、さっきから何してるの? なんだか、空気がピリピリするんだけど」
「いや、まさか……。緊張しすぎて、深呼吸してただけですよ」
俺は精一杯「緊張している若造」を演じた。
見た目は19歳の店主。でも内側では、これまでの経験と俺が現世で趣味の枠を超えてやってた形意拳がこの異世界では唯一の頼りだ。
「ふ~ん。ま、いいや。王様に会う前に死なれちゃったら、寝覚めが悪いしね」
ローザはあっさり引き下がったが、瞳の奥は冷たいまま。
正面のリブルは目を閉じたままだが、彼から漏れ出すプレッシャーは、俺の感覚をじわじわ押し潰してくる。
馬車の揺れが、少しずつ規則正しいものから、石畳を叩く硬い音に変わっていく。
窓の外には、空を突くような尖塔と、どこまでも続く高い城壁が見え始めていた。
この力が、王宮という場所でどう役に立つのか。
その答えは、間もなく――重厚な石造りの門をくぐった先で出ることになりそうだ。
(モノローグ)
(今はとにかく、どうやって、事を穏便にすませるか?考えるしかない)




