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46歳おっさんの形意拳が、異世界でチートになった 〜魔法も剣も届かない究極の拳法で、第二の人生を無双する〜  作者: 九条竜二


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202話 ダーク・オロチ




「――行くぞ!」


リュウジィが叫び、石畳を蹴り抜いた。


内功の巡りが、先ほどよりも一段深く、速い。


ニーズヘッグの指輪から流れ込む竜の力と、ファフニールの脈動が、これまでにない密度で拳の内側へ凝縮していく。


真紅と漆黒のタイガーストライプに走る金色の筋が、今までよりも鮮烈に脈打ちながら尾を引いた。


リュウジィはクラウスの間合いへ潜り込む。


炎を纏った拳を、狙いを違えず鳩尾へ、まっすぐに突き込んだ。


「崩拳ッ!!」


ドォォォンッ!!


拳がめり込むと同時に、内から弾けるような衝撃が突き抜けた。


クラウスの巨躯が、これまでとは比べ物にならない勢いで吹き飛ぶ。


石畳を転がり、瓦礫の山に突っ込んだ。


巨躯が瓦礫にめり込んだまま、クラウスは爪を突き立てて踏みとどまろうとする。


だが、力が入らない。


鳩尾を押さえたまま、片膝をついた。


「――ば、馬鹿な……この一撃で、ここまで……!?」


瓦礫の中から身を起こしたクラウスの声に、初めて動揺の色が滲んだ。


先ほどまでとは明らかに違う。


リュウジィの拳が、確実にクラウスの身体へ届いている。


「グオオオオオッ!」


苛立ちに任せて咆哮を上げ、クラウスが再び距離を詰め直す。


「――舐めるなよ、人間風情がッ!!」


漆黒の爪が、弧を描いて横殴りに振り抜かれた。


リュウジィは内功盤根の円を描く歩法で、その軌道の外へ体を流す。


爪が空を裂き、リュウジィの脇を通り抜けていった。


その隙に、タツヨが横合いから飛び込む。


「――なぶり殺しにしてやる」


「ファントムウィップ!!」


青い光を纏った高速のジャブが、クラウスの顔面へ叩き込まれた。


まるで爆竹が破裂したような音が響きわたる。


ババババババッ!


鞭のような連打が、クラウスの巨躯を揺らした。


顔面を打ち抜かれ、クラウスの顔が歪む。


だが、反撃は一瞬で牙を剥いた。


「おのれぇ! 小賢しいわ!」


クラウスの爪が、タツヨの顔面めがけて振り上げられる。


タツヨは咄嗟に上体を小さく振って軌道からずらし、爪の切っ先を紙一重でかわした。


「――くっ……!」


だが、逆手に返されたもう片方の爪が、避ける間もなく金属化した二の腕を打ち据えた。


ガギンッ、と硬質な音が響き、腕が大きく弾かれる。


タツヨは奥歯を噛みしめ、痛みを飲み込んだ。


「――いてぇな、この野郎……!」


リュウジィが地を蹴り、クラウスの死角へ回り込む。


「――そっちは、俺が抑える!」


炎を纏った掌が、外回転を描きながらクラウスの下腹部へ叩き込まれる。


「横拳ッ!!」


パアァァァッン!!


掌が下腹部に深くめり込み、鈍い衝撃が内部を突き抜けた。


「――ぐっ……!」


クラウスの巨躯が横向きに吹き飛び、石畳を数メートル滑って止まった。


よろめきながらも、クラウスは立ったまま踏みとどまっていた。


その隙に、タツヨが地を蹴り、間合いを一気に潰す。


「――もらったッ!」


拳を大きく振りかぶり、弧を描くように叩き込んだ。


「ホライゾン・ブレイク!」


ドゴッォォォォン!!


強烈な一撃がクラウスの顔面をとらえる。


骨と肉が軋む感触が、拳を伝って突き抜けた。


「――ぬがぁッ……!」


クラウスの巨躯がのけ反り、大きくたたらを踏む。


石畳を何度も踏み鳴らしながら後退し、柱に背を打ちつけてようやく止まった。


それでも倒れない。


荒い息のまま体勢を立て直し、クラウスは二人を睨みつけた。


「――小癪な連携をしおって……!」


漆黒の爪が、再び構え直される。


先ほどより明らかに動きが鈍い。


だが、瞳に宿る闘志は、まだ衰えていなかった。


リュウジィとタツヨを前に、クラウスは怒りに顔を歪める。


「――おのれ、ふざけるなッ!!」


怒声とともに、クラウスの全身から漆黒の靄が激しく噴き上がった。


その背から、これまでにない気配が立ち上る。


黒い靄の向こうで、尾がゆっくりとうねり始めた。


まるで意思を持つ大蛇のように鎌首をもたげ、二人を見下ろす。


「――闇に飲まれよ、ダーク・オロチ!」


クラウスの咆哮が響きわたった。


尾の先端が黒く硬質化し、無数の棘を突き立てた鉄塊のような形へと変わっていく。


漆黒の尾先が、禍々しい姿へと変貌を遂げた。


「――なんだ、あれは……!」


リュウジィが息を呑む。


クラウスが正面から間合いを詰める。


漆黒の爪が振り上げられた。


リュウジィは内功盤根の歩法で爪の軌道を外す。


だが、その隙を狙い、頭上から鎌首をもたげた尾が振り下ろされた。


「――上か……!」


咄嗟に跳び退る。


棘だらけの尾先が石畳を叩き潰し、破片が四方へ飛び散った。


ドガァァァンッ!!


石畳が大きく砕け、地面に深い亀裂が走る。


尾は深く石畳にめり込んだまま、抜けきらずに軋んでいた。


その一瞬の隙を、リュウジィは見逃さなかった。


地を蹴って一気に間合いを詰める。


ニーズヘッグの指輪に宿る竜の力が、拳へと収束していく。


金色の筋が炎とともに拳に走った。


掬い上げるように、顎めがけて拳を突き上げる。


「鑽拳ッ!!」


ズドンッ!!


拳が顎を捉え、クラウスの頭が大きく跳ね上がった。


脳を揺さぶられ、巨躯がぐらりと傾ぐ。


その隙に、タツヨがクラウスの背後へ回り込み、追撃をかけようとしていた。


「――もらった!」


拳を振りかぶった、その瞬間――。


石畳から抜けた尾が、軋みを上げながら横合いから振り抜かれる。


「――なにっ!?」


タツヨは咄嗟に腕を掲げてガードした。


ガギィンッ!!


棘が鎧に食い込み、凄まじい衝撃が全身を突き抜ける。


「――ぐああっ……!」


タツヨの身体が大きく吹き飛び、石畳を転がった。


「――タツヨ!」


リュウジィが叫ぶ。


「――だ、大丈夫だ……アトラスのおかげで、骨まではやられてねぇ……!」


タツヨが荒い息で身を起こす。


だが、これまでに蓄積したダメージに加え、尾の一撃が重くのしかかっていた。


二の腕に走った衝撃のしびれが抜けきらず、身体の奥には鈍い痛みが残っている。


それでもタツヨは、倒れたままではいなかった。


リュウジィは懐からナロキシンの小瓶を取り出し、タツヨへ投げ渡す。


「――飲め! 少しは楽になる!」


タツヨが小瓶を受け取り、中身を一気に呷った。


「――くっ、苦っ……! でも、効くな、これ……!」


呼吸が整い、身体の奥に鈍く残っていた痛みとが引いて、体力が回復していく。


リュウジィもまた、もう一本の小瓶を懐から取り出し、自ら口にした。


薬効が全身に巡り、削られていた体力が戻る。


「――全身に力がみなぎってきた……まだだ……!」


二人は再び構え直し、正面のクラウスと向き合った。


クラウスは全身から漆黒の靄を纏いながら、一本の尾を大きくうねらせている。


その尾先に並ぶ無数の棘が、二人へ向けられていた。


「――貴様ら、ここからが地獄だと知れ……!」



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