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46歳おっさんの形意拳が、異世界でチートになった 〜魔法も剣も届かない究極の拳法で、第二の人生を無双する〜  作者: 九条竜二


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第23話 静かなる強襲と、王宮の呼び声



カシムさんの警告から一夜明け、俺はいつになく重い足取りで店へと出勤した。


人生で培った「嫌な予感」というやつが、朝からずっと頭の隅で鳴り響いている。


その予感は、店の扉を開けた瞬間に確信へと変わった。


まだ開店前だというのに、店内の空気が妙に重い。


いつもなら準備に追われているスタッフたちも、今日はどこか落ち着かない。


誰もが二階を気にしているようだった。


「あ、兄貴……!」


奥から、バッドが駆け寄ってきた。


「どうした?」


「……二階に、ヤベえのが二人います」


バッドは、ちらりと階段へ視線を向けた。


「さっきから、そこで肉を食ってるんですけど……」


「肉を?」


「はい。営業前なんで、俺が用意しました」


バッドは苦笑しながら頭を掻いた。


「ただ……あの二人、普通じゃねえです」


雇ってから聞いた話だが、バッドは若いながらもスラムの半グレたちをまとめ上げ、傭兵として何度も戦場を経験している実戦派だ。


荒事には慣れている。


そんなバッドが、ここまで警戒している。


(……相当に厄介な連中が来たってことか)


「どんな感じなんだ?」


「男の方は、調査兵団団長のリブルと名乗ってました」


「リブル……」


「はい」


バッドは少しだけ声を落とした。


「俺、あの人とはやり合いたくねえです。強いとか弱いとか、そういう単純な話じゃねえ気がします」


そして、もう一人。


「女の方は、ローザとかいうS級魔術士です」


「S級魔術士……」


思わず言葉が漏れた。


「はい」


バッドは階段を見上げた。


「特に、あの女はヤバいです。ずっとニコニコしてるんですけど……何を考えてるのか、さっぱり分かりません」


(……なるほど)


(バッドがここまで警戒するなら、相当に厄介な連中らしいな)


俺が二階へ向かおうとした、その時だった。


階段からハクさんが降りてきた。


「リュウジィ様」


「ハクさん。何があったんです?」


ハクさんはいつもの穏やかな表情を浮かべていた。


ただ、普段より少しだけ目が鋭い。


「二階に、お客様がお二人いらっしゃっています」


「やっぱり、もう来てるんですね」


「ええ」


ハクさんは一度、二階へ視線を向けた。


「調査兵団団長のリブルと、S級魔術士のローザと名乗っていました」


「……S級魔術士」


「はい」


ハクさんは静かに頷く。


「営業前だというのに二階へ来られています。『キングオーグの肉を出せ』とのことでしたので、先ほどバッドに用意してもらいました」


「なるほど……」


「お二人とも、かなりの手練れです」


ハクさんは淡々と続けた。


「特に、あの女性には注意した方がよろしいかと」


「ハクさんでも、そう思います?」


「ええ。長く生きておりますと、相手を見ただけで分かることもございます」


ハクさんは小さく息を吐いた。


「ですが、私も店をお預かりする身です。何かあれば、すぐにお知らせいたします」


「お願いします」


俺は二人を見た。


バッドもハクさんも、逃げるつもりはない。


ただ、相手の力量を理解した上で警戒している。


それなら、俺も俺のやり方でいくしかない。


(前世で店をやっていた頃、面倒なヤクザの幹部連中を相手にしてきた時と同じだ)


煽てて。


調子のいいことを言って。


その気にさせる。


そして、こっちのペースに乗ってきたところで――。


『バーカ。こっちのペースだよ』


……くらいの余裕が必要だ。


もちろん、そんなことを口に出すつもりはない。


心の中で笑い飛ばしてやればいい。


俺は口角を無理やり引き上げた。


「……分かりました。俺が行きます」


「兄貴、俺も――」


「いや、いい」


俺はバッドを制した。


「今回は俺が話をする」


「……分かりました」


バッドは素直に頷いた。


「何かあったら、すぐ呼んでください。俺、下で待ってます」


「頼む」


「はい、兄貴」


俺はハクさんにも声をかける。


「ハクさん、一階から追加の肉を持ってきてもらえますか?」


「承知しました」


「俺が持って行きます」


「かしこまりました」


本来なら、一階で客が自分で焼いて食べる。


それが、この店のスタイルだ。


だが今は、そんな悠長なことを言っている場合じゃない。


俺は焼き上がったばかりの肉を大皿に盛り、それを手に取った。


そして、少しだけ緊張する足を動かし、二階のラウンジへ向かった。


階段を上る。


一段。


また一段。


上るにつれて、空気が変わっていく。


普段なら高級な香水の匂いが漂っているラウンジに、今日は一階から持ってきた焼肉の香ばしい匂いが充満していた。


その香ばしさすら押し潰すような、妙な重圧がそこにはあった。


テーブルに座っているのは、二人。


一人は、冷たい目をした男。


もう一人は、その隣で足をぶらぶらさせながら、紫色の髪をいじっている女だった。


女が、俺の持ってきた肉を見た瞬間、目を輝かせた。


「わあ!」


金色の瞳が大きく開く。


「これがキングオーグの焼肉?」


ローザは嬉しそうに身を乗り出した。


「すっごーい!」


そして、楽しそうに笑う。


「ジュウウウッて言った通りだね!」


「ローザ。勝手に食うな」


隣の男が淡々と言った。


「えー? いいじゃん」


「まだ許可していない」


「じゃあ、食べていい?」


「……好きにしろ」


「やった!」


ローザは嬉しそうに箸を取ると、肉を口へ運んだ。


「ん~!」


幸せそうな顔。


だが、その金色の瞳を見た瞬間、俺は背筋に薄い寒気を覚えた。


笑っている。


楽しそうにも見える。


なのに、どこか違う。


目の奥に、普通の人間とは違うものを感じる。


(……なるほど)


(この人がS級魔術士、ローザ・カイリか)


そして、その隣。


男はラウンジには少し不釣り合いな焼肉を黙々と食べていた。


こちらを見ている。


その目だけで、こちらの腹の内まで見透かされそうな気がした。


俺は緊張を押し殺し、二人のテーブルへ近づいていく。


そして、商売人として最高の笑顔を作った。


「いらっしゃいませ!」


「……」


「いやぁ、この度は有名なお二人に来ていただきまして、誠にありがとうございます!」


俺は軽く頭を下げる。


「主人のリュウジィです」


男はしばらく俺を見ていた。


そして、ようやく口を開く。


「調査兵団団長、リブルだ」


「これはこれは。リブル団長自ら、こんな店に来ていただけるとは光栄です」


「……なるほど」


リブルは俺をじっと見た。


「若いな」


「よく言われます」


「食事が終われば、王の元へ同行願おう」


「…………」


笑顔が、一瞬だけ固まった。


「陛下は、お前のアグニ村での件をすでにご存知だ」


(やばい)


心臓が、一気に跳ね上がった。


(あのこと、知ってんのか)


全身の血液が、サーッと引いていくような感覚。


だが、ここで怯えた顔を見せるわけにはいかない。


俺は必死に笑顔を維持した。


「いやぁ、そんなこともありましたかねぇ」


「…………」


リブルの目が細くなる。


「陛下から直々のお招きとは、これはこれは光栄の至りです」


俺は笑顔を崩さず、持ってきた肉をテーブルへ置いた。


「どうですか? うちの肉は」


「悪くない」


リブルは肉を一切れ口に運んだ。


「旨い」


「ありがとうございます!」


「……突っ立ってないで、座れよ」


「はい! 恐縮です!」


俺はすぐに返事をして、リブルの向かいに腰を下ろした。


その瞬間。


俺の脳内で、危険を知らせる警報が鳴り始めた。


この世界に来てから、いろんな人間と出会った。


強い奴もいた。


怖い奴もいた。


だが――。


目の前の男は、今まで会った誰とも違う。


余計な動きがない。


威圧しているわけでもない。


ただ静かに、こちらを見ている。


それだけなのに、肌が危険を感じ取っていた。


隣では、ローザが幸せそうに肉を頬張っている。


「おいしい!」


「……」


なんだ、この二人。


片方は何を考えているのか分からない。


もう片方は、考えていることが分からないどころか、そもそも考え方が俺たちと違う気がする。


引きつきそうになる頬を、俺は無理やり動かした。


そして、精一杯の愛想笑いを浮かべる。


(……さて)


(どうやって、この場をやり過ごそうか)

```


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