第22話 王宮の影と、動き出す牙
(モノローグ)
ハクさんが支配人に、おやっさんの店も再始動。
俺の『ギャングスター』も、ようやくこの街の夜に、なんとか居場所を確保できそうな気がしてきたところだった。
今度こそは、地道に、確実に。
そう思っていた矢先、馴染みの客であるカシムさんが、不穏な知らせを持って店に現れた。
店は既に賑わい始めていたが、フロアの喧騒から少し離れたボックス席に、カシムさんはいつになく真剣な面持ちで深く腰掛けていた。
「……リュウジィ君。近々、王宮から呼び出しがあるぞ」
「カシムさん? 何で私が呼ばれるんですか?」
俺はサイドテーブルに、いつもの酒を置いた。
カシムさんは魔術士ランクB。この人は変わり者で、魔術を戦闘で使いたくないと、魔術と考古学の研究をしている王宮直属の学者先生だ。普段は歴史や遺跡の話ばかりしているが、王宮の裏事情にも通じている。その彼が、今はひどく険しい表情をしていた。
「……嫌な噂を聞いてね。君の店が目立ちすぎた。王は君が国に忠誠を誓える人間か、あるいは芽のうちに摘んでおこうとしているらしい。……ここには君が期待しているような公平なルールなんてないんだ。力を持った者がすべてを吸い上げる……それが王宮のやり方だ。呼び出しを断れば、それだけで目を付けられる。……悪いことは言わない、くれぐれも失礼のないようにな。」
(……うわぁ、最悪だ。結局、どこへ行っても最後はこれかよ。
向こうで店を潰した時も、最初はこんな感じの、些細な横槍から始まったんだ。……だが、あの時の俺と今の俺は違う。
失敗したままで終わるつもりはない。今度こそ、最後まで自分の居場所を守り通してみせる。……さて、どう動くべきか)
「……教えていただき、ありがとうございます、カシムさん」
俺は最高の酒を一杯サービスしたが、カシムさんはそれを一気に煽ると、逃げるように店を後にした。
――同じ頃、王宮の深部。
「おい、リブル」
玉座に座る王が、目の前の男に声をかけた。
「はっ」
跪いたのは、調査兵団長リブル・レナード。スキル剣士ランクA、通称「人斬りリブル」。
「ちょっと頼まれ事をしてくれんか。王都の北にある『ギャングスター』という店の主人を、ここに連れてきてほしいのじゃ。……アグニ村の騎士団をたった一人で、しかも奇妙な術で無力化したというその腕前、わしも直に見てみたいものだ」
王がさらりと口にしたその言葉に、リブルの背筋に冷たいものが走った。
(……っ! じじい、知ってたのか!? アグニ村の件は、俺が部下から極秘で小耳に挟んだばかりのネタだぞ。……ちっ、相変わらず抜かりがねえ。この慎重さと耳の早さが、この国を長年守ってきたコツってわけか。食えねえジジイだぜ)
「……御意。相当に若いと聞いていますが、陛下のお耳に届いているのであれば話は早いですな。その『小僧』、我が国に忠誠を誓える男か見定めて参ります」
リブルが承知したその瞬間。
パチンッ!
背後で乾いた指鳴らしの音が響いた。
「ただいま、王様!」
紫のロングヘアーをなびかせ、魔術師特有のマントを羽織った女が影から現れた。魔術士 ランクS。この国最強の魔術士、ローザ・カイリだ。
「その話、面白そうだから私も行っていいかな? ちゃんと仕事してきたよ? 王様の暗殺部隊とその家族も、まとめてバーベキューみたいに焼いてきたんだから。ジュウウウッて。
ご褒美! 私もキングオーグ食べたい!」
子供のようにねだるその目は、先ほどまで「家族ごと焼いてきた」と言った言葉を裏付けるような、底知れない狂気を孕んでいた。
「わかった。明日、二人で行け」
「はっ」
「はーい!」
(モノローグ)
こうして、俺のささやかな平穏に暗雲が立ち込めてきた。
王宮から放たれた二つの巨大な『厄介事』。
本当の意味での「招かれざる客」が俺の店にやってくるのは、明日のことだ。
……マジで、勘弁してほしい。




