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第23話 静かなる強襲と、王宮の呼び声



(モノローグ)

 カシムさんの警告から一夜明け、俺はいつになく重い足取りで店へと出勤した。人生で培った「嫌な予感」というやつが、脳の隅で警鐘を鳴らし続けている。

 

その予感は、店の扉を開けた瞬間に確信へと変わった。開店前だというのに、店内の空気は氷のように冷え切り、スタッフ全員の動きが石像のように固まっている。


「あ、兄貴……! あ、兄貴ぃっ!」

 

奥から、バッドが血相を変えて飛び込んできた。雇ってから聞いた話だが、こいつは歳は若いがスラムの半グレをまとめ上げ、傭兵ようへいとして戦場を渡り歩いてきた実戦派だ。そんな猛者のバッドが身体を小刻みに震わせている。


「お、俺、あんなの初めてだ……。


おっかねえよ、兄貴。あの二人普通じゃねえよ……!」


(……バッドがここまで怯えるなんて。相当にマズい連中が来やがったな)

 

俺が状況を確かめに2階へ上がろうとしたその時、階段からハクさんが降りてきた。伝説の老兵と呼ばれたいつも冷静なその顔は、オールバックに流した髪の額から、一筋の汗がつたっていた。


「……リュウジィ様。……止まってください。気をつけて下さい」

「ハクさん? 何があったんです」


「……化け物です。王宮の調査兵団長リブルと、S級魔術士のローザと名乗ってました。営業前だというのに2階に来ています。『キングオーグの肉を出せ』と……。くれぐれも慎重に」


(なるほど。……なら、かつて現世で店に客で来ていた、ヤクザの幹部を相手にしてきたやり方でいくしかないか。煽てて、調子いいこと言って、その気にさせて、乗ってきたところで『バーカ、こっちのペースだよ』って。……表面上は揉み手しながら、心の中で『バーカバーカ』って言ってやるくらいの余裕がないとね。)


「……わかりました。俺が行きます。ハクさん、追加の肉の準備を。俺が持って行きますよ」


 本来なら一階の客が自分で焼いて食うのがこの店のスタイルだが、今はそんな悠長なことは言っていられない。俺は焼き上がったばかりの大皿に盛られた肉を手に二階のラウンジへと向かった。


 

普段なら高級な香水の匂いが漂うこの場所に、今は一階から持ち込んだ焼肉の旨そうな匂いが充満している。

 テーブルにどっしりと腰を下ろしているのは、死神のような冷気をまとった男と、そして、その隣で足をぶらつかせながら、紫髪をもてあそんでクスクスと笑う金色の瞳の女がいた。


「わあ! これがキングオーグの焼肉? すっごーい! ジュウウウッて言った通りだね! リブル、食べていい? 食べていいよね?」

 

その女がはしを使い、無邪気に肉を口に運ぶ。だけど目が笑ってない。その金色の瞳は、生命に対する慈悲じひなど微塵みじんも感じられない。

 

それに対して隣りの男ははラウンジのテーブルにはおよそ不釣り合いな、皿に盛られた肉を黙々と口に運び、俺を射抜くような視線だけを向けてきた。俺は揉み手せんばかりの勢いで二人に近づいた。


「いらっしゃいませ! いやぁ、この度は有名人のお二人に来ていただきまして、誠にありがとうございます! 主人のリュウジィです」

 

男は一切言葉を発さず、ただ肉を食べている。その沈黙が、逆に俺の背筋を冷たく撫でた。

「調査兵団団長リブルだ。なるほど、若いな。……食事が終われば、王の元へ同行願おう。陛下はお前の『アグニ村』での不祥事を、すでにご存知だ」


(やばい! あの事知ってんのか。これじゃ、言い訳は聞けねえ)


「いやぁ、そんなこともありましたかねぇ。……陛下から直々の招待とは、これはこれは光栄の至りです。どうですか? うちの肉は。どうぞ、追加の肉を持って来ましたので、ごゆっくり味わってください」

 リブルが短く口を開く。


「悪くない、旨い。……突っ立ってないで、座れよ」


「はい! 恐縮です!」

 俺はおもむろに、リブルの目の前に座った。

 

脳内では非常ベルが鳴りっぱなしだ。この異世界に来て、これまで会ったどんな相手より、ヤバいのがわかる。


 俺は精一杯、媚びた営業スマイルを浮かべた。

 

(さてどうする?この状況)

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