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46歳おっさんの形意拳が、異世界でチートになった 〜魔法も剣も届かない究極の拳法で、第二の人生を無双する〜  作者: 九条竜二


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第24話 王宮への回廊



食事を終えたリブルが、立ち上がり、テーブルに無造作に金貨を数枚置いた。


「釣りはいらん。……残った連中で、好きに分けるがいい」

 

彼はそれだけ言うと、出口へと歩き出した。


俺はいつもの「営業用スマイル」のまま、スタッフたちに軽く声をかける。


「ちょっと王宮まで打ち合わせに行ってくる。ハクさん、店をよろしくお願いします。バッド、留守中に酒飲むなよ」


一階に降りると、スタッフたちが不安そうに俺を見守っていた。


先ほど声をかけたバッドは、俺の言葉に返事をするのも忘れ、唇を噛み締めて立ち尽くしている。


店を出る際、俺はあえて大げさに肩をすくめ、わざとらしい笑顔で手を振って見せた。その背中を、スタッフたちの不安そうな視線が突き刺す。俺はそれを無視するように、重い扉を閉めた。


店を出ると、そこには磨き上げられた黒のボディに、金色の縁取りがされた豪華な馬車が停まっていた。

 

リブル、俺、ローザの順に乗り込む。

 

ふかふかのシートに体が沈み込むが、座り心地を楽しむ余裕なんて一ミリもない。

 

馬車が走り出すと、窓の外では街の人たちがリブルの姿を見た瞬間に道を開けて、一斉に頭を下げていた。

 

馬車の車輪が石畳を叩く規則正しい音だけが、静まり返った街に響いている。

 

俺は座ったまま、誰にも気づかれないように、静かに「逆腹式呼吸」で内功を高めた。

吸う時に腹を膨らませて、吐く時に凹ませる。極限まで小さく、深く。意識を下に落としていく。


この世界の魔力とは違う、腹の底から湧き上がる熱い塊が、全身の経絡を駆け巡る感覚。


最近は、これをやると身体じゅうに、力が漲るのがわかって来た。


体の芯が安定し、ドクン、ドクンと、自分の鼓動が耳元で鳴っているのがわかる。

車内の空気が俺の吐息に合わせて微かに揺れるほどの集中力だ。

 

「……あれ? なんか変じゃない?」

 

隣で退屈そうに指先で火を転がしていたローザが、俺の顔をのぞき込んできた。


香水の甘い匂いと一緒に、ヒリつくような魔力の気配が鼻を突く。彼女は火を転がすのをピタリとやめ、瞳孔をわずかに細めていた。


「君さ、さっきから何してるの? なんだか、空気がピリピリするんだけど」

 

「いや、まさか……。緊張しすぎて、深呼吸してただけですよ」

 俺は精一杯「緊張している若造」を演じた。

 

見た目は19歳の店主。でも内側では、これまでの経験と俺が現世で趣味の枠を超えてやってた形意拳けいいけんがこの異世界では唯一の頼りだ。


心身を研ぎ澄ませ、相手のわずかな挙動も見逃さないように感覚を尖らせる。

 

「ふ~ん。ま、いいや。王様に会う前に死なれちゃったら、寝覚めが悪いしね」

 

ローザはあっさり引き下がったが、瞳の奥は冷たいまま。

 

正面のリブルは目を閉じたままだが、彼から漏れ出すプレッシャーは、俺の感覚をじわじわ押し潰してくる。

 

馬車の揺れが、少しずつ規則正しいものから、石畳を叩く硬い音に変わっていく。

窓の外には、空を突くような尖塔と、どこまでも続く高い城壁が見え始めていた。


この力が、王宮という場所でどう役に立つのか。

その答えは、間もなく――重厚な石造りの門をくぐった先で出ることになりそうだ。


窓の外には、空を突くような尖塔と、どこまでも続く高い城壁が見え始めていた。



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