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46歳おっさんの形意拳が、異世界でチートになった 〜魔法も剣も届かない究極の拳法で、第二の人生を無双する〜  作者: 九条竜二


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201話 終幕、双刃




「くそ……、まさか、三人が揃って……」


「――ここからだ」


ムサシが静かに刀を構え直した。


片膝をついたまま、ヴォルグが牙を剥く。


「――くそっ、人間どもが」


咆哮とともに、ヴォルグが両腕を床へ叩きつけて立ち上がった。


二撃を受けてなお、その巨体からみなぎる闘気は少しも衰えていない。傷を負っているのは確かだが、動きに鈍りはなく、立ち上がった姿からはまだ十分な余力が感じられた。


「――くっ、まだ立つのかよ……!」


カミラが息を呑み、グレイブを握り直す。


「この程度で終わるかぁ!」


ヴォルグが吠え猛り、再び爪を振りかぶった。


「――くっ!」


ムサシが二刀を交差させ、その一撃を正面から受け止める。


ガキィンッ!!


激しい火花が散った。


爪から伝わる重圧が両腕を押し潰し、ムサシの膝がわずかに沈む。足元の石畳が軋み、受け止めた刀身が大きく震えた。


「――まだ、あんな力が残っているのか……!」


カミラが驚愕の声を漏らす。


「油断するな! 相手は魔族だぞ!」


ムサシが叫び、一度爪を弾き返す。


そのまま、一気に間合いを詰め直した。


「――かかってこいよ!」


ヴォルグが咆哮を上げ、なおも爪を乱打する。


右の爪が迫る。


ムサシが二刀で受け流す。


続けざまに、左の爪が唸りを上げて襲いかかった。


ガキィンッ!


ムサシは二刀を交差させ、再びその一撃を受け止める。


ガキンッ!


左右から交互に繰り出される猛撃を、ムサシが二刀で必死にいなし続けた。


一撃ごとに腕へ重い衝撃が走る。刀を弾かれるたび、足元が後ろへ滑りそうになる。それでもムサシは踏みとどまり、ヴォルグの攻撃を正面から受け続けた。


「私も!」


ミライが素早く懐へ滑り込む。


天性のフットワークで爪の間合いを潜り抜け、エンペラーナックルを纏った拳を叩き込んだ。


ズドォォァォッ!!


拳がヴォルグの腹部へ深くめり込む。


その瞬間、ヴォルグの巨体がわずかに揺らいだ。


「――グリップ・ファング!」


ヴォルグが即座に反応する。


拳が腹部へめり込んだ刹那、空いた方の爪がミライへと鋭く振るわれた。


「――くっ!」


ミライは体を斜めに傾け、爪の軌道から間一髪で逃れる。


鋭い爪が目の前を通り過ぎ、空気を切り裂いた。


「まだ、あの技が使えるのか……!」


カミラが唇を強く噛み締めた。


この程度のダメージでは、ヴォルグの反応速度は微塵も落ちていない。


攻撃を受けた直後でさえ、反撃の機会を見逃さない。その異常な反応速度こそが、三人の攻撃を阻み続けていた。


「――このまま押し切れると思ったが、甘かったか」


ムサシが低く呟く。


三人の疲労は、すでに限界へ近づいていた。


腕は重く、呼吸も荒い。攻撃を繰り返すたびに体力が削られ、踏み込みにも少しずつ負担が増している。


だが、ヴォルグは違った。


二度の攻撃を受けているにもかかわらず、動きに大きな衰えはない。まだ体力を残しており、三人を相手にしてなお、力強く攻め続けている。


だからこそ、三人は連携の精度をさらに高める必要があった。


「――もう一度、いくぞ!」


カミラが叫び、グレイブを大きく構え直す。


うねる穂先が鋭い弧を描き、ヴォルグの脇腹を深く薙いだ。


ヴォルグはあえてそれを避けず、自ら間合いを詰めてその一撃を受け止める。


ザシュッ!


刃が脇腹へ食い込んだ。


「――グリップ・ファング!」


刃が肉へ食い込んだその刹那、空いた爪がカミラへと肉薄する。


「――くっ!」


カミラは咄嗟に身を捩った。


爪がすぐ目の前を通り過ぎ、鋭い風圧が頬を打つ。


かろうじて直撃を躱したカミラは、グレイブを引き戻しながら後方へと下がった。


「――しつこい技だ……!」


ムサシが激しく舌打ちした。


ダメージを受けてなお、ヴォルグには《グリップ・ファング》を放つだけの力が残されている。


いや、残されているというよりも、まだ余裕すらある。


「くそ、いつまで保つんだ、あの反応速度は……!」


ミライが荒い息の合間に怒声を飛ばす。


「――絶対倒すよ!」


ムサシが地を蹴った。


疲労の重さを振り切るように、ヴォルグの懐へ猛然と肉薄する。


二刀を交差させ、渾身の一撃を叩き込んだ。


「――ッ!」


ヴォルグが咄嗟に爪でそれを受け止める。


ガキィンッ!!


火花が激しく散った。


二刀と爪が正面からぶつかり合い、凄まじい鍔迫り合いが展開される。


ムサシは全身の力を刀へ集中させ、ヴォルグを押し切ろうとする。だが、ヴォルグは真正面からその力を受け止め、さらに上から押し潰すように爪へ力を込めた。


「――終わりにしろよ!」


ヴォルグが吠え猛る。


全体重を乗せた力任せの反撃で、ムサシの刀を押し返した。


「――くっ……!」


ムサシの体が大きく後方へとよろめく。


「――ムサシ!」


カミラが叫び、グレイブで援護しようと踏み込んだ。


その隙を見逃さず、ヴォルグの爪が横合いから猛烈な勢いで迫る。


「――危ない!」


ミライが咄嗟に割り込んだ。


エンペラーナックルを纏った拳で、その爪を力任せに弾き飛ばす。


ガキンッ!!


爪の軌道が逸れ、ヴォルグの腕が大きく流れた。


「――助かった!」


カミラがすぐさま体勢を立て直す。


三人の呼吸は荒く、身体には明らかな疲労が蓄積していた。


だが、ヴォルグはまだ倒れない。


脇腹から血を流しながらも、その巨体は揺るがず、爪を構える動きにも力が残っている。


「――まだ、余力があるのか……!」


ムサシが低く唸り、刀を強く握り直した。


「まだだ……!」


ヴォルグが血走った目を剥く。


最後の力を振り絞るのではない。


まだ残る力を存分に使うように、ヴォルグは爪を構えた。


「――くらえっ!」


ヴォルグが大きく振りかぶる。


巨大な爪が、正面から叩きつけられた。


「――今だ、三人で同時に!」


ムサシの叫びに、カミラとミライが反射的に応じた。


「――もう一度、一斉にいくぞ!」


三人が同時に地を蹴り出す。


カミラのグレイブが右から。


ムサシの刀が正面から。


エンペラーナックルを纏った拳が左から。


寸分の狂いもないタイミングで、三人の攻撃がヴォルグへと殺到した。


「――ッ!」


ヴォルグの目に、ようやく焦燥の色が走る。


「――グリップ・ファング!」


咄嗟に反応したのは、正面から迫るムサシの刀だった。


ヴォルグが身体を捻る。


肩に鋭い刃が深く食い込み、肉を裂いた。


その直後、爪が凄まじい勢いで振るわれる。


ムサシは体を翻し、大きく後方へと跳んで間合いを取った。


しかし、その一瞬の交錯の最中――。


カミラのグレイブとミライの拳は、すでにヴォルグの肉体を確実に捉えていた。


グサッァァァ!!


バキィィィッ!!


カミラのグレイブが胸、ミライのパンチが顎に、凄まじい衝撃が同時に突き刺さる。


「――ぐぁあああっ!!」


ヴォルグの巨体が、たまらず大きく仰け反った。


胸を深く薙がれ、顎を強烈に打ち抜かれた身体が、衝撃に耐えきれず後方へ傾く。


「――今度こそ、終わりだ!」


三人が一斉に距離を取る。


激しくよろめいたヴォルグは、足へ力を込めて踏みとどまろうとした。


しかし、重なった衝撃によって体勢を崩し、ついにその膝からガクリと崩れ落ちた。


「くそ……、まさか、二度もあの連携を許すとは……おのれぇ」


ヴォルグが苦しげに呟く。



ムサシが静かに刀を構え直す。


「――死ねぇぇぇ!!」


地を蹴り、残された全力を注ぎ込むように懐へと飛び込んだ。


体を激しく回転させながら、一刀目でヴォルグの首筋を凄まじい勢いで薙ぎ払う。


ズバァァンッ!!


鮮血が盛大に噴き上がり、巨大な首が宙へと舞い上がった。


ムサシは回転の勢いを止めない。


返す刀の勢いのまま、二刀目が崩れ落ちゆく巨体の胸元を深く斬り裂いた。


ザシュッ!!


首を失った巨大な胴体が、轟音を立てて完全に崩れ落ちる。


ドスンッ!!


大広間の床が大きく震えた。


三人は荒い息を吐き出しながら、しばしその場に立ち尽くした。


「……終わった、のか」


ムサシが刀を下ろし、掠れた声で呟く。


「終わったよ……」


カミラがグレイブの穂先を地面につき、力なくその場に膝をついた。


「――勝った、んだよね」


ミライが震える声で呟き、拳からようやく力を抜いた。


安堵の感情が湧くよりも先に、凄まじい疲労感が三人の体を重く押し潰す。


それでも、気を抜くことは許されなかった。


大広間の反対側では、リュウジィとタツヨの死闘が未だに激しく続いている。


「――向こうも、片付けないと」


ムサシが再び刀を握り締め、その視線を巨大な獅子へと向けた。



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